優駿牝馬

おい、これちょっと飲んでみろよ。
現在地、三次会。
一次会でたらふく食って、二次会でおねえちゃんと話ながらカラオケを歌って、翌日が休みの日は、決まって三次会は上司の家だった。
上司は単身赴任だったから寂しかったのか、それとも自分たちのことをとてもかわいがってくれたのか分からないが、決まって最後までついてくる部下は、自宅に招待してくれた。
そのとき上司は40代。自分は20代で、飲み会もおねえちゃんも好きだったんで、誘われた飲み会は冠婚葬祭以外は断らないという精神で皆勤賞だった。そんな自分を上司はかわいがってくれました。
そんな上司が、おい、これちょっと飲んでみろよと、出してくれたのは、円筒状の包装から出されたシングルモルトウイスキー。
ストレートで飲んだ後、どうだ?と。
正直、消毒液みたいな味がした。消毒液は飲んだことはないが、あまり好きにはなれないのかもとは思いつつ、若い自分は、いやー、うまいっす。香りが違いますね。と分かったふりをしながら味わった。
それから時は流れ、その上司も定年を向かえ、自分は上司と同じ年頃となった。
今でもシングルモルトウイスキーの香りのよさは分かったような気がしても、なかなか味の良さが分からない。それでも、何かのタイミングで1人、バーとやらに行ったときは、背伸びして飲んでみたりしている。上司があのとき、自分に教えてくれなければ、ここまで飲み続けることはなかっただろう。いつか、この深みが分かるようになるのだろうか。
このように、好きだったり、好きになりたいと思うものはなかなかうまくいかない。考えすぎるのか、力が入りすぎるのか、こりすぎるのか、そして、大切な人には必要以上にきつくあたってしまう。
具体的に言えば、囲碁、ゴルフ、そして競馬。好きでうまくなりたいものはなかなかうまくならない。
家族。大切にしたいのに、好きを伝えられない。みんなそうなのかな。
シングルモルトウイスキー。
これを飲ませてくれた上司は、飲ませてくれたときのポジションよりも昇進することはなかった。部下には慕われていたが、上司には評判が悪かった。

自分もその上司と同じくらいの年代になり、今のポジションはその上司よりも上にはなった。それでもまだ、シングルモルトウイスキーの深さは分からない。

日本でもウイスキーは多く作られていて、今では相当な値段がつくものがある。
自分の口に合うジャパニーズウイスキーは、ブレンデッドウイスキーで、それは、血を重ねてつなぐサラブレッドのよう。
ジャパニーズウイスキーの樽は、ミズナラやホワイトオークが使われているらしい。
そう、水と白。
きょうだい、お互い言葉をかわさずとも、馬を通して心を通じ合わせることできる人達がいるらしい。
そんなうらやましいきょうだいの兄は、明日の15:45ころ、弟が手塩にかけた傑作たるコーシローズモルトで酔いしれる瞬間を味わうことになるのだと。
買い目は、三連単一点。
1ー6ー2。
ジャパニーズウイスキー、ジャパニーズオークスに敬意を込めて。

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