守備トレンド?

最近見たいくつかの試合で行われていた守備の形なので、もしかしてトレンドと言えるのかも。
ショートパスばかりのチームには大体刺さるのでは。


■その守備方法

方法自体は複雑なものではない。

①攻撃側が後方でボールを持っているとき、守備側は相手の中央に位置する攻撃側の選手(図の白エリアの部分)にパスを出させないような配置を取りながら、ボールホルダーにロングボールを蹴らせないようなプレッシャーをかける。

②すると攻撃側は空いているサイドのスペースからの前進を図る。

③サイド後方でボールを持っている攻撃側選手に中側を切りながらプレッシャーをかけると前方への縦パスを選択する。

④攻撃側がサイド後方からサイド前方への縦パスを行うと、受け手はどうしても後ろ向きに近い形にならざるを得なく、そこで守備側が前方へのプレーを制限するような守備位置に立てれば、中方向への横パスまたは後方に戻すパスの選択肢だけになる。

⑤後方に戻すパスは③でプレッシャーをかけた守備側選手が蓋をするような形になり、実質横パス一択になる。

⑥攻撃側の縦パスが発生する頃には守備側はボールサイドに人数をかけておき、その横パスをメインに狙って奪う。

というもの。
すごく短く言えば
『サイドの縦パス誘導からの中への横パスかっさらう』

ポイントは
『サイドの選手から直接奪うのではなく、サイドから中に入ってくるボールを奪う』
こと。


■単純だけど効果的

このやり方の何が効果的なのか。
それは、「中方向への横パス以外逃げ道ないよね」の一択を作って狙えるところ。

その仕組み。
・後方の選手はリスクを冒して、強引にドリブルで突破したり、自分のポジションを離れて大きく横方向にドリブルしたり、はしづらいので、パスを選択することになる。
・守備側が中央へのパスコースを完全に切れれば、攻撃側は空いているサイドから迂回するかロングボールを前線に蹴り込むしかない。
・サイドはプレー可能な方向が180度しかないため逃げ道が少なく、横方向を切ると縦しかコースがなくなる。
・サイド後方→サイド前方で縦パスが発生した際、守備側のプレッシャーにもよるが受け手は後ろ向きになりがち=そこから前を向いてのドリブル突破は難しく、パスの選択肢はバックパスで戻すか中への横パスしかなくなる。
・サイドの選手、特にSBは大体利き足側のサイドを担当していることが多いが、その場合、後ろ向きでパスを受けると、中に横パスするには利き足とは逆の足でプレーすることになり精度が下がる。
・横パス、しかも中方向へのパスを奪うからカウンターしやすい。(多くの場合、横パスはカットした時点で、出し手と受け手の2人を置き去りにしている。サイド方向に向かって奪うと、奪った後すぐにボールを動かすことが難しい。)
・サイドで縦に進ませていいので、ショートパスをそのまま追いかけるような守備になり移動負担が少ない。


■実行が簡単ということではない

効果的だからと言って無敵なわけじゃないし、方法を理解できるからといって誰でも簡単にできるものでもない。

まず誘導の部分。
・攻撃側の後方の選手がボールを持っている際に、守備側が中央へのパスを封じられなければ、そもそも成立しない。おそらくこれが一番難しい。
・攻撃側がショートパスばかりのチーム、または守備側がショートパスしか蹴れないように誘導できる、という条件が必要。

そしてサイドで縦パスを出させた時。
・縦パスが入る瞬間に前を向かせない位置で前を向かせない守備ができるか。できなければ縦突破やDFライン背後へのパスの選択肢が出てくるので、横パスを狙いに行けない。
・縦パスが入った後、受け手を後ろ向きにさせていても、横パスを塞ぐ位置を取れていなければ、逆サイドに展開されたりして、人数をかけたエリアで多くの守備側選手が置き去りになってしまう。
・縦パス後、攻撃側がショートパスではない味方を一個飛ばしたパスなどを選択して実行できる場合に、そこへの対応が出来ていないと、同じく置き去りにされる。

