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バレンタインに見た夢

2年前、私は片想いをしていた。

2歳年下であるその相手は、当時の職場の同僚だった。

彼のことを意識し始めたきっかけはほかでもない、顔だ。

とはいえ、私は決して面食いなわけではない。
彼は、私が中学生の頃に夢中になっていた某俳優にとてもよく似ていたのだ。

その俳優はいわゆる"イケメン俳優"の部類ではないので、世間一般から見てかっこいい顔なのかは分からない。しかし、私は演技や人となり、顔も含むすべてが好きだったので、そっくりな彼は私にとってストライクだったのだ。

彼と私は偶然にも同じ部署に配属され、自然と言葉を交わすようになった。

実際に話してみると、彼の顔から勝手に抱いていたイメージのとおりだった。
物静かで仕事を覚えるのが早く、同僚の間だけでなく先輩や上司からも「あの人はデキる」と認識されていた。

そんな彼と私の共通点は、映画が好きなことだった。

お客さんが来なくて暇な時はずっと映画の話をしていた。

彼と話しているととても楽しくて、シフトが一緒になるのが嬉しかった。

そして段々、会う日も会わない日も、寝ても覚めても彼のことを考えているようになった。
「もしかしたら、今まで誰かを好きになった中で一番想いが強いかもしれない」とさえ思った。


そんなある日、メールで送られてきたシフトから突然彼の名前が消えていた。

ただのミスという可能性もあったが、なんとなく嫌な予感がして先輩に確かめることにした。

「彼は部署移動するんですか?」

「あぁ、今週いっぱいでやめるんだよ」

…あまりのショックに言葉も出なかった。

シフトを見ると、出勤が被るのは彼の最後の日だけだった。

呆然とする私に、先輩が追い打ちを掛けるように言った。

「東京に転職するんだって」



彼のラスト出勤は、部署全体のミーティングだった。

「短い間でしたがお世話になりました」という彼の挨拶で、会議はお開きになった。

彼と仲の良かった人たちが取り囲んで声を掛ける中で、私は何も言うことができなかった。

話しかけて彼がこっちを見たら、私はたぶん泣くから。

そして、その"何も言えなかった"という事実は、自分をさらに苦しめることになった。

昨年に私もその職場を離れたのだが、未だに近くを通ると、あの日ひどく落ち込んで帰ったことを思い出してほろ苦い気持ちになる。

これが、私のいちばん最近の恋だ。



そんな彼が、バレンタインデーである今日、なぜか夢に出てきた。

夢の中で私はまだ彼のことが好きだった。

交わしたのはどれもたわいのない言葉だったけど、久しぶりに話せて楽しかった。

そして私は、夢の中ですら気持ちを伝えることができなかった。


連絡先も聞けず、もう二度と会うことはできないかもしれないけど。

彼が東京のどこかできっと元気に暮らしていることを願う。

そして、いつかまた誰かを好きになったときは、素直に気持ちを伝えられる自分でありたい。

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