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福井の蕎麦について語ってみる

 以前福井のそば屋を取材して歩き、1冊の本にまとめたことがあった。ずいぶん昔の事なので、閉めてしまったそば屋さんもあるし、新しく出来たそば屋さんもある。取材で断られたそば屋さんもあった。私が歩いた頃で、嶺北では350軒くらいはそばを出す店があり、そのうちの130軒ほど歩き、写真を撮り店主の話を聞いて100軒を紹介したのだ。いまは、どれくらいあるのだろう。
 その時に感じたことや、知り得たことを少しまとめてみたいと思うのだ。当時は蕎麦についての文献もちょこちょこ漁ったが、ここでは書かない。ご自分で調べてみれば面白いと思うので。

その1 福井のそばについて


 東京の蕎麦を食べなれている人なら面喰うのは、福井の蕎麦は黒いということだ。昔はそば粉を製粉するときに「がら」を取り除く技術がなく、そのまま挽いたために黒くなってしまうのだ。
 東京、あるいは江戸なら信じられない事だろうと思う。粉ひきは技術であり、職人にとって「がら」を入れることは考えられない。殻やその内側の鎌皮を取り除き、白い粉を作り出すのだ。それが更科粉であり蕎麦は白くなる。
 福井では蕎麦は上品な物ではない。五穀に入らない蕎麦は税金のとられないような作物なのだ。腹が減っても米など食えない家庭では蕎麦を食べたという。家庭でそば粉を挽いたのだ。「がら」が入っても気にしない。かくして東京でいう田舎蕎麦、黒い蕎麦が生まれた。
 実は栄養豊富で蕎麦の香りがぷんとする蕎麦で私も好きなのだが、近年では製粉技術が発達したせいで製粉所では白いそば粉が挽けるそうだ。しかしそれでは福井では売れないためわざわざ食べれる炭を入れて黒くするのだ。
 製粉技術について少し触れるけれど、昔は十割そばは難しかった。製麺しても切れてしまうため、2割のつなぎを入れて切れにくくする。それが二八蕎麦と言われるものだ。十割蕎麦を打てるということはよほどの名人だったのだ。
 しかし、近年製粉技術の発達で十割蕎麦を切れにくくする粉が出来た。ある程度の技術があれば十割蕎麦は打てる時代になったのだ。だからお店で十割そばとどーんと書いてあっても、それは蕎麦打ちの技術があるわけではなくそういうそば粉を使っているだけかもしれないのだ。
 要は味である。二八でも十割でもどちらでもいい、自分が美味しいと思えばそれでいいんじゃないかと思う。二八のほうが好きだよっていう人だっているのだから。

つづく

 

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