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世界の雑貨屋に『銭天堂』という名の駄菓子屋スペースがある理由。

世界旅のついでに買ってきた珍な雑貨を売る『茶舗 de la música (チャポデラムジカ)』という地球直売所のような雑貨屋があるのは愛媛県松山市にある小さな港町三津浜。
店の前の辻は小学生の通学路にもなっていて、毎朝毎夕子供らの声が響く。

今から書く話は2年前の出来事のお話し。

ある日。
3年生くらいの子供らが数人、切羽詰まった顔してやって来たと思ったらこう言った。
「キャンベルさんっ!駄菓子屋やって下さい!」
「小学校の近くにあった駄菓子屋がやめちゃって!」
「ぼくたち、行くとこなくて困ってるんです!」
「絶対買いに来るから駄菓子屋やってください‼︎」
通学路に店がある定めか、すっかり子供らに懐かれている私に懇願する子供たち。
なぬ〜!駄菓子屋〜⁉︎
とは思うものの。
私も鬼じゃないから。
へぇへぇ言いながら
「じゃぁ、3月3日から駄菓子屋オープンするわ。」と受け答えると
「2日が遠足なんで1日からにしてください〜涙」と必死なのでまたへぇへぇ言いながら受け応えた。

駄菓子屋オープンの3月1日。
三津浜小学校では「キャンベルさんのお店で駄菓子が買える!」という噂は瞬く間に広まっており、西から東から、ほんとに子供らがわらわら集まってきたのには驚いた。
その中の一人の女の子があるものに気づいて叫んだ。
「あ〜!銭天堂って書いてある‼︎ここ、銭天堂だ!」
叫んだのは小雪ちゃん。

世界の雑貨屋の駄菓子スペースを本家の銭天堂に無許可で『銭天堂』にした理由は小雪ちゃんの夢の話しから始まった。

よく茶舗(チャポ)に遊びにくる(当時小3。いま小5)小雪ちゃんが私にしてくる話しは、くるくる回るメリーゴーランドのような楽しさがある。
この日はこんな具合だった。
理科が得意な小雪ちゃんは将来東大か京大に行って理科をめちゃめちゃ勉強する。
お菓子(駄菓子)になにを混ぜたらどんな味にあるのか研究する。
酸味を効かすには。
辛味を感じさせるには。
研究に研究を重ね、駄菓子屋さんになるらしい。
駄菓子屋の名前は『銭天堂』。
そこの駄菓子屋は買うお客さんに合う駄菓子を売るそう。
落ち込んでいる人が食べたらハッピーになる駄菓子。
明日試験がある人には頭が冴える駄菓子。
「フーセンガムをふくらませて、空気に触れた部分が飴になってパリパリ食べれるのもよくないですか⁉︎」
ほんとうにあったら絶対売れる夢のような駄菓子の発想がまるでメリーゴーランドだ。
そんなお菓子を1円や5円で売る。
安い理由は、買えない子がいたら可哀想だから。

よくよく話しを聞くとどうやら『銭天堂』という本が出ているらしく。
その本の中には紅子という恰幅のいいおばあさんがそういう駄菓子を売っているそう。
飲み方や食べ方を言われた通り食べるとハッピーになったり、頭が冴えたりする。
ただし、欲張った食べ方をするとたちまち不幸に…。
(子供相手に迷惑な駄菓子屋やなぁ〜。まるで『笑うセールスマン』の喪黒福造じゃないか…)と心の中で呟いた。
妄想混じりめいた夢を語り続ける小雪ちゃんは最後に力強く言った。
「あの本の通りになるのか試してみたいんですっ!」
「夢を叶えたいんですっ!」

子供たちが「駄菓子屋をやってください!」と懇願しにきた日、駄菓子スペースの名前を、小学3年から東大か京大を狙っている小雪ちゃんの、もしかしたら今だけかもしれない夢を「忘れないでほしいなぁ〜」とかそんな刹那も含め、本家の銭天堂に無許可で『銭天堂』にしたのだ。

『銭天堂』の名前に気づいたさすがの小雪ちゃんに
「将来ここで銭天堂したらいいよ。」と、小雪ちゃんの夢に便乗したくせにかっこいいこと言ってみせるとやはり素直な小学生
「はいっ!私絶対ここで銭天堂しますっ‼︎嬉っしい〜♪」と飛び上がって喜んでいた。

でもさぁ…。
これさ…。
『落ち込んでる人が食べたらハッピーになる駄菓子』とか…
『明日試験がある人には頭が冴える駄菓子』とか…。
それあんた
捕まるやつちゃうの…?
白い粉使っちゃう?
ギリギリ合法?

そして『銭天堂』を始めて2年。
海からの秋風が今年はまだ暖かく、冬の寒さが苦手な私にとっては嬉しい秋日和。
初めて来店した小さな子供が、店の中をグルリと見渡したあとキラッキラした目になってお母さんにこう言った。
「ここ!銭天堂だ!」

『子供の夢に便乗』は私にも夢を見せてくれる。


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