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【短編】働く男

まったく俺は上司に恵まれていない。
こんな時間に呼び出されるとは…。

そういう類の仕事だから諦めていたのだが、何年も続くとウンザリするのだ、多少給料が少なくても楽で拘束時間の短い仕事がうらやましくなってる自分がいる。

銀行の残高もまあまあ貯まったが、使う暇も無くいい歳なのに彼女も出来ない。

何のために働いているのか解らなくなってきた。

「とても大切な仕事で誰にでも出来るもんじゃないんだ。」上司はそう言って俺に発破をかけるが体調も良くなく痩せ細ってきた。
こころなしか制服も汚れて見える。

よし!決めた!
この仕事が終わったら有給申請してダラダラするんだ!いや、南の島でバカンスもいいな、新たな出逢いがあるやも知れないし…。

…ふっ〜、大体荷物が多いんだよ、そりゃあ全部デジタル化しろっとは言わないがスタバやドトールでノートパソコン開いている奴等が羨ましいよホント。
汚い制服も伝統。
重い荷物も伝統ってか。

まぁこの仕事はある程度予想ってか決まっている事を黙々とすすめるのだが、やはりイレギュラーってものが発生する。
それを臨機応変にマンパワーで解決しなければならないからこんな時間に駆り出されたりする。

文句ばっかり考えてるうちに現場に着いたようだ。

そこには混乱する一人の男が居た。
「…何でこんな所に俺はいるのか?」
独り言を呟き、空を見つめている。
俺は決まった台詞を淡々と喋る。
「オマエは死んで肉体は灰になった」
「私は死神、オマエを迎えにきたのだ!」

そう言って重い大鎌を振り上げ現世との因果を断ち切る。

「ヒィ〜!恐ろしいっ!」男は俺を見て叫んだ!

何て失礼なやつだ。
ちゃんと説明責任を果たしたし、汚れた黒マントについては俺だって新デザインにリニューアルして欲しいと思っているのにだ。
重い大鎌もオマエの為に必要だってのに報われない。

死神になんかなるもんじゃない。

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