濱口 鵺

とりあえず昔に書いた詩を108つ掲載してみます。

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最近の記事

いのり

愛する人よ 優しい言の葉と素朴な態度 魂を洗う美しい眼差しにめぐまれ 運命の褥のもと 長く心の平穏が留まりますよう 陽光にあふれ 道を歩くだけでこの上ない幸福を感じ 曇った心も長くは留まらず 願えば夜にでも虹がかかりますよう いのちは短い 星降る夜に 命を絶つような思いにならぬことを この世の美しさと醜さに目がくらみ 自分のどこを探しても魂がみつからない日が訪れぬよう 神の一息が全身の隅々まで行き渡りそれが生涯に渡って続きますよう 及ばぬ事の限りまで感謝と祈りをこめて

    • 4.さかさの日記

      病院の廊下には朝の青白い日差し 僕は泣いている人や神妙な面持ちの人に囲まれながら息をしている それもだんだん苦しくなってきて 僕は今までずっと息をしていたんだな、と思う そしてしばらく薄明かりだけの夢を見て ふっつりと僕の命は途絶える 手や足から温かみが抜けて行って 温められたよろこびや 温めた嬉しさも消え失せる 随分若かったね、などの声を聞きながら 祖母に夏の祭りに連れていってもらったことを思い出しながら突然全てが無くなる 思えばいままでぼくはなにをしよう

      • 3.くうき

        空気になりたいな 透明になってさ なにもなくなってさ ハーモニカをたすけてあげるんだ 空気になりたいな なにもなくなってさ いいところで思い出せなくなって それも思い出せない 透明はきれいだぜ 空気になりたいな どこまでもいってさ どこにもいってないけど もうなにもないからそれでいいのさ

        • 2.まるい

          心の中心にまるを想像する そしたらなにかがはじまって丸のなかいっぱいになって そうして終わっていく さみしいようでうつくしくてみとれたりもする じょうずもへたもない一人だけのはじまりと終わりの世界 抱きしめる人がだれもいないなら はげましてくれる人が誰もいないなら そうやって自分のいのちを抱きしめる いのちをみつめていると どこか夢の世界につながっているんじゃないかな、とおもう

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        • 描いた絵
          3本
        • あなたの知らない街をご案内します。
          2本
        • 不定期夢日記
          3本

        記事

          1.うつくしいこと

          うつくしいってなんだろうか。 意味が脱落して対象と向き合える事だろうか。 快楽の果てにある虚脱だろうか。 眠りから覚めた時のここがどこだかわからない感じだろうか。 自分の身体以外から大きな時間を見出すことだろうか。 今日という日々は二度と戻らないと肌で嗅ぎつけることだろうか。 還元不可能な景色のありようか。 様子にこちらの用事を奪い去られることか。 虚空に永遠に響き渡るような愛の言葉か。 いつか失う事に気づく事だろうか。 阪和線にかかった大きな虹だろうか。 動物の乾いた

          1.うつくしいこと

          コロニーの街

          あそこってさ、地域の名前とかは区画で違うのかもしれないけど、入っていったらわかんだよ。 あー、来たなあ。ここだよなあ、ここの感じだよなーって。 ものは散らかってるし、だれもかれも道端にすわったり大声で話し合ったり、人がちょっとおもしろい柄のシャツなんか着てたら指先でひっぱられたりなあ。 とにかくみんながみんな人の事をすごく気にしてそれでいて全く気にしてないんだ。 俺があの街の飲み屋でちょっといっぱいやろうとしたときだよ。 隣のおやじときたら 「おい、こいつに名前と、5万円ばっ

          コロニーの街

          永遠の夏の夢

          チューペットをくわえながらクーラーのよくきいた部屋でテレビゲームをしていた。 窓のカーテンは開かれていて、澄んだ水色に大きな入道雲の夏の空が広がっていた。 僕のいる洋室のフローリングにも強い日差しが入り、日向のところだけ光の模様がもやもやしている。 埃が薄く舞い上がり、きらきらと時間が堆積していくのを眺めるようだ。 テレビゲームにも飽きて、椅子にあおむけにだらんと身体を引っかからせて、逆さの視線から天井をながめながら はやくおとなになりたいなあ、なんて思っていた。 なんでも

          永遠の夏の夢

          なみよせて

          なみよせて

          すずしいところ

          すずしいところ

          鯨の胃袋でできたクラブの夢

          そのクラブはなんでも鯨の胃袋や肺を壁材にあしらっているらしく、低音が響くたび異様にたわんだり膨らんだりする。 おれはそのクラブでおおっとか、わっ、とかいいながら蛍光グリーンの炭酸飲料をおおかたこぼしながら中二階にあがろうとする。 耳の可聴範囲ギリギリのど低音に一音ごとにニュアンスが変わってゆく異常に輪郭のはっきりしたハイハットの音。 それに清潔な声質なのだがそれがやたらに猥褻に聞こえる女のささやき声。なにを言っているかはわからない。 蠱惑的な音楽にぐらぐらにされながらどこかゆ

          鯨の胃袋でできたクラブの夢

          ぶどうの夢

          深夜、ふいに目を覚ました。 ふと気になってキッチンのテーブルに置いておいていた葡萄を眺めた。 葡萄からはちりちりと小さな光が蒸発するように立ち上っており、葡萄の生命が少しずつひかりとなって失われてゆくようであった。 私の家は、都心の交通量の多い高層マンションの中層階である。 窓から漏れてくる光が、部屋中を赤や青、黄から紫へと様々な色に柔らかく照らし出す。 ふいにこの葡萄が、この世にある物質で唯一、わたしが生まれてきて、現在存在していることの不思議を知っているような気がして息を

          ぶどうの夢

          雨と話す町

          あれはどの道をどう曲がってあの街にたどり着いたのだろうか。 小雨の降る中、少し憂鬱な気持ちに合わせて山間の道を右に左にと軽自動車を走らせているうちに着いたのだった。 そこは海を眺めれる小高い場所で、四十から五十世帯が連なる集落だった。 どこの道にもどこの民家の庭にも紫陽花がところ狭しと植えられ、まるで緻密なちぎり絵のように精緻な景色を織り成していた。 特徴的なのは民家の屋根のどれもが巻貝型の形をしており、その屋根の先端はおおきなおおきな金色の中華鍋のようなものが貼り付けられて

          雨と話す町