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始発

大学3年生の冬、都内の友人の家から田舎の実家に帰るために始発に乗った。
別に朝まで飲んでた訳でもなく、ただ何となく朝焼けみたさで。俗に言うオールと言うやつかもしれない。

都内から家までは2時間半程度。長い電車の中でまだ暗い空を眺めながら手頃な曲を聴きながらゆられる。

帰路の中で気づいたことがある。
それは、意外と始発に乗っている人が多いということだ。昨日を終えて眠っている人や、今日が始まっていてネクタイをしっかり結んでいる人、単語帳をひらいている学生。それぞれがそれぞれの人生を生きているんだと思った。

雲の隙間から朝日が見え隠れする頃、だいぶ家に近づいた場所にいた。田舎なだけあって広がる田畑には霧のようなモヤがかかっていて寒いことは見るだけで伝わってくる。そんなモヤからなにか不思議なことが起こりそうとか、異世界に行けそうとかそんなことを考えながら褪せた黄緑色のシートに座っている。

電車を降りる頃、今日が始まったと確信するほど太陽が顔を出していた。それはそれは綺麗でピンクと青でグラデーションになっている空に雲が少し浮かんでいた。駅を出ると、黄色い帽子をかぶって、まだ身の丈に合わないランドセルを背負った小学生の群れが登校をしていたり、明らかに寝起きなんだろうなという格好でゴミステーションにゴミを出しに行くおじさんがいたり、いかにも朝だと感じさせるような光景が広がっている。

それぞれの人が今日を生きている。例に漏れず自分も。そしてあなたも。

色んなことが交錯して単純なことすら分からなくなるような社会で、唯一の絶対はもしかすると朝が素晴らしく綺麗で愛おしいということかもしれない。

この日の太陽がいい加減空に登った頃、布団の中でそっと目を閉じた。

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