鉛筆を入れる

 ゲラに指摘や疑問を書き込むことを「鉛筆を入れる」「鉛筆を出す」といいます。

「理数系に強い校正プロダクションだけあって、鋭い鉛筆が入っていましたね」
「初校ですから、念のためというところもあって鉛筆を多めに出しました」

 などと使います。

「指摘」や「疑問」とは、校正からの「提案」「質問」です。編集者と著者に対して「検討」「回答」を求めているわけです。検討の結果、却下されることもあります。黙殺されることもあります。その場合、鉛筆は消されます(消しゴムで、物理的に)。消されることを前提にしていますから、紙に跡が残らないよう、2Bくらいの柔らかい芯を使います。

 会社で支給されるのは鉛筆ですが、鉛筆しか使ってはならぬという決まりがあるわけではありません。シャープペンシルでなく鉛筆を使うのは個人的な好みの問題です。

 体感として、シャープペンシルに比べ鉛筆のほうが疲れにくいように思います。数行ごとに鉛筆の入るようなゲラを読んでいるときには一日中何かを書いていることになりますから、どうすれば身体への負担を少しでも小さくできるか考えます。

 とはいえいまどき、昔懐かしい肥後守を使って鉛筆を削っているのは、会社でも私くらいではないかと思います。効率を考えれば備えつけの電動鉛筆削り器を使うべきなのですが、手で削ったほうがより長い時間芯が丸くならず、快適に字の書ける細さを維持できる、と思い込んでいるのです。シャープペンシルよりも鉛筆のほうが、それも手で削った鉛筆のほうが、コンプレックスである字の汚さをわずかなりともカバーしてくれるように思えて、やめられません。

 ゴミ箱の上にかがみこんで手を動かしていると、同じ仕事をしていた父もよくこうして鉛筆を削っていたと思い出します。

 自分の校正した本の著者とお会いする機会があってそんな話をしたら、後日、私の使っている銘柄の鉛筆を一箱送ってくださって恐縮したことがありました。これがあるうちは校正の仕事を辞められないと思っているのですが、補助軸まで使って最後の最後まで使い切ろうとする貧乏性のせいか、なかなか減りません。

 金属製の補助軸は見た目にも冷たい印象ですが、表参道のcallで見つけた軸部分が木の補助軸は、手にやわらかくなじみます。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

長寿と繁栄を
41

牟田都子

1977年、東京都生まれ。本の校正。関わった本に『猫はしっぽでしゃべる』(田尻久子著、ナナロク社)ほか。共著『本を贈る』(三輪舎、2018年)。2019年は仕事を減らして単著の準備に専念する予定。

読まないほうがむずかしい

校正という仕事のことを書いています。
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。