見出し画像

水中考古学ワールドカップ

サッカーワールドカップ、アルゼンチン優勝おめでとう!
それじゃ、ワールドカップ関連で何か記事を書こうと…。本当は、優勝決まって2~3日後には記事をアップしようと思っていたけど。書き出したら、止まらなくなってしまい、23,000文字を超えてしまった。大学院の授業のレポート並みじゃないか….(後で修整・追記でもっと増えちまった…)

最初の2~3日でガッツリ書いてしまいました。結構、いろいろと重要なことを書いているので、資料・参照を加えたら、良い論文になるのかと思って、ちょこちょこ見直そうとしたのですが、時間がない!

もう、書いた記事を投稿しないともったいないので、そのままアップします。ちょっぴり追加のリンクなどを貼り付けました。

その全貌が以下の通り、だいたい12月中旬に書いたままです。誤字脱字、脈略のないことなどご勘弁を。寝不足の中、書いたままの文章です。

イントロ

ワールドカップ盛り上がりましたね!日本も決勝トーナメント進出!そして敗退…。残念だが、良い結果。努力は素晴らしい。モロッコの快進撃もよかった!さて、16強の水中考古学(水中遺跡保護体制)をなんとなく眺めながら、日本の現状を見ていきたいと思います。書く時間があれば、じっくりと他国の評価もしたいな~。

日本の水中考古学の戦力を分析。果たして日本は水中考古学の試合に勝てるのか?水中考古学体制のパラメータとして、以下を選んでみました。各国と簡単に比べてながら見ていきます。

  1. UNESCO水中文化遺産保護条約に批准しているか?

  2. 国立(相当)の専門機関はあるか?

  3. 「水中遺跡」を言及している法律などの有無

  4. 海洋開発・水域にかかる工事前の調査・アセスメントがあるか?

  5. 周知の遺跡数/海岸線の長さ(km)~ざっくりと遺跡数比較のため

  6. 大規模・国家規模の完全発掘・遺跡引き揚げプロジェクトの有無

  7. 水中遺跡に特化した国立規模の博物館相当施設はあるか?

  8. 水中遺跡公園・整備されたアクセスできる水中遺跡

  9. 水中・海事考古学に特化した大学院プログラムの有無

  10. 世界遺産(または、その可能性の非常に高い)遺跡の有無

この10項目についてみていきたいと思います!書くことがたくさんある項目から並べていますので、下に行くほど文章が細くなっていく…予定です。

一応、エクセルデータを見たい方は、こちらをどうぞ。

① 水中文化遺産保護条約に批准しているか?

おそらく、一番客観的なデータ。国際社会の中で、水中遺跡の保護をどれほど真剣に考えているかを見ることができる。西暦は、批准した年。日本・アメリカ・ブラジルが問題児。

こう見ると、クロアチア、スペイン、ポルトガルがいち早く承認している。現在、批准が近いとされる国は、手続きに時間を要しているからだ。特に、国内法とのすり合わせ…水中遺跡に関する様々な基準などが多いほど大変。国や州などで基準が異なると、州法・連邦法を改定してからの批准となる…。そのため、セネガルやモロッコなどは、関連する国内法の整理が楽だったため一度批准をすると決めてからが早い。アメリカなどは、もし批准を考えた場合、50州それぞれで現行のシステムとユネスコ条約のルールを照らし合わせる必要がある。そりゃ、大変だ。


残念ながら、16強入りしなかった北欧の国々は批准が進んでいない。というのも、ユネスコ条約を批准しなくても(わざわざ国内法を変えなくても)十分に国内の法律で水中遺跡が保護できている。さらに、ヴァレッタ条約(欧州評議会)のような国際条約や2国間条約などで水中遺跡に関する取り決めがあるため、それらとのすり合わせを考えると、ユネスコと関わっている政治的な暇はない。

さて、ブラジル。実は、国の法律が曖昧であり、水中文化遺産の売却・トレジャーハンティングを認めている。が、一方で引き揚げたものは一度国の管理下に置かれ遺跡調査は科学的に行うことになっています。

Underwater cultural heritage in Latin America and the Caribbean PDF

ブラジルに関しては、こちらに詳細あり…ちょっぴり難しい。


それで、こちらがユネスコ水中文化遺産保護条約のページ


さて、韓国は研究者は声を上げているが、あまり進んでいないようだ。ただし、後述する(予定)ように水中文化遺産は、国家プロジェクトとして取り組んでいるし、予算は日本の100倍ついている。一度、国が動き出せば批准も早いのかもしれない。

日本はどうだろう?

文化庁内部でも、批准に向けては「難しい」として動いていない。すでに、下からあきらめている。国境問題もあるので、批准はできないとの意見があるが…そもそも、国境問題があっても批准している国は多くあるので、逃げの議論・よくわからない事象に対しては、触らないという考え丸出し状態。

ちなみに、アジアでは内陸国のモンゴルが批准に向けて動いている。また、内陸アジアの国々も批准する動きが出ている。

② 国立(相当)の専門機関はあるか?

水中遺跡に関する国の専門機関の有無。これは、国がどれほど水中遺跡保護に力を入れているかを見るのにわかりやすいですね。とはいえ、国によって保護体制は様々なので、一概に点数をつけるのは難しい…。

ユネスコ条約批准国は、国で水中遺跡を担当する専門部署・機関を設置することを条件としているので、「批准=国の専門部署あり」となります。

水中遺跡のマネージメント方法として、国中心で行うか地方中心で行うかで大きく変わってくる。国中心が良いわけでもないし、地方中心のほうが細部にまで目が届く…というわけでもなかったりする。

基本、水中遺跡の探査や発掘は委託作業が主となり、その管理は地元、スタンダードの設定は国が行う、というのが多い。また、例えば国指定の史跡として登録された場合には、国の機関が主導的な役割を果たすなど様々。それぞれの国の丘の遺跡保護のシステムと大差ない国が多いようです。

韓国は、ちょっと特殊で完全に国立の研究所の独占。フランスは、地方にマネージメントさせるが、発掘作業は国立の施設が行う。ブラジルは、海軍、民間組織、州の組織などいくつか機関が混在している。アルゼンチンも国と大学2か所ほど組織がある。

また、普通の陸の遺跡と同様に完全に組み込まれている国もある。水中で作業できる担当者が、水中以外の遺跡を掘るのも、至って普通のこと。水中専門の部署があっても、特化しているわけではない…。16強に入れなかったスウェーデンやデンマークなどは、地方の博物館が分担して水中遺跡の業務を請け負っています。中央には、水中遺跡の全体的な管理をする人がいても実務はそれぞれの博物館が行っています。

アメリカは、説明が難しい…。基本は個人の自由が尊重される。個人の土地で自分のお金でいくら開発しようが、それは個人の自由となる。ただし、公的な土地や公的資金が少しでも入っている場合は、その公的な土地所有者または資金を提出した部局が責任をもって遺跡を保護管理する。軍隊・湾岸工事局・エネルギー庁・自然保護区・州立公園・州などなど、それぞれが独立した水中考古学の調査ユニットを持っている。一見、バラバラに見えますが、結構横のつながりが強い。同じ大学を出た、学会でよく顔を合わせるなどの理由により、流動性もあり、共同プロジェクトもたくさん実施されてきた。ちなみに、海は個人所有できない土地にあるので、必ずどこかの部局が責任を持つことになる。

アメリカ・エネルギー庁の水中遺跡ミュージアムページ

海洋開発による事前調査で数千件の水中遺跡が発見されています。上のBOEMは、日本のNEDOのような組織。その組織の中で水中遺跡の管理をし、公共へのデータを公開しています。残念ながら、日本のNEDOのサイトを調べても、文化の文字などほとんど出てきませんね。

さて、日本はどうでしょう?

