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【シーズ編】 嘘ライブ『曖昧な合間』ライブレポート & 新曲インタビュー(4,889字)


ライブレポート

 
 楽曲の話をせずしてシーズを語ることはできない。なぜならば、彼女たちの楽曲こそが、彼女たちが目指す高みを表現しているからだ。

 2人組のうちの1人・緋田美琴は、元々、ダンスや音楽など多彩な才能を活かし、プロとしての地位を確立していた。ところが対照的に、もう1人のメンバー・七草にちかは、その「ひねくれた物言いが高校生にしては面白い」くらいしか目立つところのない、どこにでもいる高校生だった。

 シーズがユニットを結成したとき、業界からは批判の声が上がった。特に、同業者からの評価が高い緋田に対し、ど素人であった七草とユニットを組むことは、客観的に見てメリットがあるように思えなかったためだ。
 そのあまりのアンバランスさに、当初は「ダイヤモンドと石ころを並べて見せられているような気分」といった評価すら多かったのは有名だ。
 真相は疑わしいが、事務所絡みの話に巻き込まれた緋田が、仕方なく素人と組まされたのではないかとすら噂されたほどである。その余波は、当然ながら彼女たちの活動に影響を与えたであろう。

 ところが、2人の間にあったはずの大きな隔たりは、時間の経過とともに、いつの間にか心地よく混ざり合っていった。本来は相容れないはずの2つの色、緋田の洗練されたプロフェッショナリズムと、七草の生々しい素人感が不思議と調和していった。彼女たちにとって心地のよいバランスを、少しずつ獲得してきているように思える。

 2人の間にどういったストーリーがあったのかは、筆者の知るところではない。しかし、少なくともデビュー当時のパフォーマンスと見比べても、互いが互いを信頼している様子が伺える。
 結成した当初から、実力のみでなく、意識の差が明確にあった2人だからこそ、研ぎ合うようにして内面ごと向き合ってきたのではないだろうか。

 さて、一度でも良いパフォーマンスを見せられると、すぐに手のひらを返されるのが俗世の常である。悪評が目立っていたシーズの評価は、もはやうなぎのぼりだ。一時は互いにソロでの仕事に明け暮れていたようにも思えたが、最近では、2人が並んでいる場面を見かけることも珍しくなくなった。

 特に、七草の成長については著しいものがある。天性の末っ子キャラといい、歯に衣着せぬ物言いといい、彼女がもともと持ち合わせていたバラエティ方面での嗅覚はもちろんのことだが、まったく経験がないというダンスや歌のレベルもまた、格段に上がってきたように思わせてくれる。

 インタビューにて後述するが、専業で活動していた緋田とは異なり、七草は学生生活はもちろん、アルバイトもこなしつつ、アイドル活動にも勤しんでいるという現状だ。
 はたして、どのような土壌の中で育ち、どのように時間を捻出してここまで到達したのだろうか。そこには血の滲むような努力があったことが容易に伺える。

 緋田のパフォーマンスは、すでに単独で活動を行なっていくに値するほどだ。一方で、ただの素人高校生だった七草が成長し、隣に立ち続けてくれたことで、緋田の中にも何かしらの変化はあったのだろうか。

 かつて2人の間にあった強固な「合間」は、今や消失してしまった。背中合わせの彼女たちは、その隔たりを超えて一層成長し、互いを支え、互いに影響を与えながら、さらなる高みを目指していく。




インタビュー


─ ライブ後、にちかさんのパフォーマンスレベルが上がったと話題になっていました。

にちか:え〜!? そんなことないです! 美琴さんが、 私の技術レベルに合わせて上手にフォローしてくださっているので、そう見えてるだけなんじゃないでしょうか!

美琴:・・・。にちかちゃんには、私がにちかちゃんのフォローをしているように見えていたの?

にちか:え? …あ、いえ、その…。

美琴:私、ライブのときってすごく集中しちゃうから。それだけ、自分にとって最高のパフォーマンスを出し切っていたつもりだったんだけどな。

にちか:あ、いえ! その、そういうわけではなくてですね…。私に合わせてくれているとかっていうより、美琴さんが3倍アピールしてくれてたから、みたいな…!

美琴:ふふ。冗談。

にちか:え、えぇ〜!?

美琴:ライブ中、にちかちゃんのフォローに回らなくちゃ、なんて全然考えてなかったよ。それぐらいによくできていたし、だから、私も私のパフォーマンスに最大限集中できていたと思う。


─ 今までよりさらにパフォーマンスに磨きがかかっていたように見えました。ライブに向けて、集中レッスンをされたと伺いましたが。

美琴:にちかちゃんのご自宅に伺って、 『秘密の特訓』をしていました。


ご自宅で、ですか?

にちか:たいした家じゃない…って、実家に住まわせてもらっている私が言うのも変なんですけど、「レッスン」って言えるようなことができる場所ではないです。美琴さんが来てくれて、ちょっと合わせの確認に使ったくらいで。

美琴:でも、あのレッスンがあったから、私、筑前煮が作れるようになったんです。


筑前煮・・・?

美琴:にちかちゃん、 高校生として学校に通ってて、アルバイトもしていて。すごく忙しい合間を縫ってアイドルをやっているのに、お家のことも全部できるくらい、生活能力が高いんです。

にちか:み、美琴さん!

美琴:・・・? 話さないほうが良い?

にちか:そうじゃ、ないですけど…。


ぜひお聞かせいただければ・・!

にちか:・・・特別ですからね!ほんと、特集記事レベルです!

