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ユーティリティプレイヤーの必要性を考える

『ユーティリティプレイヤー』という言葉を、野球を見ている皆さんならご存知だろう。
一般的な認識として、多くのポジションをこなす便利な選手というものだが、近年、野球界においてこのユーティリティプレイヤーはかなり重宝され、国際大会に置いて必ずと言っていいほど召集されるようになった。
では何故ユーティリティプレイヤーの必要性が増しているのかを今回は考えて行きたいと思う。

ユーティリティプレイヤーの定義

まずは今一度『ユーティリティプレイヤー』とは一体どういったモノなのかを再確認したいと思う。

主にバッテリー以外の複数ポジションを守ることができる選手を指す傾向にある。日本では内外野問わず、2つ以上のポジションを守れる選手を指すことが多いが、MLBでは内野手と外野手の両方を守ることができる選手を指す。内野のみで複数のポジションを守れる選手は、ユーティリティ・インフィールダー(Utility Infielder 略称:UI)と呼ばれ、ユーティリティープレイヤー(略称:UT)とは分けられて表記されている  
-wikipedia参照-
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC

上記のように、ユーティリティプレイヤーとはバッテリーを除いた2つ以上の複数のポジションを守ることのできる選手を一般的に指す。

しかし僕にはこれが不思議でならない。なぜならプロの選手ほどの身体能力ならば2つのポジションをこなすなど然程難しいものでも無いからだ。
例えば僕が普段応援している読売巨人軍には岡本和真という選手がいる。
岡本は普段守っている1Bに加え、元々守っていたLF、更には今季から3Bも守っている。
ユーティリティプレイヤーという定義に当て嵌めれば、岡本は3つのポジションを守ることのできるユーティリティプレイヤーと言える。
他の例で言えばDeNAの筒香嘉智も岡本と同じく1B、LFに加え、今年はシーズン途中に宮崎敏郎が怪我で離脱した為に3Bも守る。
定義に当て嵌めれば筒香もユーティリティプレイヤーと言えるだろう。

しかし、彼らがユーティリティプレイヤーと言われるのには何か引っ掛かりを覚える。
これは僕個人の感覚であるから、そうでない人も勿論いるだろう。
しかし引っ掛かるのだ。

ただ守るわけではない

恐らくだが、僕が岡本や筒香がユーティリティプレイヤーと呼ばれるのに違和感を感じる理由は守備にあるのだろうと思う。
守備とは味方チームの得点を『守る』ものであり、相手チームの攻撃による失点を『守る』ものなのだ。
守備の指標の中でも有名な指標に『UZR』というものがある。
これは

UZR(Ultimate Zone Rating)とは同じ守備機会を同じ守備位置の平均的な野手が守る場合に比べてどれだけ失点を防いだかを表す守備の評価指標である。その守備位置の平均的な守備者のUZRはゼロとなり、優秀な守備者は+10や+20といった数値になる。
-ESSENCE of BASEBALL参照-
https://1point02.jp/op/gnav/glossary/gls_explanation.aspx?eid=20026

と言うものである。
簡単に言えば平均よりどれだけ点を防いだ/失ったかということで、セイバーメトリクスにおける守備の指標で最も有名と言ってもいい。
また、単純なUZRでは出場数などの誤差があり比較が難しいので、1000イニングあたりで換算するUZR1000や、1200イニングあたりで換算するUZR1200と言うものもある。


例えば2018年シーズンのUZR1000のパ・リーグトップは西武の源田壮亮で24.2であり、セ・リーグトップは巨人の吉川尚輝で13.7だった。
つまりこの2人は1000イニング守ったときに、そのリーグの平均的な選手よりも吉川は約13点、源田に至っては約24点分の失点を防いだことになる。

これを踏まえた上で先程上げた岡本と筒香の2018シーズンのUZR1000を見てみると、岡本が-7.4、筒香が-10.6となっており、どちらもリーグ平均を大きく下回る数字となっている。