日本は、完全に地方任せです。文科省の下の文化庁、その中の記念物課も埋蔵文化財部門(今は、なんか名称変わってます)が、ひっそりと担当。この中で水中遺跡に関する議論が行われています。国の機関で雇われている専門家は、ひとりもいません。国立の研究所などでも水中遺跡の調査をできる人はいますが、それをメインの業務として実施している人は、国内にはいません。

ですが、地方で水中遺跡の管理を行い、実際に現場に出ている方々は少数ながらいます。沖縄県の遺跡分布調査、滋賀県・琵琶湖の取り組み、長崎県は県内各地で遺跡の分布調査を進めています。また、鹿児島県では徳之島(伊仙町・天城町・徳之島町)が積極的に水中遺跡の調査を進めています。

こちらで「水中遺跡」などで検索!各地の取り組みが見えてきます!

また、文化庁は、水中遺跡の調査のてびきとして、『水中遺跡ハンドブック』を刊行し、遺跡調査のスタンダードを確立しようとしています。国からの予算がないにもかかわらず、各地で水中遺跡への取り組みが始まっています。


2022年3月に刊行!

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/pdf/93679701_01.pdf

これが、大きなうねりとなれば…。地方の担当者が調査を進めて行くことも可能ではあります。ただ、一般に浸透するまでにどれだけ時間がかかるのか?その前に、どれだけの水中遺跡が破壊されていくのか…。

つまり、「国立の」と限定してしまうと「世界最低レベル」なんですが、地方では「世界トップクラス」の取り組みも行われています。この実力が発揮できれば、日本も上位に食い込むことができます。

そして、この動きが全国に広がれば…4年後・8年後には期待が持てますね。

③ 「水中遺跡」を言及している法律などの有無

法律、難しいです…。

水中遺跡に関する法律が「有る」と書いていますが、正確には、文化遺産の法律の中に「水中遺跡」に関する事項がある、ということです。

セネガルについては、情報がないんです。どなたか知っている人がいたら教えて! とはいえ、ユネスコ条約を批准しているので、法律はあるはずです。場合によっては、ユネスコ条約をそのまま国内の法律とするケースもあります。どっかの国がその方式を取ったけど、まったく実効性のないケースもあったとか。

水中遺跡だけに特化した法律というのは、実はあまりないです。中国や台湾は、水下文化遺産に関する法律を、陸の遺跡とは別に制定していますが、ちょっと珍しいケースですね。ちなみに、台湾はユネスコ条約のコピペに近い。多くの国では、通常の遺跡保護の法律の中に、「領海内、また、内水域に存在する文化遺産も」保護すると言及しています。

イギリスやオーストラリアなど例えば歴史的沈船に限定した法律は存在します。オーストラリアは、アボリジニーの水没遺跡がきちんと保護されていないじゃないか!と話題になっていました。アメリカは、Abandoned Shipwreck Actがあります。

こちらから、各国の文化遺産に関する法律が読めます。キーワードサーチ、言語(国)、カテゴリーで世界の法律の絞り込みが可能。

UNESCO en.unesco.org/cultnatlaws/list

水中文化遺産がカテゴリーにあります!


ちなみに、水中に存在する文化的な文物に対して、その保護を最初に法律に記載したのは、ギリシャが最初です。1832年。ただし、水中に存在する遺跡は国にその所有権があるとしていますので、「保護」と言えるかは微妙です。イギリスなどに貴重な文化遺産を略奪されたこと、独立したばかりということもあります。19世紀初頭のナショナリズムの息吹を表した法律です。

また、過去にトレジャーハンターが活躍?した国、例えばインドネシアなどでも法律はあります。どのように国が水中文化遺産を管理するか、という法律。売却する際もトレジャーハンターと国の折半の取り決めの基本になります。ブラジルも売却を認めています。

日本の法律は?


ここは、あくまで、法律に記載があるかの話です。発掘・調査する際にどのような法律が適用されるか、遺失物法・水難救護法との関りについては、書きません(それだけで長くなるので)。

ハンドブックの資料をご覧ください!

実は、「水中遺跡」という言葉は、日本の法律には全く登場しません。
土地に埋蔵されているので、埋蔵物としてみなす、という考え方です。決して悪い考えではないのですが…後から解釈して付け足しているだけ、それだけ水中遺跡が重要でない、という考えの裏返しにも見えます。とはいえ、すでに数十年前にその解釈がなされていますので、それは十分に評価できます。気が付いたのは早かったけど、あえて法律の改定の際に記載をするほどのことではなかったようです。

それよりも、領海よりも外側にある遺跡に関しては、どうするのかと…。

下の図、ちょっと見にくいかもしれませんが、ユネスコ、中国、台湾、日本のそれぞれの海域における文化遺産の法的取り扱いの違いを図式化しています。

異なる海域で、どのように文化財が法的に扱われるのか…。一番下の日本(緑色)は、規定なしの一色。つまり、遣唐使船が日本のEEZで発見された場合、日本は何もできない。一方の中国は、自国に文化的つながりがある遺跡として調査をすることができると主張しています。

日本の法律は、様々な問題を残しています。きちんと向き合うには、やはり、水中遺跡という言葉を法の規定の中に組み込むべきかとは思います。

まあ、参考にまで…

ハンドブックからの抜粋


④ 工事前の調査・アセスメントがあるか?

水中遺跡の保護も、陸の遺跡と同じく、開発とのバランスの上に成り立っています。開発が行われる際、そこにある遺跡をそのまま守るか、もしくは、発掘をして記録を残した後、撤去し、開発を行います。もし、遺跡が価値あるものであれば、開発を中止することもありますが、ほとんどの場合、開発が優先されます。

海外においては、開発を行う前に、その範囲や周囲に遺跡が存在しているか、調べます。洋上風力発電などの開発が行われる前に音波探査などを駆使し、遺跡の有無を調べます。

デンマークなど洋上風力発電の先進国では、水中遺跡発見ブームが起きており、数万件の水中遺跡が登録されています。まあ、国によりそのスタンダードや技術は様々ですが、どの国も事前調査は義務となっています。ブラジルもあるそうですが、遺跡の保護のためとは言い切れない一面もあります。

実は、世界の水中遺跡の9割は、開発による事前調査や漁師による発見に起因しています。イギリスやフランスなどは、数万件の水中遺跡の候補地があり、それらは保護されています。その中から数件の遺跡が調査対象となっています。実際に発掘されるのは、そのなかの一握り。圧倒的大多数の水中遺跡は、小さな遺跡であり、そのほとんどは場所はわかっているが詳細は不明なもの。

この下の地図ですが、オランダを中心に水中遺跡候補地点(開発の事前調査や漁師による情報)をプロットした地図に日本の西日本の地図を重ねました。数万点の点々、すべて水中遺跡の可能性のある場所です。この同じエリア、日本では遺跡の数は、ほんの一握り…

セネガルやモロッコについてもユネスコ条約を批准しているため、なんらかのアセスメントが行われているはずです。ちょっと情報がないので、どなたか情報あれば教えて欲しいです。

日本の場合…

日本では、この事前調査の義務がありません。じつは、水中だけでなく、陸でも事前調査は行われません。その場所に遺跡があると登録されている場合(周知の遺跡)、調査が行われますが、周知の遺跡がない場合は、陸でも海でも開発が進みます。ただし、遺跡がありそうな場合や、特定の広さを開発する場合、開発業者と自治体が協議を行い、開発業者の負担で調査が行われます。

陸の場合は、遺跡がありそうな場所は大体把握できているので、遺跡の保存は、比較的うまくできています。また、工事途中に遺物などが発見されれば、工事を中止する必要があります。これは法律で決まっています。陸では、掘っているときに何かが出てくれば、まあ、見えますね。ただし、水中の場合、掘削を行っている際に遺物が出ても目視での確認は難しいです。また、そもそも「水中に遺跡がある」という考えがないので、何か出てきても遺跡だとの認識はなく、そのまま工事が進められてしまいます。自治体職員や工事関係者も、水中に遺跡があるという認識が薄いので、「何ありそうだから協議をしよう」とか何かあっても「遺跡ではない単なるゴミ」と解釈されてしまいます。

「周知の遺跡範囲」は自治体が示していますので、工事の前に確認が必要です。基本、遺跡があれば遺跡は守られる・開発が優先されれば発掘調査が行われる、ということになります。

これは水の上でも同じに扱うため、水中遺跡も登録されれば守られる!

