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頼りない最新ベトナム映画紹介/『BÊN TRONG VỎ KÉN VÀNG/Inside the Yellow Cocoon Shell』(2023)


今年5月のカンヌ映画祭では役所広司の『PERFECT DAYS』や、是枝監督の『怪物』が賞を獲り話題になりましたが、これはカメラ・ドールを獲った作品。監督の初長編映画が選考対象なので平たく言えば新人監督賞です。
Phạm Thiên Ân/ファム ティエン アン、ベトナム映画界期待の星です。
 
ベトナム関連では今や巨匠の域にあるTrần Anh Hùng/チャン アィン フン監督が1993年に『青いパパイヤの香り』で受賞して以来の快挙で、この度、国を挙げての一斉公開と相成りました。
難解文芸作品なので客の入りはどうかと思っていたら、公開最初の週末の昼で100席中15席は埋まりました。
 
物語は男たちがサイゴンの裏町のビアホイで人生について語り合う場面から始まります。何のために生きているんだ、みたいな。
その後男たちはサウナで腰にタオル巻いて議論し続けます。状況とセリフのギャップに深い映画の予感がします。
サウナの後はマッサージというワケで、主人公の男が真っ赤な金太郎腹掛けと超ミニ姿のおジョーちゃんにキモチよくされかけたところに義理の姉、つまりは兄のツマが交通事故で死んだという知らせが入ります。小さな子どもとバイクで事故に遭い、子どもはほぼ無傷で助かったと。
 
兄は行方不明で、男が子どもを連れて義理の姉を故郷に運びます。途中、霧が谷を埋める風景が美しい。
田舎の村でキリスト教式の葬儀が始まります。葬儀の後で男はいろいろ世話をしてくれた老人に会いに行きます。老人は戦争中の体験を静かに語ります。男の意識がどこかに飛んでいきます。
 
男は子どもを幼稚園の先生をしている昔の恋人に預け、兄を探し始めます。恋人とは数年前に別れて男はサイゴンに出て行きました。男は別れるときに恋人に待っていてくれるかと聞きますが、恋人はわからないと答えます。
その記憶を引きずりながら男は故郷の山の中を彷徨います。途中何度か男が眠ってしまい起きると世界が変わっています。バイクの修理屋では老婆に何のために生きるかと話しかけられながら寝ます。それで起きると周りに誰もいなくてただ雨が降っています。
 
兄の居場所がわかり兄の今のツマ?とその乳児と湖畔の兄の仕事場に行きますが兄はいません。子どもを見ててくれと女に言われ男はじっと待つ間に寝てしまいます。起きるとまた、、、
 
 
カメラがシーンごとにほぼ固定され画面の中を風が吹き抜けます。人物はカメラに映る範囲で何をしているのかがわかります。
そういう表現と相俟って、その場その場の情景が脈絡のない切り取られた時間の断片のように描かれます。ワタシの時間とあなたの時間。今のこの現実って、、
 
主演はLê Phong Vũ/レ フォン ヴ―、朴訥な中に今の時代が抱える暗い影を感じさせます。
Nguyễn Thị Trúc Quỳnh/グエン ティー チュッ クインは別れた恋人役。過去は忘れ今を強く生きています。
原題の意味は英語とほぼ同じですが黄色い繭は登場しません。繭に包まれて寝ている間に世界が変わっているというイメージは、あの小説を思い起こさせました。

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