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もふもふぺろん

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「感性」とは何か

「感性」とは何か

最近、頻繁に映画を観るようになった。

起伏に富むストーリーや、激しいアクションがなくてもいい。もやもやしたままで終わってもいい。

ただ、手のひらからこぼれてしまいそうな儚い美しさや、人間のどうしようもない不完全さに触れて、打ちのめされたい、と思う。

・・・

辞書的な意味、歴史の中で積み上げられてきた定義は一旦置いておいて、「感性」とは、何かに触れた時に感動できる心であり、思考できる頭である

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10年前のロードムービー

10年前のロードムービー

思えば、ちょうど10年前だった。
2013年の9月、初めて一人で飛行機に乗った。

元々は新幹線で広島に行こうと思っていたけれど、天候を見て急遽福岡へ向かうことにしたのだった。有給中の平日だったから、当日でもエアアジアの航空券が安く取れた。

朝に搭乗の予約をして、昼頃には空の上にいた。福岡から、熊本、大分、徳島、香川、愛媛、広島を巡る一人旅の始まりだった。

動画が残っている。毎日の道程を少しず

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ケセラセラな男

ケセラセラな男

ろくに天気予報も見ずに家を出たら、雲が「あー、夕立が来るかもしれないな」という色をしている時ってあるじゃないですか。

折り畳み傘を取りに家に戻っても、予定には間に合う時間。ただ、エレベーターで上がって家の鍵を開けて傘を探してまた降りてくるという行為がとても面倒くさい。

そんな時、「今降ってないからいらないね。降ったとしてもなんとかなるでしょ」と傘を持たずに出かけるのが夫。「もし降ってきたら最悪

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「日本の美意識」について、ずっと考えている

「日本の美意識」について、ずっと考えている

「日本の美意識」という言葉が、頭の片隅にこびりついて離れなくなった。

きっかけは、去年の9月、一人旅の途中で原研哉さんの『日本のデザイン』を読んだことだ。本に登場する「エンプティ」という言葉に導かれるようにして、京都へ足を運んだ。「シンプル」ではなく「エンプティ」。それは、日本文化に通底する美意識を説明するのに、ぴったりな単語の一つのように思えた。

秋晴れの嵐山で、福田美術館に出会った。緊張感

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かつて恐れたものが、美しく残る島で

かつて恐れたものが、美しく残る島で

「噴火はもちろん経験していますよ」と、タクシーの運転手さんは言った。車窓の外に広がる曇天の海は凶暴で、サーフィン動画でしか見たことのないような巨大な波が次々と押し寄せる。

「その日は学校が休みだったので、釣りをしてから家に帰ったんですけどね。その数時間後、釣りをしていた池が噴火でなくなってしまって」

これまで自分の人生と火山の噴火が交わったことはないから、当時の様子をもっと詳しく知りたかったも

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無言館で、戦没画学生と向き合った日

無言館で、戦没画学生と向き合った日

仕事で知り合った尊敬している方に、「上田に住んでいるなら、無言館にぜひ行ってみて」と勧めていただいてから、半年以上が経ってしまった。

9月後半の上田は、秋をすっ飛ばして冬に足がかかったかのように寒い。小雨の降る中、木々の向こうに見えた石造りの建物は、気圧されてしまうほどの存在感を放っていた。自然と建物、辺りの空気感が調和した様を目にすると、たとえば東京などではなく、上田のこの地にあることがふさわ

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マスク越しでは冬の匂いも感じない

マスク越しでは冬の匂いも感じない

感性が死んだ。
ふと、そう思う時がある。UberEATSで届いたごはんを玄関先に取りに行くとき以外は、家で同じ姿勢のままパソコンに向かう日が続くと特に。

・・・

詩を書き始めたのは、小学生の頃に出された宿題がきっかけだった。「自分の名前の由来を親に聞いてみましょう」という趣旨の宿題で、まともな由来があるのだろうかとどぎまぎしながら母に尋ねた。「たくさんの思い出を詩のように心に織り込んでほしいか