とはいえ、遺跡として登録されていることが条件!
日本には、まだ400件ぐらいしか登録されている遺跡はありません…

これを増やしていく必要があります。そのためには、遺跡を見つける必要があるのですが…。何度も書きますが、水中遺跡のおそらく9割は漁師により情報化事前調査(アセスメント)によるものです。その義務があるデンマークやイギリスなどでは、数千~数万件の水中遺跡が登録されている…。上で紹介したアメリカのエネルギー庁も、パイプラインや送電ケーブルの工事の前に調査して発見した遺跡を調査してそれを公表しています。

例えば、こちらは日本(福岡市)の包蔵地のリスト。届け出不要の場所は遺跡がないので、そのまま工事ができます。日本の海の上は99%届け出不要。

日本でも洋上風力開発を行う前に、環境アセスメントを行っています。工事が環境ー野鳥・水産物など―にどのような影響を及ぼすのか、調査が行われます。海外では、環境アセスメントの中に文化遺産が含まれているという考え方ですが、日本にはありません。

「新エネルギー等の保安規制高度化事業委託調査」 PDF https://meti.go.jp/meti_lib/report/2021FY/000732.pdf…
抜粋 収集した国内の洋上風力発電事業の環境影響評価図書において、海洋考古学に関する調査の記載は確認されなかった。

つまり、水中遺跡発見の可能性の9割は、その手段がありません。日本の水中遺跡のポテンシャルの1割で勝負をしないといけない状況にあります。ここは、改善の余地があるかと思います。確かに、自治体が登録すれば守ることは可能ですが、その前の段階でハンデがありますね。


洋上風力発電と考古学~海外では良きパートナー  日本では…残念。


海洋調査には、サイドスキャンソナー、マルチビームソナー、磁気探査、サブボトムプロファイラー、水中ドローンなどなど、なんか難しい機械がたくさん出てきます…。そのお話は、別の機会でできればと思ってます。

数年前に比べて、水中遺跡の調査は格段とらくちんになりました。現在は、音波探査機なども手のひらサイズになりつつありますし、魚群探知機もブルートゥースでスマホで接続して使うことができます。精度は、大型の機器にはかないませんが、小規模な調査は、数万円で実施することができます。

コチラの会社で調査の様子を見ることができます。


⑤ 周知の遺跡数/海岸線の長さ(km)

水中遺跡の数を比べるのは、なかなか難しいところ…。数をそのまま比べても、小さい国は遺跡の数は、やっぱり少ないです。そこで、海岸線の長さで割った値=つまり、「海岸線1㎞あたりにどれだけ遺跡があるか」を比べてみました。わかりやすいと思いましたが、水中遺跡の数を調べるのが難しい…

オランダは海岸線1kmあたりに水中遺跡が10件ある計算になります…。100mおきに水中遺跡?これは数字のトリック。オランダは海岸線は短く、しかも、その全延長で人口密度が高いです。また、どうしても海岸線が長い国は調査が行き届いていない部分や、そもそも人口密度が薄い部分もあり、遺跡数にばらつきがあります。

なかなか遺跡数を調べるのが難しく、情報もあまりまりません。また、ちょっと古い情報など、ここは不正確な部分が多いので、信憑性はそこまでたかくありません。ひとつの目安として。

とはいえ、人口密集地・岸に近い場所(湾内など)には、相当数の遺跡があることがわかっています。沖に行けば遺跡は数なくなる。座礁・事故は海岸に近い場所が多いです。ロイズ社など保険の記録は数百年さかのぼりますが、9割は水深50mよりも浅い場所にあるそうです。また、水没遺跡も陸に近い場所が多いです。

スコットランドの水中文化遺産チャート


日本は?

残念ながら、3万キロの海岸線を持っていながら、遺跡数は極端に少ないです。文化財GISをな文献が管理していますが、海の上は空白地帯。



コチラ、再度、文化庁の水中遺跡ハンドブック。


お隣、韓国の場合、何か遺物を発見したら届け出が必要。これにより貴重な遺跡の発見につながっています。大海原で専門家による探査だけで水中文化財をみつけるのは、とても難儀なこと。

このようなとりくみ、日本でも必要ですね…
残念ながら、日本の場合は売却されてしまうことも。
韓国など多くの国では、売却は犯罪です。

⑥ 国家規模の遺跡引き揚げプロジェクトの有無

ここでは現実的なお話を。

水中遺跡と聞くと、大規模発掘!と連想されがち。ヴァーサ号やメアリーローズ号。とはいえ、これらの遺跡、どれも例外中の例外中の例外。

水中遺跡は発掘しない!が正解。ユネスコも「現地保存を第一のオプションとする」としています。In Situ Preservationと言います。

ユネスコ水中文化遺産保護条約のマニュアルがありますが、その中で、遺跡の発掘は極力避けるべきと書かれています。また、下の写真ですが、遺跡の場所にモニュメントを作って遺跡公園のように整備しています。陸の遺跡と大差ないことがわかります。

こちら、ユネスコのマニュアル。水中文化遺産の調査やマネージメント方法について解説しています。

例えば、陸の遺跡と言えば、ピラミッド、ストーンヘンジ、パルテノン神殿などなど。どれも大規模な遺跡。しかし、遺跡はどこにでもあるもの。数万・数十万の遺跡があります。これは、水中も同じ。陸も水中も遺跡の圧倒的大多数は、小さな遺跡。ぽろぽろと遺物が数点、遺構が数か所出るようなもの。それを一つ一つ発掘していくのは、予算がいくらあっても足りません。

例えば、とあるA国では、海洋開発などにより遺跡だと考えられているポイントが2万件、その中で目視確認された場所は数千件。ダイバーなどにより非破壊調査・記録された遺跡は800か所、一部発掘は50遺跡、完全に引き揚げは1遺跡、といった具合です。

16強にアメリカ・オーストラリア・イングランドとあります。それ以外の国は国家規模の完全発掘はしていません。さらにいうなれば、これらの3か国、実際に国のお金だけで発掘されたわけではありません。

アメリカは、南北戦争のハンリー号(潜水艦)とベル号(テキサス州・フランスのラ・サールの探検隊の船)。オーストラリアは、バタビア号(オランダの船)。イギリスはメアリーローズ号(ヘンリー8世の旗艦)です。自国の船でない場合もありますね。これは2国間合意(資金は一部共有)により引き上げられています。また、資金ですが、寄付金などによるものが多いですし、王室がかかわってファンドを集めたりしています。税金だけではないんですね。引き上げ後は、博物館などを建てて現地経済に貢献、雇用の創出や地域の観光に役立っています。

16強を逃したスウェーデンですが、ヴァーサ号が有名です。1960年代に引き上げています。

https://youtu.be/yAQSEIfAB1I


イギリスのメアリーローズ号。


これらの発掘、大変なように見えますが、実は、一番お金と時間を要したのは、保存処理。水中から引き揚げた木製品などは、一見頑丈に見えても、中身はもろく、空気に触れるとすぐに劣化してしまいます。

それを食い止める保存処理。まあ、保存処理についても書き出すとなが~くなりますので、次回にでも。ヴァーサ号やメアリローズ号、どちらも保存処理に30年ほど費やしています。船体にスプリンクラーを設置し、数十年間薬品を噴射し続けます。それにより薬品を木材の内部にまで浸透させます。その後も、温湿度を一定に保つ必要があります。60~70mもある船。その全体で温度±2度、湿度も±2%ほどに24時間365日、保つ必要があります。4~5階建てのビル内部の吹き抜けの空間を上から下まで温湿度を一定にする技術…相当大変です。


おっと、忘れていた韓国!

