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発達障害当事者から見た「妻に自分の言動が漫画にされて許せない」について

今、はてな匿名diaryでの「妻に自分の言動が漫画にされて許せない」というトピックが話題です。

ザックリ要約すると「妻が自分に黙ってtwitter上で夫婦のやりとりを漫画にしていた。喧嘩が一方的な立場から書かれたのはまだいいとしても、自分(夫)の発達障害を勝手にバラしたことと、妻だけに言った感謝や愛の言葉も全部晒されたのは許せない。」ということです。

ただ、この拡散が「本人に使用許可を得るのは大事だよね」で終わっていることが多い気がして「それはちがうのでは?」とモヤモヤします。

今回、トピ主さんの怒りを買っているのは、「夫が発達障害であること」と「夫婦間だからこそ成立するやり取り」の2点を勝手に公の場で晒されたことだと思います。

私は、発達障害当事者&ライターでもあるので、幸い、どちらの立場も共感しやすい。ちょっとこの件について掘り下げようと思います。

今回のトピックの内容から読み取れることを、整理していきたいと思います。「フェイクも混ぜてある」と書かれているので、不完全になってしまいます。また、私の予想でもあるので、実際とは異なる可能性についてはご了承ください。

今回、妻は多分健常者だと思います。障害者同士なら「痛み分け」になるので、ここまでの怒りを買わないはず。

twitterで漫画を描いているとのことですが、もともとプロの漫画家ではなかったのかもしれません。少なくとも、日常的に漫画で食べているタイプならこんなに「寝耳に水」にならないはずです。

おそらく、趣味で書いていた漫画の人気が出たタイプではないでしょうか。「誰も話せる相手がいなくて、ネット上ではじめて共感してくれる仲間がいたのかもなぁ」という気もします。

で、次は夫の考察。この文章を読む限りは「大人の発達障害当事者」っぽいです。勝手な予想ですが、クローズ就労(※障害を隠して働くこと)をしているタイプに見えます。なぜなら、すべての場所でオープンにしている人は、ここまで怒らないことが多いからです。

発達障害は意外と隠せます。私も片方の職場では隠して働いています。見た目でわからないので、「なんかズレているやつ」くらいな扱いで済むこともあります。

障害を隠すのって、本人からするとかなり切実な問題です。ここには「障害者である自分を受け入れられない」という障害受容の問題も関わってきたりします。大人になってから、障害が判明したりすると余計に難しいのです。

ここからは、拡散されている状況について話をします。今回、主に、ライターやブロガー「日常を書くこと」に携わる人に次の言葉が刺さって拡散されています。

俺の人生は、俺の痛みや俺の言動は、全部全部俺のものなんだよ。
誰かのコンテンツになりたいわけでも、誰かのエンタメとして消費されんのもまっぴらごめんなんだよ。

私もこれを読んで、何人かの顔が浮かびましたし、後ろめたい気持ちが出てきました。気を付けなければ…と自分を戒めました。私以外にも、身に覚えがある人、多いと思います。

これが正式な取材だとしたら「相手への取材依頼→OK→日程調整→取材→完成原稿を相手に送る→OKまたは、調整依頼→必要であれば修正→確認、OK→公開」と踏むべきステップが段違いに増えます。クレームがつかないために必要なステップではありますが「取材で聞いた生の話の方が圧倒的に面白かった」となってしまうことが多いのもまた事実。

公表できない素の部分の方が面白いんです。カメラを向けられたときの作り笑顔よりも、日常で見かけた自然な笑顔の方が素敵だったりするじゃないですか?そういうものです。

みんな自分のことって、多少「よく見せたい」んですよね。だから、似顔絵のイラストレーターの方とかも「そっくりに描く」と「私の顔はこんなにひどくない」と怒られるらしいです。「ちょっと美形に補正」すると「そっくり」と満足してもらえると聞いたことがあります。私たちの頭の中には天然のSNOWアプリが最初から、搭載されているってことです。

だから、「夫婦間のやりとり」も描いた本人としてはリアルに伝えているつもりかもしれませんが、相手からしたら「それは本当の自分じゃない!」がかなりあるはず。

自分のカッコ悪い部分をさらけ出すのはアリですが、家の中の相手のカッコ悪い部分とかをさらけ出すのは、ちょっとルール違反かな…。読んでいないのでわからないですけど。

だから、今回はもう残念としか言いようがない。漫画の書籍化の話が出ているってことは、それだけコツコツ積み上げてこられて、ファンもついているし、出版社の方まで巻き込んでいます。

たくさんの人を巻き込んだ壮大なプロジェクトになっていて、それだけ多くの人の共感を読んだり、感動を呼び起こさせる力があったはず。もうちょっとどうにかできなかったのかなー…と苦々しく思ってしまいます。

ただ、一つ言えるのは「他人の秘密を勝手にバラす」のは、やっちゃいけないです。今回の場合、旦那さんは隠している場所もありそうな方ですし、隠したがっている相手の秘密をバラすのはダメです。

あとは、許可を得るのだけでなく「他人のことは、あまり悪く書かない」って大事だと思うんです。具体的に、私は相手を目の前にして言えることしか書かないと決めています。相手に言えることだとしても、他の人の評判を落とす内容はなるべく書かない。文脈上どうしても必要な場合は、イニシャルのみで特定できないようにボヤかして書くとか。

「リアルな姿を伝える」方が面白いし、問題提起にもなる。でも、個人や周りは傷つくこともあるから「隠したり、加工したりした方がいい」ときもある。バランスがむずかしいなあと思います。


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