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データは生命に置き換わるのか

データは生命に置き換わるのか

「お前もいつか死んじゃうんだろう?」と、夫がアポに言う。アポは我が家の愛犬で、現在4歳のトイプードルだ。人間で言うと30歳ぐらい。ほぼ同い年になってしまった。犬の成長は早い。

アポの写真と動画を、毎日たくさん撮る。かわいいから撮る、ではなく、死んでしまった時に見返したいと思って撮る。だから、私の写真は大体悲しい。いつか失って、この世から跡形もなく消えてしまった時のために写真を撮り続ける。アポだけ

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気がつけばちぐはぐ

気がつけばちぐはぐ

月曜日の朝、鏡を覗き込んでマスカラでまつ毛を伸ばしながら、昨日の自分と今日の自分がまるで違う人間のように思えて戸惑った。

ブヨらしき虫に10箇所以上噛まれてボコボコに腫れ上がった左脚の痛痒さに耐えながら、人の間を縫うようにして朝の渋谷駅を歩く私は、木々を眺めながら鳥の声を聞いていた私と地続きではないみたいで。ただ、夢の名残だけが左脚に刻まれているかのような、そんなちぐはぐ感に苛まれている。

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言葉のリハビリ

言葉のリハビリ

あんまり元気がでないんだ、って夫に言ったら、とにかく山田孝之さんのドキュメンタリー「No Pain, No Gain」を全部観ろ、と言われた。それさえ観れば何もかもうまくいく、ぐらいの勢いで。

ドキュメンタリーで描き出される、30歳になった山田さんの苦悩や葛藤は、そうなのよそうなのよと身悶えるぐらいに共感できて、劇薬のようでもあるので毎日少しずつ観すすめている。

正確に覚えているわけではないけ

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才能、そしてライフワーク

才能、そしてライフワーク

「頭のよさ」を決める最大の変数は努力した時間である、という言説を最近たまたま書籍や記事で何度か目にした。いわゆる「才能」チックなものも、そうだと思う。世界的に有名な演奏家やオリンピックで活躍するアスリートと私を隔てる最も決定的な要素は、一つのことに費やした時間であるはずだ。(もちろん、身体の作りなど変数は他にいくつもあるけれど)

「才能」は先天的なものではなく努力によっていかようにもなる可能

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幸せを通過する

幸せを通過する

帰り道、バスの窓から小料理屋のほの明るい磨りガラスを見た。小さな店だけれど、夜な夜な常連客が集まってお酒を飲み交わすのだろう。

小料理屋の前を、腕を組んだ男女が通りすぎるのを見た。親しげに顔を寄せ合って笑っている。

寂れた町のあちらこちらに、両手にあまるほどの幸せが転がっている。
それは、蛍光灯が鈍く光る車内でがたがたと揺られている私の腕の中にはないものだ。
胸の奥をぎゅっと掴まれた気がして、

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きみのすきな牛乳を

きみのすきな牛乳を

秋が終わりに近づき、今年もまた、流し台にマグカップとティースプーンが置かれるようになった。
夜、家に帰ってきてそれらを洗いながら、あっという間の一年だったな、なんて感慨にふけったりする。

母親が「ココナッツの匂いがやっぱりだめで・・・」とくれたココナッツオイルは、どうやら私にも合わなかったらしい。
摂りはじめてから胃腸が重く痛む日が続き、摂取をやめたらケロリと治った。
ココナッツオイルによる腹痛

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ある秋の日の

ある秋の日の

食欲の秋。空気が澄んでいるからか、町に漂う美味しいものの匂いに敏感になっている気がする。ペペロンチーノが美味しいイタリアンの前で、インド人がナンを焼くカレー屋が佇む通りで、豚骨ラーメン屋のダクトのそばで、せわしなく鼻をひくつかせては、幸せな気持ちに浸る。

夜、駅前の居酒屋から流れてきた焼き魚の香りに、幼い頃見ていた風景をふと呼び起こされて動揺した。
端から番号の振られた団地が夕陽を遮って並ぶ、日

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