14世紀の新安沈船が有名。寧波を出発し、博多に向かっていたと言われています。積み荷は、日本の室町時代に流行っていた高級品!

実は、韓国は複数隻の船を引き上げています。かなり珍しいです。運が良かったのは、韓国の船は鉄くぎを使っていなかったこと。保存処理をする際に、鉄があるのとないのでは大違いです。鉄がないため、処理にかかる時間とお金はセーブできます。

なんと、水中遺跡に特化した国立の博物館が二つもあります…

https://www.seamuse.go.kr/mokpo/main


https://www.seamuse.go.kr/taean/publication/etc/info/3128


積み荷と一緒に発見された木簡。筥崎や東福寺が読み取れる。


日本での引き揚げは?


まだ、引き揚げ実績はありません。戦艦大和を引き上げろって?引き揚げ自体は、比較的楽ですが、その後の保存処理に引き揚げの数百倍のお金がかかります。また、大和の展示スペースの空調管理はどうしますか?これは、無理。水中で保存できるまでするしかありません。

引き揚げが進むであろう遺跡は、鷹島海底遺跡でしょう。はい、元寇の遺跡ですね。この遺跡に関しての解説は、割愛します!

興味のある方は、報告書をどうぞ。


⑦ 国立規模の水中遺跡博物館相当施設

博物館…。観光地には欠かせない存在。特に、普段見れない海底遺跡からの出土品を見せるには、博物館が重要ですね。多くの国に、海事博物館などがあり、水中遺跡や海事文化の展示を行っています。

メアリーローズ号や韓国の国立博物館は有名です。スペイン・ポルトガル・アルゼンチンは、海事博物館がメジャーです。やはり、うみを超えて移民した人たちが作った歴史があります。海を介した歴史には特別な意味合いがあるようです。オーストラリアもそうですね。まあ、国によっては国立博物館がたくさんある国もあるので、なかなか比べられないかな~と。日本は、国立は少ないですが、様々な地方の博物館が多くありますね。

実は、16強を逃した国々の博物館事情のほうが詳しく…。基本、大きな規模の発掘をした場合、その遺跡だけで博物館ができてしまうことが多いです。また、ポーランド、デンマーク、スウェーデン、韓国など博物館と研究所が一体となって水中遺跡の発掘から展示までを実施しているケースも多いです。水中遺跡の場合、保存処理が大変なので、発掘と処理と展示が一緒になっていると便利ですね。


 

https://www.culturaydeporte.gob.es/mnarqua/home.html


日本の博物館は?

国立の博物館では、水中遺跡の展示をしているのは、九博。鷹島の遺物の展示があります。交流をテーマにした博物館ですので、交流の形をそのまま見ることができる水中遺跡が大きな役割を果たすべきであることは、間違いありません。残念ながら、現在の状況では、そこまで水中遺跡について考えているわけではないようです。今後、館長が変わったり新しくスタッフが大きく入れ替わるなどがあれば、変化があるかもしれません。

とはいえ、地方にはたくさんの博物館があります。






まあ、しかし、日本は海に囲まれた国。海を通して伝わったもの、文化、それが日本の源流。お米、金属、文字、宗教、アート、お茶、政治の形、その他にいくらでもある。これらがどのように日本に伝わったのだろうか?それを紐解くことができるのが、沈没船などの水中遺跡。

⑧ 水中遺跡公園

水中遺跡公園…。おそらく、水中遺跡そのものをあまり知らない人にとっては、そんなものあるの?と思われるかしれませんが…。ごく普通にあります。遺跡の価値を最もよく感じられるのは、博物館などではなく、その場所。個々の遺物ではなく、やはり遺跡にこそ価値があります。

水中の遺跡を見に行くの? もちろんです。

とはいえ、すべての水中遺跡を見に行けるわけではありません。アクセスしにくい場所、安全に潜れる場所など条件はあります。観光客が見に行けるように整備された遺跡はたくさんあります。また、特にダイビングに規制のない国では、ほぼすべての遺跡を自由に見に行くことができます。つまり、逆に特定の遺跡については見に行ってはいけないという規制をかけています。

多くの遺跡は、地元のダイビングコミュニティーが重要な役割を果たしています。ダイビングポイントとして活用しています。管理の方法は、様々であり、その国や地元にとって扱いやすい、そして、遺跡の保護に適した方法を取っています。

イギリスやデンマーク、その他バルト海沿岸地域は、ダイビングは自由です。ただし、国の史跡に指定されている場合など、許可が必要です。イギリスでは、潜水して記録を取ることを推奨しています。遺跡に何らかの変化があったり、盗掘があるとわかります。遺跡のパトロールを一般ダイバーに請け負ってもらう仕組みです。そのためのマニュアルやダイバーに積極的に水中遺跡の保護に取り組んでもらうための仕組みがイギリスにはあります。NASという団体。民間の団体ですが、国際的にその取り組みが評価されており、水中遺跡調査のマニュアルなどは、ユネスコのトレーニングコースも参照しています。

オーストラリアも水中遺跡は比較的自由に潜って見に行くことができます。また、灯台など海事文化という考え方が特徴的で、海事文化トレイルといって、まあ、海事文化財巡りのような取り組みも行われています。

クロアチアも水中遺跡の公開をしています。盗掘の可能性もあったので、檻(柵)で遺跡を囲っているケースもありました。

そうそう、不思議なことなんですが、水中遺跡公園の整備・取り組みが盛んな国々は、今回の16強には入れなかったようです。

例えば…

カナダのFathom Fiveは国立公園。ここでは、水中遺跡(沈没船)を見に行く前に研修を受ける必要があります。遺物を持ち帰ってはダメとか、遺跡を保護する重要性について学びます。地域の環境などについても学びます。

イスラエル・カエサリア。別名ヘロデの港。地元のダイブショップが主体となり遺跡のツアー、水中遺跡マップなどを準備しています。比較的自由ですが、潜るには地元のショップを通す必要があります。


イタリア・バイアの海底遺跡は水中遺跡公園として特に有名。ローマ皇帝の別荘地。水位変動・地盤の沈下でゆっくりと水没した町のようです。海に沈んだポンペイのイメージです。ここでは、ダイブマスターが考古学の講習を受け、ライセンスをもらいます。遺跡を見たい人は、そのライセンスを持った人と一緒にしか潜れません。詳しく書くと、記事全体で数万文字になりそうなので、この辺で…


国内に水中遺跡公園って実現できるの?