つまり彼らはプロ基準で言えば下手なのだ。
実際、巨人ファンやDeNAファンは岡本や筒香が守備でミスを犯しても、ある程度はしょうがないと割り切って見ているだろう。

僕が感じた違和感はまさにそこにある。
ユーティリティプレイヤーとは、複数のポジションを『守る』選手なのだ。
果たしてリーグの平均と比べ岡本は約7点、筒香は10点ほど守備で失点している彼らが本当に『守っている』と言えるのだろうか。

本当のユーティリティプレイヤー

では一体ユーティリティプレイヤーとは誰を指すのだろうか。
僕の1つの理想として、西武・外崎修汰が上げられる。
彼の魅力と言えばバッテリー以外全てのポジションを守れることだろう。
絵に描いたかのようなユーティリティプレイヤーである外崎修汰の2018シーズンのUZR1000は4.6と『守っている』ことが分かる。
この守備に加えて今季ここまで打率.271、20本塁打、78打点、20盗塁、OPS.831と来季はトリプルスリーも狙えるのではないかというほどの成績を残している。
辻監督が重宝するのも頷けるだろう。

しかしユーティリティプレイヤーをここまで育成し、レギュラーとして毎試合出場させるのはかなり酷なものだ。
事実、現DeNAの大和(セカンド、ショート、外野を全て高いレベルでこなすスーパーユーティリティ。2014年にはセンターでUZR21.4を記録した。)は阪神時代のどこでもできる守備固めという扱いが嫌でレギュラーとして起用してもらえるDeNAに移籍したという話もある。
しかしいくら守備が上手いとは言え、大和はプロ入りしてからOPSが.700を超えたシーズンは一度も無く、最高でも2013年シーズンの.654である。
この打力では確かに毎試合先発出場させるのはかなり厳しいだろう。
どこでも守れて、クリーナップを打てる打力もある外崎がかなり異質な存在なのだ。

僕はMLBを殆ど見ないので、MLBにおけるユーティリティプレイヤーがどんな意味を指すかはまったく分からない。
しかし、NPBに置けるユーティリティプレイヤーを敢えて再定義するのであれば、『内野4ポジション、または内野と外野をそれぞれUZR0以上で守れる選手である』とする。
つまり就けるポジション全てにおいてリーグの平均か、それ以上守れる選手をユーティリティプレイヤーとして僕なりに定義したのだ。
これが『本当のユーティリティプレイヤー』かどうかは賛否両論あるだろうが、一先ず僕個人として、本当ユーティリティプレイヤーとはこういうものだとしよう。

野手のポリバレント化

ユーティリティプレイヤーを再定義したところで、次に移ろうと思う。
現在の野球において、ユーティリティプレイヤーの需要はかなり高まってると見ていいだろう。
僕の再定義したユーティリティプレイヤーには含まれないが、複数のポジションをこなせるような選手はかなり増加していると見られる。僕はこれを『野手のポリバレント化』と勝手に呼んでいる。
ではなぜ1人で何役もこなさなければならなくなっているのか。それは投手運用の変化が鍵を握っていると思われる。
キーワードは『投手分業制』だ。
日本野球界でも投手分業という言葉はかなり浸透してきている。
一応意味が分からない人に僕なりの解釈を伝えるとすると、投手一人一人にそれぞれの役割がきちんと与えられ、誰か1個人に負担が集中するのを避けるのが投手分業だ。
簡単に言えばクローザーやセットアッパー、敗戦処理、ロングリリーフなどをそれぞれ専門職が独立して行うことである。
この投手分業によるメリットは投手の一人一人の負担が減ることだ。
巨人で考えれば、クローザーデラロサ、セットアッパー澤村、中川、敗戦処理宮國、ロングリリーフ田口と言ったような役割分担が成されている。
これにより、原監督の手腕も大きいだろうが、開幕前に最大の弱点と言われていた中継ぎはかなり改善された。
中継ぎが改善されれば当然先発は責任投球回まで投げきれば後は任せることができる。
事実、昨季6完投2完封した山口俊は今季まだ完投0、同じく昨季10完投8完封した菅野智之は今季3完投1完封と大幅に完投数を減らしている。
投手の負担が減ったのは火を見るより明らかだろう。