その他条件。
・基本的に攻撃側のパス回しのスピード(球速+精度+タイミング)に守備側がついていくことが出来なければ、そもそもサイドにボールが出た際にスペースを潰していく前に逃げられる。そうなると、人数をかけようと寄ってきている最中に別の場所にボールを動かされるので逆にピンチを招く恐れがある。
・この守備方法はゾーン2(ミドルサード、ハーフラインをまたいだ場所でのやり合い)の話で、ゾーン1(ディフェンディングサード、守備側の自陣深い位置)まで行かれていると、ゴールがある中央の守備を優先したポジションになるため、サイドへのプレッシャーも遅れるので相手を後ろ向きにさせることは難しいし、その位置であればパスではなく強引な突破の選択肢があるので予測しづらく、さらに自ゴール前を優先した守備なので攻撃側からしたらバックパスでの逃げ道も豊富、そしてなにより中へのパスを誘導することはリスクが大きすぎる、ということでゾーン1での実行は難しい。

上記にもいくつか出てくるが、結局は相手がいるスポーツであるサッカーなので、自分達の守備能力だけでなく、攻撃側と守備側のそれぞれが持っている能力、それとその時の状況によって可不可が決まる。
なので守備側能力の一つとして、守備側のフォーメーションも対戦相手によって変えたり応用できるようにしておかないと、例えば1トップの守備だと後方中央(ハーフスペース)からの前進が簡単になってサイドに誘導出来なくなったりする。
また、試合展開や局面の状況によっては違う守備を優先しなければならない状態もあるので、その辺りも含めたチーム事情で守備方法を選択する必要がある。


■攻略法

さて、ではその『サイドの縦パス誘導からの中への横パスかっさらう』を狙ってくる対戦相手への攻略アイデアも。

・単純に相手の守備の寄せてくるスピードを上回るパスワーク=パススピードとダイレクト。と言いたいところだが、これが出来るならどんな守備でも関係ないか。
・ショートパスをやめてロングボールで前進。チームとして出来るなら。
・サイドで後ろ向きにならないように、中央経由でサイド前方に出す。もちろん相手が閉じている中央に出すのは難しいので、後方と中央に優位を作ってなんとか中央へのパスコースを開けたいところ。
・すぐ隣の味方を越えたところにいる味方への、一個飛ばしのパスで回避。すぐ隣は一番狙われている場所なので、そこを浮き玉などで超えるようにパスを出して、警戒が手薄になっている味方へパスする。特にSBはバックパスでの逃げ道が乏しいので、近い方のCBを飛ばして逆のCBにパスする能力があると便利。
など。

そしてこの一個飛ばしのパスなど、後ろ向きで受けてプレーする機会が多いサイドの選手は利き足とは反対サイドの方が良いんじゃないか説が筆者の中で有力になってきている。
左利きの右SBって聞いたことないけど、需要が高くなるんじゃないかと。
利き足とは反対サイドのWGも、中に切り込んでシュートっていう期待だけではなく、ワイドな位置で引き寄せてからの逆への展開力というメリットもある。
(その辺について以前書いた記事)


ということで、上記のような攻略法を持たない不用意なサイド→サイドの縦パスは『サイドの縦パス誘導からの中への横パスかっさらう』を狙ってくる対戦相手に狙われて危ないので、攻撃側は注意しよう。
それを狙ってこない相手だとしても、サイド→サイドの縦パスは相手を引き寄せて自分達の状況を悪くすることが多いので、チームとして意図的に狙っている形でないならば、サイド縦パスはなるべくやらない方が良い。

ちなみに、このサイド縦パスは育成年代のサッカーでもよく見る。
サイドに預けてまっすぐ前進、というパターンのチームが多いからだろうか。
サイドでよく追い込まれるチームは、この攻略法を試してみても良いかもしれない。


■感想

この守備方法で最初の条件である「中へのパスコースを封じる守備」は各チーム標準装備が当たり前になってきた。
そんな標準装備を持った強豪チームに散々警戒されていても中へのパスを通す状況を作るペップシティってやっぱり凄いね。あれだけボールを持っていてもサイドで追い込まれることは少ないし。

この守備方法での肝も「中央を使わせない」だから、逆に攻撃側はなんとしても中央を使いたい。
でも、筆者の周りの育成年代の試合を見る限り、この中央を使うことが軽視されているのが現状。
サイドからまっすぐ前進か裏一発ばかり。
中央に優位を作ってそこからの前進や、中央を使ったサイドチェンジなんてほとんど見られない。
成長のためにも、もっと「中央の制し合い」みたいな部分で盛り上がって欲しいな。

最後に。
この守備方法がトレンドなのか筆者が今まで気づいていなかっただけの常識なのかはわからない。


終わり


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