ポテンシャルは大きいです。

日本はスキューバダイビング産業に向いている国。実は、規制もほとんどありません。ただし、漁協の力が強い、ダイブショップを通さないフリーなダイビングを楽しむ人口が少ない、ということがあります。ほとんどのダイバーが決まったコースをインストラクターと潜る、というのが多いようです。ダイビングは、「リラックス」のため。海外では、自分の好きなところを潜る、「冒険」の色合いが強いです。日本でも、本来、漁協の許可なくとも海は自由な場所。また、好きに潜ってドンドン水中遺跡を開拓してもよいはず。まあ、ですが、とりあえずは漁協の協力そしてダイブショップとの協力を得ながら進めて行くことが現実的な進め方でしょう。

実際に、その取り組みが行われています。アジア水中考古学研究所が海底ミュージアム構想を進めていました。長崎五島列島の小値賀島などで進められていました。イベントとして団体客を連れて行くという企画を実施しています。そのほか、奄美の倉木崎海底遺跡は水深2~3mの位置に陶磁器片が散らばっているので、船の上からでも遺跡を見ることができます。海底遺跡見学ツアー・シンポジウムも開催しています。また、沖縄でもツアーが開催されています。水中ドローンを使ったツアーなどもあります。



PDF論文ダウンロード

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jitr/29/2/29_43/_pdf/-char/ja


これらのイベントは、人気もあったのですが、継続して実施されていません。イベントの計画・運営は、自治体などにとっても負担となりますし、また、ビジネスとして実施するにもなかなか大変。

ダイブショップが普段のお客さんを連れて行くポイントの一つに水中遺跡があるのが良い形でしょう。沖縄の多良間島、伊豆半島などにもそのような場所があります。だいぶショップは、ただお客さんを連れて行くだけでなく、遺跡の保護者のような役割を持つことが期待されています。自治体と協力関係を築き、何か異常があったら伝えることが大事。

おそらく、遺跡の価値がわからずに遺跡をダイブポイントとして活用しているショップもあることでしょう。まあ、あくまで私の感想ですが、ショップは積極的にダイブポイントの開拓を行ってもいいのかなと感じています。「水中遺跡ツアー」を自ら企画しても良いのかなと。


そうそう、SCUBA Monsterさんと一緒に、こんな記事を書いてみました。


私が良くいうことに、「遺跡を発見するのは、漁師やダイバーさんたちであり、遺跡に意義を与えるのが考古学者の仕事」。

町おこしなどにも使えますね。また、エルトゥールル号など国際的な遺跡が多いのも水中遺跡(沈没船)の特徴。姉妹都市や関連イベントなどの企画もできますね。

⑨ 特化した大学院プログラムの有無


こちら、UNESCOがまとめた資料。世界の水中考古学プログラムのある大学のリストです。PDFでご確認ください。2010年の資料なので、ちょっと古いです。ウクライナでは2つの大学でプログラムがありますね。ちなみに、これら、水中考古のクラスがある大学ではなく、専門コース・プログラムのある大学です。アメリカなどでは、多くの大学で水中考古学のクラスが教えられています。

https://www.nauticalarchaeologysociety.org/university-courses-in-nautical-archaeology


世界で最初に水中の遺跡に特化した考古学の大学院プログラムができたのは、テキサスA&M大学になります。1976年でした。ジョージ・バス先生が作ったプログラムです。しばらくは、世界唯一のプログラムだったため、本数以上が留学生だったようです。中国からも来ていました。某××門事件があり途中で帰国し、その後は国の水中文化遺産のトップに。テキサスで学んだあと、それぞれ自分たちの国に戻り、世界各地で水中考古学の伝播に貢献しました。

現在、その当時の留学生が世界各地で活躍し、それぞれの国のトップのポジションにいることが多いです。つまり、バス先生の水中考古学DNAが世界各地で、受け継がれています。多くの国で水中考古学のプログラムができたことにより、今はテキサスA&Mには留学生はあまりいません。

研究所や保存処理ラボが充実しています。また、マスター・博士論文のリンクを以下に貼ります。

大学のリサーチセンターがその国を代表する水中考古学の研究機関になっていることが多いようです。国のプロジェクトなども、その大学が受け持つような感じだったりします。また、ヨーロッパなどでは、普通に大学1年生の授業で水中考古学に触れることができます。私は、ミズーリ州にある大学にいきましたが、ごくごく当たり前に水中考古学の話しをしていました。それが普通だと思っていました。日本人研究者が、「水中考古学を知らない」と言ったのには、驚きでした。

また、そもそも水中考古学は単なるメソッド・ツールであるという考え方があります。例えば、テキサスA&Mは、Nautical Archaeology Program です。つまり、船舶の考古学。習うことは、船の構造、船と人々の関係、船の積み荷、いかりなど。水中遺跡の発掘方法などは、ほとんど触れることがありません。大きなトレーニングプールがあったり、フィールド・スクールを開催したり、そんなイメージを持つかもしれません。ですが、学ぶのは船船船。水中遺跡の発掘方法などは、現場に出て学ぶというスタンスでした。唯一の例外は、保存処理。水中から引き揚げた遺物は、特殊な処理が必要です。保存処理をしないと遺物が劣化してしまいます。私も、保存処理ラボで数年間働いていました。

みんな潜りが上手というイメージがあるかもしれませんが、私の同僚には、全く潜れない・潜りたくない学生もいました。水中考古学の博士号を持っていても、泳げない…。どゆこと?と思われるかもしれませんが、ごく自然なことでした。
 
テキサスは、かたくなに「船舶の考古学」を貫いていましたが、大学によってテイストは異なります。もっと水中での作業を重視したプログラムもあります。イギリスのサウスハンプトン大学やオーストラリアのフリンダース大学は、バランスの取れたプログラムを持っています。海事(水中)考古学のセオリー、フィールドで使う技術の習得、船や海事文化、そして、それぞれの研究。16強に入っていないエジプトやキプロスなどは、もうちょっと水中発掘の技術よりのプログラムのイメージがあります。

さて、私は大学での教育より、もっと若いうちに水中考古学に触れてもらうことが重要だと考えています。義務教育で水中遺跡が重要であることや海で遺物を見つけたら報告の義務があることなどを教えて欲しいと思っています。トーゴでは政府がショートビデオを作成し、テレビCMとして流したり学校教育で活用していました。

大学3~4年生になって、はじめて水中考古学にであっても、すでに自分の進む道をある程度決めている人が多いでしょう。また、水中遺跡を見つけるのは、水中遺跡に興味を持っていない人。遺跡を発見し、登録・周知していくことが重要であれば、やはり学者を育てるよりも、多くの人に水中遺跡を知ってもらうことが一番。子供たちへの教育が必要でしょう。

日本の大学で水中遺跡を学ぶ…

日本は摩訶不思議な国。個々の研究者を見ると、世界トップレベル。国の対応を見ると、世界最低レベル。東海大学の木村先生、フォトグラメトリー第一人者の山舩先生など。

さらに、数十年さかのぼれば、田辺先生や小江先生がいる。大先輩は、別に大学で水中考古学を学んだわけではありませんが、第一人者として評価されています。そして、水中考古学の98%は、考古学です。

ジョージ・バス先生は、ダイバーを考古学者にするのは難しいが、考古学者をダイバーにするのは簡単である。と言っています。つまり、考古学の素質があるかが大事。考古学をしっかりと学べていれば、あとは応用です。しっかりと大学で考古学を学び、その上で水中遺跡のトピックとなる研究を加えていく。

まあ、でも、大学は必要でしょう。東京海洋大学には、一応、水中遺跡に特化したコースを組めます。東海大学海洋学部でも、水中遺跡のクラスがあります。滋賀県立大学では、水中考古学の部活動があります。まあ、琉球大学でも学べないこともないでしょう。京都橘大学も水中遺跡調査を始めるとか…。あと、私の所属する帝京大学でも4月から水中考古学のコースがはじまります。

あと、5年後ぐらいには、これらの大学で、しっかりとしたコースが出来上がってくることでしょう。今から楽しみです!

