見出し画像

びんばっちゃまと妖精ちゃんー黒山町編2


子ども達はさっちゃんが大好きです。 さっちゃんが小学校から帰って来るのを社宅の門の前で待っているのです。
「サチコ姉ちゃんはまだかなー」
1街区の真ん中の棟に住んでいるよっこちゃんとあっこちゃんは保育園も幼稚園も行っていないので毎日さっちゃんの帰りを楽しみに待っているのです。
「サチコ姉ちゃんは、どこに行かしたと?」
「がっこうたい 小学校たい オレでん来年は学校いくとぞ。 小学生は忙しかけん
ちびとは遊ばれんけんね」来年の春、ヤスくんは黒山小学校の一年生になります。

「えー よかねー ウチたちでん学校行きたかー 
あと何回ねると学校に行かれると? 」
「えっっとー 100回ぐらい寝ると学校たい」

ヤスくんは社宅中にファンを持つよか男でした。外国の人のような顔をしていましたので、それはそれは美男子で、女の子たちだけでなくおばちゃんたちのアイドルでした。
どんな素敵な大人になるのかと社宅中が期待していました……俳優さんやろかね


さっちゃんはよく社宅の小さい子達の面倒を見てあげるのでおばちゃん達に感謝されています。
忙しいおばちゃん達に代わって子守りをしたり銭湯に連れて行ったり宿題を見てあげます。
この忙しいおばちゃん達はよく立ち話をします。
1号棟と2号棟の間に立つ大きな銀杏の木の下でおしゃべりします。
長い時はI時間くらい喋っているのに、自宅によんだり呼ばれたりしません。
社宅の家は狭くてゴチャゴチャと物が溢れているので、誰も「家にあげてくれんね」とも、「うちに上がらんね」とも言いません。
ですから銀杏の木の下はおばちゃん達のサロンなのです。

おばちゃん達は銀杏の木の下のサロンで、よく他人の噂話をしています。
今日は、痩せっぽちのおばちゃんと太った腹をサロンエプロンで隠しきれていないデブッチョおばさんが、左手の指3本で頬っぺたを支えて右手は左腕の脇の下に固定し安定のポーズで喋っています。

さっちゃんはこのおばちゃん達はあまり好きではありません。
(こんおばちゃん達は、誰かの噂話ばーっかりしよらすたい)

「2街区の3軒目の家の旦那さん、 嫁さんに逃げられたげなよ」
「なんし??あげーん優しか旦那さんがね? 背も高かし顔もハンサムたい
ああ モッタイナカ」
おばちゃん達は口に手をあててコソコソ喋っていました。

そのおばちゃん達の子どもたちと遊んでいたさっちゃんは言い放ちました。
「男はハンサムだけでん 優しかだけでん 真面目だけでんダメたい!
 少しばっか悪かところのあるくらいがよかとよ 」
おばちゃん達は思いました。
(恐るべし 小学3年生だ)

「母ちゃんの手伝いばせんとでけんけん うちは帰ります。お先に〜
おばちゃん達もご飯ば作らんならんとやろ 早よ帰った方がよかですよ〜」

さっちゃんは小さいおばちゃんのようでした。

痩せっぽちのおばちゃんは、家で「大島紬」を織ってます。
機織りは、さっちゃんのお母ちゃんやら社宅の奥さんたちも織っています。
「大島紬」は誰にでも織れるわけではないそうです。
機織りの中でも特に上手な人にしか「高級大島紬」のお仕事の依頼は来ないそうです。

さっちゃんは学校で、お母ちゃんたちが織っている「大島紬」は日本が誇る伝統工芸品で、世界三大織物に数えられている。と習いました。
その日から、さっちゃんは機織りをしているお母ちゃんを誇らしく思っているのです。

母ちゃんたちは、子どもたちの学校行事とかお祝い事とかで、まとまったお金が必要になった時には、張り切って機織りの仕事を引き受けます。
大島紬は高級品なので「イッピキ」織りあげると高い織り賃を受け取ります。
痩せっぽちのおばちゃんは、織り方や糸の扱いで困った時にはさっちゃんのお母ちゃんに教えてもらいに来ます。「アンニャー😭 教えてください」
そんな時さっちゃんは痩せっぽちのおばちゃんをジーッと見ます。 
                           つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?