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びんばっちゃまと妖精ちゃんー黒山町編ー

ちょっと昔のお話ね

「海沿いに黒い大きなボタ山が2つ その隣りには、まだ低いボタ山が1つありました。」
びんばっちゃまは静かに話し始めました。
ひなちゃんはキラキラした目をしてびんばっちゃまのお膝に座って聞いています。

石炭を掘り出す時に出る土を「ボタ」と呼んだの。
そのボタを集めて山のように積みあげたものが「ボタ山」なのよ。

ボタ山のある黒山町は炭鉱町です。
海沿いに炭鉱で働く人達が暮らす大きな社宅がありました。
バスに乗って「社宅入り口」のバス停で降りると川を渡る橋が2つありました。
1つはコンクリートの橋、もう1つは吊り橋みたいな古い橋で、足もとの木の板が所々
割れたり穴が空いてたりして歩くと揺れるし、下を覗くと暗い川面が見えます。
子どもたちはドキドキしながら渡るのでした。

町の人達はこの橋のことを親しみを込めて「ガタガタ橋」と呼んでいます。

ガタガタ橋を渡って真っ直ぐ歩いて行くと社宅が見えてきました。
社宅の入り口には大きな石の門があって右がわの石に「黒山社宅」と上手な字で彫ってあります。

さっちゃんは黒山小学校の3年生 名前は、もりやまさちこ。
お友だちは「さっちゃん」と呼んでいます。
さっちゃんのお父さん、お母さん、親戚のおばちゃん達からは「さち子!」
と強めに呼ばれます。

(本当は「サーヤ」って呼ばれたかと。弟と妹は、ねえちゃんて呼ぶばってん
「お」ば付けてほしかとよ「お姉ちゃん」て呼ばれたかと)

さっちゃんの家は黒山社宅の1街区にあります。
社宅の門から近いし社宅の銭湯にも近くてとても便利のいい場所です。
さっちゃんには、年の離れたお兄さんと2人の弟、それから小さな妹がいます。

お兄さんは、さっちゃんのお父さんの前の奥さんとの子どもでした。
お兄さんは、お兄さんのお母さんと葉っぱ島で暮らしていましたが町の学校に通うためにさっちゃん達のお家で暮らしていました。
お兄さんはとても賢く優しい人でした。さっちゃん達とよく遊んでくれました。
いとこのタカちゃんのことも抱っこしてくれます。

お兄さんの事情はさっちゃんにはよく分かりませんでした。
(お兄さんは、父ちゃんが同じなら兄妹たい!問題なかと。
お兄さんは父ちゃんの事ば「オヤジ」て呼びよんなさる。みんなに優しかお兄さんが
おらすとウチ達は嬉しゅうなると)

ある日、優しいお兄さんは、さっちゃんのお家を出て、遠くに行ってしまいました。
さっちゃん達は、お兄さんは用事が済んだら帰って来ると思っていたので心配してませんでした。

さっちゃんが中学生になっても、お兄さんは帰って来ませんでした。
さっちゃんはとても寂しくて悲しくなりました。

(なんし、お兄さんは帰ってこらっさんとやろか ウチ達がやかましかけん帰ってこらっさんとやろか…)

それから何回もお正月をお祝いしましたが、お兄さんはお正月もお盆も帰って来ませんでした。

もう、誰もお兄さんの事を話さなくなりました。

さっちゃんは、時々お兄さんを思い出して悲しい気持ちになりました。

さっちゃんは、お父さんが、縁側に座って泣いていた事を知っていました。

                          つづく

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