東海大学

あと、私。本格的に教えるのは、4月からです。


⑩ (水中遺跡)世界遺産の有無

さて、ここは短くいきます。

多くの国で、世界遺産に登録したい!と思っている遺跡はあるでしょう。そこら辺の事情は、よくわかりません。世界遺産の構成要素が海にある場合もあるかもしれません。また、ジャマイカのポート・ロイヤルなども候補地として推薦されています。

スペイン! ガレオン貿易関連で世界遺産を目指しています。大航海時代から培われ始めて世界1周を繋いだ…。まあ、スペインにとっては誇りでしょう。スペイン人にとって自国の船、ガレオン船は、まさに動く城!姫路城があちこちの国に行って貿易をしているようなものです。世界遺産としてふさわしいと思います。

が、一つ問題が。まだ、発見されていない沈没船もたくさんあります。日本近海にもスペイン船が来ていた。そう、日本の周りの海にもスペインが主張する世界遺産がある。となると、これらの未発見の遺跡も守らないといけなくなるのでは?

海洋開発に際してアセスメントの義務がない日本。世界遺産を破壊してしまう可能性は大いにあります。また、日本のEEZ内でスペイン船が発見されたら?日本の法律では、規定がありません。つまり文化財としても扱われないし調査する方的根拠がない。さらに、海のシルクロードに関する遺跡もせあき文化遺産への登録を進めています。もちろん、中国の船はたくさん日本の周りに来ていました…。これらの船、誰が調査を担当するのでしょうか?

そんな中、実際水中遺跡が登録されているのは、スイスを中心とした石器時代の湖の遺跡です。以前は、杭上住居跡などと呼ばれていました。

オーストリアなど数か国の湖に見られる遺跡群になります。もともと、湖の上にプラットフォームを造って住んでいたと思われていたのですが、最近の研究では、湖畔の住居跡であるとの説が有力です。19世紀に調査が始まっています。


日本で最初に調査が行われた水中遺跡として知られる諏訪湖の曽根湖底遺跡。ここも、アルプスの湖の遺跡の発見に触発されて調査が始まっています。はい、明治時代に調査が行われています。

https://suwaarea-examine.com/soneremains.html


日本の世界文化遺産となる水中遺跡とは?


鷹島海底遺跡。これでしょう。元寇の遺跡ですね。多くを語ることもないでしょう。日本でありながら、朝鮮半島や中国大陸から船団がやってきました。モンゴル帝国は、世界的な広がりを見せました。この遺跡が、未だに世界遺産に登録されていないのも不思議。

私が、アメリカで暮らしていた時、初めてあった人によく「なんの研究をしているの?」と聞かれることがありました。「日本で水中遺跡の研究をしているよ」というと、必ず、「モンゴルの船が発見されたよね!」と言われます。飲み屋のバイトのねーちゃんから、隣に住んでいたお爺さん、スーパーのレジのおばさんなどなど。少なくとも私の経験上、「モンゴルの沈没船遺跡の調査」を知らなかった人は少ないです。実はかなり有名。

不思議なのは、10年前まで、日本で「水中遺跡の研究をしています…」というと、「え?イクチオサウルスの研究とかですか?」と言われることもあり、モンゴルの沈没船については、知らない人のほうが多かったのには、驚きでした。ちなみに、イクチオサウルスは海に住む恐竜…考古学とは関係ありません。

よくあるんですよね~。浮世絵などもそうでしたが、外国ではめちゃくちゃ評価高いのに、国内では誰も知らなかったということ。

世界トップ10の沈船遺跡などの特集で頻繁に扱われています。


実は、日本で水中文化遺産がすでに世界文化遺産に登録されています。沖ノ島。福岡県にありますね、海の正倉院などと呼ばれています。宗像大社と沖ノ島を結ぶエリアはバッファーゾーンに指定されています。つまり、この海域は世界遺産の構成要素ともいえるべき存在!

このエリア内で水中遺跡を発見すれば!世界遺産ですね。これだけ広い海域ですので、水中遺跡は少なくとも50件はあるかな~と想定しています。  


日本の評価

実は、世界から見ると、日本の水中遺跡保護体制はスゴイはず、と思われています。島国であり、多くの文化を中国など外国から学んでいる。そして、鷹島海底遺跡のような世界的に有名な遺跡もある。さらには、世界各地で活躍を続ける先生方もいる。日本は伝統文化を重んじ、技術力を持って遺跡保護をしている。数万件の水中遺跡があって、大学の研究所はしっかりと研究体制が整っており、国や国民の水中文化遺産に対する遺跡は高い。さらに、高い技術力を持ち、水中遺跡研究の最先端…これが、世界の一般の人たちがもつ日本の水中遺跡体制のイメージ。

まあ、なんとも真逆。

これが世界のイメージですが、最近は、現実に気が付ついている人が増えつつあります。特にユネスコや研究者界隈では。

実は、このイメージがあったためと、日本人のあまり外に情報を発信しない性格もあってか、日本の水中文化遺産政策(が存在していないこと)に対して批判をする研究者などは、ほとんどいませんでした。ブラジル、インドネシア、その他の国々は、トレジャーハンターが活躍していたため、遺跡破壊行為だとして、多くの方々が名指して批判をしていました。そのため、国や市民の間で、水中遺跡の保護が盛んに語られるようになりました。

しかし、日本では大掛かりなトレジャーハンターはほとんど存在せず、ひっそりと海から遺物を引き揚げ、コソコソと骨とう品を売りさばくことを続けています。お金儲けに対してネガティブなイメージがあるのでしょう。一攫千金をした人に冷たく当たる世界。漁業権も強いので、「自分たちの海」から何か物を引き上げるのをよくは思わない。ネットオークションをみれば、今でも海揚がり品が取引されていますから、トレジャーハンターがいないわけではない。その特徴が海外とは異なっているだけです。ほそぼそと遺跡が破壊されていく状態が半世紀以上続いています。

それよりも、海岸線1万キロ以上を埋め立ててしまった日本、どれだけ多くの遺跡を破壊してきたのか。トレジャーハンターが破壊した遺跡と比べられないほど多くの遺跡を失っている可能性があります。日本の海で、埋め建てられていない場所、都市部にはほとんどありません。東京湾・大阪湾・福岡湾など、自然海岸残ってますか?そこには遺跡がありました。

おそらく、すでに数万件の遺跡が破壊されてしまっていますが、現在、残っている遺跡を残していく努力が必要です。

幸い、周知の遺跡を増やしていけば、保存は可能ですし、多くの人が水中遺跡について興味を持ってくれれば…。水中遺跡に対する関心の高まりのスピードは、かなり速いものがあります。数年前まで、国内でほとんど誰も聞くことがなかった「水中考古学」というワード、新聞の一面にも記載されるほどになっています。30~40年前から水中考古学が盛んになりつつある国でも新聞のトップになることなどほとんどありません。

これから、いっきに伸びる可能性のある水中考古学…ただし、遺跡を見つけるためには、開発前の調査が重要かと思います。さらに、海で遺跡・遺物を発見した時の連絡先、法律上での水中遺跡の記載について、また、国としての対応(専門機関の設置)、ユネスコ条約を批准するかどうか、などなど政府(内閣府)の対応が必要になります。