─ ありがとうございます。丁重に書かせていただきます。

美琴:私は若いうちから、それこそ、にちかちゃんよりもずっと小さい頃から、ダンスや歌に触れられる時間や環境があって、パフォーマンスの事ばっかり考えていたんです。もちろん、食事とか家事とか、パフォーマンスに影響するようであれば最低限こなしますけど、それ以上に「生活」っていうものについて真剣に考えたことがなかったんです。そういう意味でにちかちゃんは、生活していくことが上手で。なんというか…、地に足をつけて日々を過ごしているように思えて。私ができないことをすごく器用にこなしていたんです。何か料理を作ることもそうですが、そのために、どこのスーパーで何を買うのかといったところから、今日のことをちゃんと終わらせるために、どういう段取りをするのかといったところまで。もちろん、にちかちゃんの暮らしぶりを見てきたわけではないから全部はわからないけれど、たとえば、私がパフォーマンスのために毎日ルーティンを組んでいるように、にちかちゃんはきっと、毎日生活していくためのルーティンを、ずっと続けてきたんだろうなって。そういうことが、にちかちゃんのご自宅にお邪魔させてもらったことで、すごく見えてきたんです。

にちか:・・・。


─ 美琴さんからの言葉を受けて、いかがでしょうか。

にちか:私は・・・。美琴さんがすぐ隣にいて、それも、圧倒的な実力差もあって、そういう中で、たかが自分の生活を理由にして、パフォーマンスで足を引っ張ってしまう、なんていう事は絶対にしたくないなって思っていたんですけど。 それでもやっぱり、どうやっても埋まらない部分とか、やりようのないこととかがたくさん出てきてしまった時期があって。 そういう時、本当は一番大事にしなきゃいけないのに、美琴さんに追いつきたいっていう気持ちを見ないようにして、自分がちょっとだけ得意なことを生かして、 別の場所でなら、美琴さんにも負けてないかも、なんていうふうに思うようにしてました。 でも、それはやっぱり、自分が本当にやりたいこととか、シーズとして求められていることとか、本当に認められたいことから逃げていたんだなって、少し経ってから気がついて。私、バカなので。そういうの、間違えてからじゃないと気がつけないんです。だから、今思えば、なんであんなことしてたんだろうって思うようなことなんですけど、結果的にやるべきことをやらずにいた時期があったから、私がやらなくていいこととか、私がやらないといけないこととかもわかってきました。私、シーズなので。シーズの七草にちかは私しかいないんですよね。ほんと、何やってたんだろうって思いますけど、美琴さんのパートナーとしてステージに立ちたいんだっていうことに、しっかりと向き合う機会になったと思っています。




新曲について


01. Vibrant Reflections


歌い出し「ハイブランドで固めた fancy girl」というところに矛盾が表現されているような印象がありますが、この曲についてはどういった解釈をされていますか?

美琴:私たちが行っているアイドル活動、パフォーマンスは、どこまでいっても、本質的なものにはなりきれないんじゃないかな、と思うことがあります。というのも、「下駄を履かせてもらっている」という表現が正しいかは分かりませんが、衣装や照明、ステージもそうですし、楽曲も提供いただいているものだったりしますし、そういう全部を含めて、すべて私たち自身の努力というより、着させてもらっているようなものだからです。もちろん、ショーとして最高のものを提供するための訓練を怠るつもりはありませんが、こういった葛藤をなくす事は、きっとアイドルを続ける限り、できないものなのだろうと思います。作詞の方も、その部分をしっかりと表現してくださったんじゃないかな、と私は感じています。

にちか:「不安にさせない 磨き上げた style また自ら壊して try and try」っていう歌詞があって。美琴さんにはすごく合ってるなって思うんですけど、私はまだまだ、応援してくれている人とか、スタッフさんたちのことを考える余裕もないし、正直、こんな子供みたいなのをステージでうろうろさせていることで、不安にさせてしまってるんじゃないかなって思ってしまうときがあって。偉そうに「磨き上げた style」って歌ってますけど、磨き上がる前に崩れちゃって、流されるままに次のことに挑戦しちゃってる、みたいな。でも、泣き言ばっかり言ってないで、やっぱりここまでずっと、美琴さんの横に立たせてもらえてきたっていうことは、絶対、プライドにしていきたいですし、していかないと、全員に失礼だなって思うようになってきました。



02. Blink Moments


美琴:意図的にそうなったわけでは無いのですが、結果として283プロに所属していて、「翼」という単語がアイドルとしての活動をしていくうえでの指標になってきているような気がしています。それはもちろん「羽ばたいていく」というポジティブな意味でもありますが、一方で、羽は少しずつ、時間とともに確実に失われていくものであるということも痛感しています。いつまで飛んでいられるんだろうと思うときありますが、曲名にある通り、ステージに立つ瞬間だけは、瞬きもできない、まばゆくて、美しい光景をお見せできたらと思っています。少し刹那的に思われるかもしれませんが、私にとってステージに立つということは、そういった刹那的なことなんだなと思わせてくれたのがこの曲でした。

にちか:美琴さんは褒めてくれましたけど、私はどうしても生活のほうに片足を置いた状態で日々を過ごしています。それはすごく悔しいし、もっともっと、ああしたい、こうしたいって気持ちがたくさん浮かんでくるんですけど、最近、美琴さんから、私がしているパフォーマンス以外のことについても、「生活」っていう大切なものなんだっていうふうに言ってもらって。それと、これも美琴さんが言ってくれたこと・・・を、私が勝手にそう思ったっていうことなんですけど。アイドルはきっといつまでも続けられるものじゃないし、いつかは何もなくなって、違う何かをしながら、毎日スーパーに寄って帰って、ご飯とお味噌汁を作って食べる生活に戻っていくんだと思いますけど、そういうものも本当は、刹那的で、ライブみたいなものなんじゃないかなって思ったりもしました。


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