しかしこれにはデメリットも当然付き纏う。
これが先程記した『野手のポリバレント化』の原因でもあると考えている。

単純に野手の負担が増えたのだ。
投手分業制によって中継ぎの重要度が増して行き、役割の明確化から中継ぎの人数を増やさざるを得なくなった。
そうなれば野手の人数を減らすのは当たり前となり、すると野手一人一人に求める事が多くなることで要求されるポジションが増え『野手のポリバレント化』が急速に始まったのではないかと考える。
つまり、始めからユーティリティプレイヤーが求められたわけではなく、『野手のポリバレント化』が進んだ結果、ユーティリティプレイヤーの重要度が増したのだ。

国際大会で際立つポリバレントプレイヤー

今度は国際的な目線で考えてみよう。
NPBでは、現在1軍に登録できる人数の上限が29人(ベンチに入れるのは25人)となっている。しかし国際大会になるとWBCやプレミア12では28人、東京五輪に限っては24人となる。
当然投手を減らすわけにもいかなくなり、結果的に野手の人数を減らさなくてはならない為、野手には1人で複数ポジションを守れる選手が多くメンバー入りするだろう。
稲葉監督の初陣であるU-23アジアプロ野球チャンピオンシップにおいて、スーパーユーティリティ外崎は勿論、普段はショートを守る京田をセカンドへと短期間でコンバートさせたり、複数ポジションを守れる西川龍馬、松元剛を召集したり、当時捕手登録だった近藤健介を外野手として起用したりと、とにかく『野手のポリバレント化』を感じた。

恐らくプレミア12や東京五輪では上記のような事がほぼ必ず行われると見ていい。
つまり柳田悠岐のように、余程飛び抜けたセンスと実力を持ち合わせていない限りは普段からポリバレントにプレーして活躍している選手ほど選出されやすいと思われる。


ここで敢えて『ユーティリティにプレー』では無く『ポリバレントにプレー』と記したのにもきちんと理由がある。
ユーティリティプレイヤーは総じて打力に不安を抱える選出が多い。
国際大会では当然打力が必要になる為大和のような、代表クラスと比べると打力の低い選手は選出しづらいのだ。
だからユーティリティとは記さず、敢えてポリバレントと表した。
個人的な見解ではあるが、ユーティリティプレイヤーはどこでも『守れる』選手であり、ポリバレントプレイヤーはどこでも『こなせる』選手と考えており、岡本や筒香などはこちらに含まれる。
代表クラスの打力を持つユーティリティプレイヤーなど外崎しか思い浮かばないが、ポリバレントプレイヤーなら複数人いるため、できればユーティリティを召集したいが、ポリバレントでも充分だろう。
大事なのは複数ポジションを『こなせる』代表クラスの打力を持つ選手をできるだけ選出することなのだから。

最後に

ここまでつらつらとユーティリティプレイヤーについて語ってきたが、念の為断っておくと全て僕の個人的な見解だ。
不満も勿論あるだろうし、認めてもらいたいとはあまり思わない。
結局こうして文に収めて、勝手にやりきった感を覚える自己満足なのだ。
ただ、一応結論を言うと実はユーティリティプレイヤーは思っているよりも必要とされていない。
この先重視されるのはいかに『ポリバレントであるか』なのだ。サッカーW杯のときも西野朗監督はポリバレントを重視して中島翔哉を召集しなかった。
結果日本は過去最高に並ぶベスト16でその大会を終えた。
競技は違えど必要になってくることは必然的に似てくるというのもまた球技の面白さなのではないだろうか。
話を戻すと、勿論ユーティリティなのは大事なことだ。
色々なポジションを全て高いレベルでこなすプロ野球選手は本当に偉大である。
しかしその反面、守備に執心しすぎて打撃をおろそかにするのは以ての外であり、打撃か守備かの0か100かでは無く、その間の絶妙なバランスこそが大事になると僕は考える。

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