あえて点数をつけると、こんな感じです。100点満点で、幅を持たせています(いろんな人がいるから…)。また、30年前の点数も後ろに【】入れています。

日本                 
 政府(内閣府)            20 【5】
 国の文化財担当(文化庁など)     80 【20】
 地方自治体職員            45~85 【25~75】
 研究者                90~95 【80~95】
 一般市民               40~85 【25~65】
   一般の皆さんの中央値は、30点から65点ぐらいに跳ね上がってます。   

例えば韓国は…
 政府                 80 【65】
 国の文化財担当(文化庁など)     85 【70】
 地方自治体職員            60~80 【55~65】
 研究者                85~95 【80~90】
 一般市民               55~85 【40~70】
   一般の皆さんの中央値は、20年前の50点から今は65点ぐらいかな~

この点数ですが、他国の場合、政府~市民の点数の幅は、それほど大きくはないところが多く、また、急激な伸びも政府、一部の研究者や文化財担当者に見られるものの、市民や地方自治体への普及は伸びが緩いところがあります。

ところが、日本は、ここ10年で、文化庁内部、また、一般のみなさんの間で水中考古学への理解が一気に伸びています。

また、アメリカの場合、トレジャーハンターなどもいるので、マイナス点の市民もいる一方、水中遺跡の調査に多額の資産を投じる人もいるので、まあ、点数がつけられなかったりします。

さて、日本の水中考古学評価をサッカーに例えると…

世界からは恐れられているが情報が少ない台風の目。エース・ストライカーは、世界トップクラスであり、その技術力は高く評価されている。そのためか、海外のネットやメディアでは優勝候補との意見もあるが、一部の評論家からは、「潜在能力は世界随一であるにも関わらず、それを引き出すための努力を日本の組織員会は50年以上も怠ってきた」と批判的である。実際のところ、ディフェンス陣が育っていないためスキが多く、また、組織だった試合の組み立ても苦手。選手の層が薄いため試合に出るのもギリギリ。さらに、選手は手弁当で参加し、合同練習の機会もない。組織委員会も国際的な視野に乏しく支援体制が予選も含めた参加国の中で最低であるが改善の予定はないなど問題点は多い。前大会まで自国からのメディアの参加が一度もなかったが、今大会からメディア数社が同行しており、注目を集めつつある。組織員会が世界の動向を受け止め、特にサポートの部分や若手の育成において改善すれば、個々の選手が活躍でき、ひとつのチームとして生まれ変わることができる。来年からは、若手選手を育成する機会も増えるため、次の大会では大きく躍進するのではないかと期待が寄せられている。

書いてみて思ったけど、やっぱりもっとそれぞれの国ついて書きたいな~。時間があれば、別途書いていこうかと思っています。意外と書き出すと楽しくなるので、仕事が手につかなくなる。

例えば、オランダ…
 地方主体や遺跡の国指定制度、登録をして保護をする考え方など日本と似ている部分はある。中央に海事文化遺産部がある。事前調査や漁師の引き揚げ情報などの集約などは中央と地方で行っている。事前調査は、海洋探査会社が実施し、その報告書の内容のチェックをしている。水中・陸上共に発掘に関しても、業者に委託している。業者に対するスタンダードの設定や管理に関しては中央。内陸の水中遺跡の調査に関しては、地方の担当官が発掘調査に視察に行くこともある。外洋や国指定の遺跡の調査は中央で管理、または調査を実施。国際共同プロジェクトなども、基本は中央が主体。遺跡管理方法など基準が明確。
 大学教育に関しては、水中・陸の遺跡を分けて考えないため、海事文化に関しての研究というテーマでは、ライデン大学など各地で学べる。水中に特化したプロフラムはないが、とくには問題はない。技術を学びたければデンマークやイギリスの大学など留学は比較的自由。国のプロジェクトとして遺跡の現地保存の方法や世界に広がるVOC関連遺跡のデータベースなどがある。
 特筆すべきは共有文化遺産として世界各地で調査を実施していること。これは、オランダ植民地の文化遺産の保護のためではない。現地の文化の理解のためにも実施している。相互に協力関係を築き上げることを目指す。例えば、アフリカ東海岸では、スワヒリ関連の水中遺跡の調査を通して現地のキャパシティービルディングのプログラムを実施している。もちろん、オランダの船の調査なども実施。スリランカのVOCの船、アヴォンスター号の調査は有名。スリランカ南部のゴール湾近くにある船。この調査をきっかけにスリランカでは水中遺跡の調査が本格化した。現在では独自の体制を築いており、毎年スリランカの大学生がゴール湾で水中考古学実習に訪れる。また、2000年前のゴダワヤ沈船などの調査が進んでいる。オランダが蒔いた種が成熟した結果と言える。
 さて、オランダには水中遺跡の世界遺産はない。国指定の水中遺跡が10件ほどあった(ように記憶している…)。海と水路を持つ風景など海事文化的な景観など、海事文化的な史跡などは多くあるのは、やはり海洋国家オランダ。海の遺跡や内陸にも橋や船着き場など遺跡は多く関心も高い。海事博物館などには、オランダの国際交流を示す展示(伊万里焼など)もあり、資料がそろっている。
 しかし、一昔前まではオークションで遺物の売買をしていた。80年代後半から問題視され保護する方向へ。フランスやイギリスに比べると、水中遺跡保護に積極的に乗り出したのは、ヨーロッパの中では遅いほう。そのためか、伝統や学術的な権威主義も見られず、法の下でたんたんと作業を進めているイメージがある。 
 自由を尊重する風潮なのだろうか、地元のダイバーなどは自分が見つけた遺跡は自分が管理したいという願いが強く、考古学調査に反発する動きもある。国指定の遺跡以外は、基本は潜水して見に行くことは可能。ただし、未だに盗掘が行われることもあるという。
 ちなみに、VOCの船アムステルダム号を引き上げて博物館に運び込んで、その場で発掘しながら展示する計画が進んでいます。中国方式とでもいうべき手法。アムステルダム号は、イギリスのヘイスティングス海岸にあります。海岸にあるため、水位が下がった時は、船体が露出してしまいます。そのため、このままでは保存はできません。それ故の発掘処置。国ではなく、企業などスポンサーを集めて行う事業。イギリスからオランダまで船を輸送…。かなりのコストがかかりそうですね。

 
残りの国については、ひとことふたこと。(いつか続きを書くぞ!)

アメリカ
 国のスタンスは微妙。世界最初の水中考古学の大学院プロフラム、テキサスA&Mがあり、学術面ではトップクラス。また、故ジョージ・バス先生は国家科学栄誉賞を授与されています。アメリカではノーベル賞に最も近い賞と言われています。それだけ国民・政府に認知された学問であるということ。
 上述したように、アメリカは様々な省庁や州などにそれぞれが独立した水中遺跡調査ユニットを持っています。そのため、システム上はバラバラな縦社会的でありながら人的には横のつながりが密になっています。その横のつながりを強めているのが、大学や学会です。

アルゼンチン
 アメリカなどの大学の調査からはじまり、国内の大学で研究が盛んに。現在、国の組織と大学のセンターの2組織がメインに活動をしています。HMS Swift号の調査が知られています。フォークランド島周辺の沈没船や廃墟となった船は見ごたえがあります。衛星写真でも海岸線にいくつかの船を見ることができます。

オーストラリア
 西オーストラリア州などの調査が知られています。VOCのバタヴィア号は、よく知られています。世界で初めて2国間合意による沈没船調査に関する取り決めが、その後の国際的な沈没船調査のあり方を考えるうえで重要。保存処理や現地保存の手法の研究など最先端の研究を行っています。大学の教育も近年は安定してマスターや博士号を輩出しています。1960年代はトレジャーハンティングが行われていたものの、いち早く排除に成功。他国の船舶も自国の法律により保護されています。旧日本軍の潜水艇や船舶などは、日本主体による保護ではなく、オーストラリアが主体となって保護しています。

