野良猫的ポケモンGO日記

深夜1時。電車も静まった頃。そわそわしてくる。
出るのか出ないのか。
ポケモンのトレーナーとして。
行くしかないか……。後悔はしたくない。

時は先週の金曜日にさかのぼる。やはり深夜。
今ならいけるのではないか。そう思い自転車に乗り込む。

ポケモンGOというゲームはポケモンを集めるゲームなのだけど、
現実世界の特定箇所に埋め込まれた拠点を奪い合う陣取りゲームでもある。
拠点は、近所の公園だったり、街中におかれたゆるキャラの像だったり、神社だったりする。

いま僕が住んでいる場所からは6つ拠点を見渡せる。
その晩、たまたま、自分の勢力が幅を利かせていた。
珍しいこともあるものだ。
拠点を取り続けていると、ゲーム的にありがたいボーナス(えさ)がもらえるしくみになっている。
それに僕の捕まってしまったポケモンたちも少しは活躍もしたいだろう。
弱小トレーナーにはまたとないチャンスであった。


滞在先の入り口では野良猫が寝そべっていた。
怪訝な表情でこちらを見ているが、こちらは一刻を急いでいる。
そこでゆっくりするがいい。僕は行く。

少しひんやりした外気はぴりっとした気持ちにさせる。
地図を見ながら普段はまったく縁のない近所を自転車で進んでいく。
暗闇の中、もうひとつの自然に吸い込まれるように。

いた。
携帯を持っている。
ライバル。敵。
拠点は目と鼻の先だ。
抜け駆けできると思ったがそう甘くないか。
向こうも気づいているだろう。
だいたいこの深夜に公園の入り口に一人で立ち一心不乱にスマホをタップしている。
自然ではないのだ。

もう一人。おじさんが明らかに僕と同じ場所を目指している。
深夜だからよく目立つ。
もちろん僕も引き返すわけにはいかない。
向こうは徒歩だ。ヒットアンドアウェイでいく。

スポーツマンシップならぬゲームマンシップを期待したいが、
赤の他人との一期一会であり、現実世界とゲーム世界の両方で競っている。
何かが起こってもおかしくない。

正直少しおじけづいていた。
拠点にポケモンを配置しすばやく立ち去る。
自転車をこぐ速度も無意識で上がっていただろう。

その勢いついでにもうひとつの拠点へ足をのばす。
さきほどの場所から500メートルぐらいの距離だろうか。
今度は周りに誰もいない。なんなく別のポケモンを配置する。

制圧する喜びみたいなものが自分の中にあるのを確認する。
一箇所の次はもう一箇所、あと一箇所。
欲が出る。

結局5キロぐらい動き回って、6箇所にポケモンを配置した。
初陣の達成感をもとに300円もするアイスクリームを買い自分の巣に帰る。
行く時にいた野良猫は姿を消していた。
椅子にどかっと腰を下ろして再びアプリを起動する。

やられた。
僕がポケモンを配置した拠点は別の勢力に奪い返されていた。
もう一度外の世界に赴き奪い返すか?
いやそんな体力はもうなかった。
全てが水の泡。泡。

野良猫は日々、このような縄張り争いをしているのだろうか。
生きるためとはいえ実に難儀だ。
この世は実に。

今日もまた奪い奪い返されて生きている。


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