クロアチア
 ここ20年で急成長を遂げている国。ザダルのセンターは、精力的に活動を進めており、ユネスコとのつながりも強いです。ローマ時代の沈船などが有名。水中遺跡はオープンアクセスを基本理念とする一方、一時期前までは、盗掘も行われていました。そのため、水中遺跡の周りをケージで囲んでいた例もありました。水中にもぐって網越しに遺跡を眺める…なんとも不思議な感覚。

ブラジル 
 サッカーは強いが、水中考古学の世界では、かなり評価は低い。おそらく、16強のなかで唯一日本が勝てるかもしれない相手。政府が水中遺跡に対して積極的に評価していない。大学やリサーチグループ、研究者は声を上げて改善を求めている。ローマ時代の遺跡や中世の貿易船など多くの遺跡が知られています。

 ちょっと面白い話として…その昔、とあるトレジャーハンターがローマ時代のアンフォラを積んだ船を発見した!と言い出した。大航海時代の1000年前に大西洋を渡ったのか?と一部で騒ぎ出した途端、トレジャーハンターはブラジルから永久追放となった。真相は闇の中へ…。

 全くの余談だが、このトレジャーハンターの方(猪木氏とも仲が良い)は、日本でビジネスの話しを持ちかけてきたことがあった。丁重にお断りしたが、いろいろと話す機会があった。南米のアンフォラは本物だ!政府はうそつきだ!と語っていた。

韓国
 1976年に発見された新安沈船が有名。この船も、偶然漁師が発見している。正確には、漁師の弟が、兄貴の家の犬のエサの皿が超高級な白磁の碗であったことに疑問をもったのがキッカケ。新安沈船の発掘と保存処理を契機とし、博物館・研究所が造られた。最初は海軍が行っていた発掘調査を研究所職員が実施するようになり、急速に発達した。現在は、国立の専門施設が2か所にある。国を中心としたシステムを作り上げた。水中遺跡を発掘できるのは、国立の施設のみ。

イングランド
 ヘンリー8世の旗艦、メアリーローズ号の発掘が有名。丸ごと引き揚げて保存されています。1980年代に発掘、最終的な展示オープンがつい数年前。スウェーデンのヴァーサ号と時々間違われますが、キャリアの長い船です。チャールズ皇太子(現国王)も潜水して作業に参加していました。

 イギリスは、若干トレジャーハンターの問題があったものの、保護体制が整っています。洋上風良く発電を含めた開発に際するアセスメントの適応。また、市民参加型の保護も進んでいます。ダイバーが遺跡を発見した時に記録することなども推奨し、一般向けの水中文化遺産訓練コースなどもあります。 

セネガル
 国として水中文化遺産保護を進めています。セネガルについては、詳しくわかりませんが、国からの派遣でユネスコのトレーニングコースなどに参加しています。周辺国の中では、取り組みも早く開始し、しっかりとした体制を目指しています。奴隷船の調査などが注目をあつめています。20年ほど前までは、奴隷船=西洋の船=自分たちには関係のない遺産、という考えでした。しかし、奴隷船でも地域との関りがあり、ルーツの一部として考えています。 

フランス
 スキューバダイビング発祥の地ですので、やはり水中考古学の調査は盛んです。1960年代から国を中心とした水中遺跡保護体制のシステムが整備されています。当初は50遺跡ぐらいしかなかったものの、(数年前の時点で)約6000隻の沈没船が調査されています。国立の研究所はマルセイユに本拠地を構え、調査船も数年前に新しく造っています。ユネスコ条約批准後は、水中文化遺産保護を進める国際的なリーダーとしての役割を果たすべく、積極的に海外で調査を実施しており、ブルネイや台湾、その他多くの国と連携を強化しています。
 
ポーランド 
 海事博物館が有名。国の水中文化遺産保護の中心的な役割を果たしている。また、ニコラウス・コペルニクス大学の水中遺跡プログラムなども有名。河川の沈没船や水没遺跡、湖底遺跡等の研究が比較的充実しているとのこと。遺跡の発見の多くが、建設などに先立つ調査。普通、どこの国も、漁師・ダイバーからの情報が水中遺跡発見の契機となっていることが多い。それだけしっかりと事前調査の体制が整っているともいえる。もしくは、魚をあまり食べない国なのか?

モロッコ
 1960年代ごろから調査が開始されたと言われています。80年代には、法律により水中遺跡の保護が確立しています。各地の博物館には、海揚がりのアンフォラなどが展示されているとのこと。過去にはスキューバダイビングの規制が厳しく産業として育っていなかったが、現在は変わりつつある。じつは、そのおかげでトレジャーハンティングもほとんど行われてこなかったのはプラス。90年度以降は、海外からの研究者などを迎え水中文化遺産の研究を進めている。

スペイン
 無敵艦隊の国。と言っても、艦隊が沈んだのは、敵国周辺なのでスペインにはない。国にとって重要なのは、やはり、コロンブスの船やガレオン船。スペイン人にとって大航海時代の船は、国を代表する文化遺産ー例えるなら動く姫路城。大航海時代には新大陸から多くの財宝が運ばれたため、その財宝を求めて多くのトレジャーハンター達が沈没船を求めて世界中の海を探索してきました。そのため、失われた遺跡も多くあります。スペインはユネスコ条約を批准し、また、大航海時代の船は国家事業に携わっていたため、国の所有権を主張。トレジャーハンターなどに対して裁判を起こしています。よく、テレビで「発見された財宝の長者番付」などで100億の財宝!とか言っちゃてますが…結局、スペインが裁判に勝って遺物はすべて没収、おまけに数億円の賠償金なども請求されちゃってます。

 やばいのは、もし、日本の領海内で海洋開発工事により壊れたガレオン船が発見されてしまうと…。日本政府の対応の悪さが露呈してしまうことに。


ポルトガル
 大航海時代の英雄を生み出した国。やはり、船や航海に対しては興味(や誇り)を持っている人が多いようです。海事博物館などには水中遺跡の展示があります。国のシステムは法的には整備されていますが、なかなか資金難などもあり難しいところもあるようです。アゾレス諸島などの調査、また、アフリカなどでも調査を行っています。
 国内の遺跡では、17世紀のペッパーレックが有名(大量の胡椒を積んでいた)。日本刀の「つば」も発見されています。記録によると、ミゲルという名前で知られた日本人が乗っていたようです。海外では、ケニアのモンバサ沈没船やナミビアのオラニエムント号などが有名。オラニエムントは、ダイアモンド採掘中に発見。国の役人も立ち入ることができない絶対立ち入り禁止区域内で調査が行われました。

スイス
 水中遺跡調査発祥の地!もちろん内陸国です。19世紀に干ばつがあり、湖の底から大量の杭が出現。湖の上の杭上生活住居跡として知られています。実際には、その多くは、陸にあった遺跡で、水面上昇により水没した遺跡であると考えられています。オーストリアなど数か国にも同様の遺跡があり、世界文化遺産に登録されています。数年前にユネスコ条約を批准。また、大学でも水中文化遺産を研究しており、他国に赴いて調査をしています。


あとがき(1月1日追記)

いやあ、書きすぎたな~という一言。16強の水中考古学の体制を日本と比べてみようという、思い付きだったが…。

この投稿を基に、論文にしてもよいかもしれない。いくつか単体でも論文になりそうなところがありますね。

再度、忠告。思い付きでざっと書いているだけですので、文脈はめちゃくちゃなところもあるのは、ご了解ください。

いくつか水中考古学の書籍のリンクを貼っておきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?