事例報告は苦手でした

事例報告は苦手でした.
というかそもそも興味がなかった.最初のきっかけは科長から「法人内で全国規模の学会を開催していて,来年度はうちの施設からも演題を出すことになりました.君も経験を重ねてきたからそろそろやってみない?」と声をかけられたことだった.
完全に貧乏クジ当選.ありがとうございます.業務命令なんでしょ?拒否権ないんでしょ?やりますやります.やらせていただきます.はい喜んで.

とりあえず独力でまととめてみたけど,ポスターにテキストを書いただけのもの.今思えば大変に稚拙なものだったが当時はかなり頑張ったと感じていた.
無知って怖いねw

学会本番,他にも張り出されたポスターを見て思った「ふーん.他の皆んなも大したことないじゃん.なんなら自分の方が良く出来ているんじゃない?」
後から知ったけど,会場は学会発表初心者向けのコーナーだった.
よく見ると自分よりもずっと若い人ばかりだった.その年齢でもう学会発表とかしてるんですか?凄くない?
僕はずっとサボってきたから今更経験年齢とか聞かないでください恥ずかしい.
恥ずかしさのあまり同じ会場の他の演者とはほとんど言葉を交わせなかった.緊張と恥ずかしさで早く帰りたかったんだろうねw

何とか発表を終え,その後はポスターの横に立って質疑応答に答えていた.
隣のポスターはやたらと盛り上がるのに自分のところはチラホラと来る程度.
この差はなんなんやろうかとぼんやり考えていた.
そんなときあの人が現れた.

見たところ40代ほどの女性は僕のスライドをじっくりと眺めていた.
じっくりと眺めたあと,ポスターの隣に立つ僕と目があった.
ゆっくり微笑んで「ちょっと伺ってもいいですか?」とはじまった質疑応答.

質疑というより,専門用語の使い方や考察のまとめ方,スライドデザインの行い方について建設的なアドバイスを沢山もらった.
実践内容を否定せず,どうしたらもっと聴衆に伝わりやすくなるのか?どうしたらもっと自分の考えを表現しやすくなるのか?
初心者向けのコーナーだったからそういったアドバイスをくれるのは不思議なことではなかったのかな.

一通り話すとその人は「また機会がありましたら」と爽やかに去っていってしまった.
あんな先輩が職場にいて,一緒に事例報告を作成してくれたら本当に頼もしいだろうなと思った.
この学会に来てよかったと思えた瞬間だった.

その後も何度か学会発表を行ったけど,当時勤めていた職場にはそもそも倫理審査委員会はなかったし,外部の学会への発表を行った前例が無かった.
当然,指導してくれる先輩もいなかった.

誰も教えてくれないのから自分でやるしかない.
だけど,本当にこれであっているのだろうか?
自分が伝えたかったことは正しく伝わっているのだろうか?

言葉にできないような不安を学会会場で僕の発表に興味をもってくれた方に何度も訪ねた.
発表を聴いてみて,資料を見てみて,率直な感想はどうでしたか?
伝えたいことは分かりましたか?
記載方法など改善できそうなところはありますか?
来る人来る人に手当たりしだいに聞いて回っていたから相当変な人だと思われていただろうね.
職場内での余演では誰も何も言ってくれなかったのだから,何でも良いから反応が欲しかったのかもね.

これをやってみて気づいたことが2つ

ひとつは,同じような悩みを抱えている仲間は全国にいっぱいいる.指導者が一緒に事例をまとめてくれる職場は当時としては本当に少なっかった.
ふたつめは,僕のように経験は無いけど学会発表をとりあえず行ってみるという人は本当に少数.一人で事例をまとめて発表するのは初めての人にとっては本当にハードルが高い.一緒に取り組んでくれる仲間の存在は想像していた以上に心強い.

自分は発表なんて.
そんなのもっと経験を積んでからじゃないと無理じゃないですか?
やってみたいけど何からやったらいいのか分からなくて.
やっぱり自分には無理ですよ.
職場の後輩たちに聞いてみたらこんなことを言われた.

本当に無理かな?
僕のように取り敢えず飛び込んでみろとは言わないけど(そのぶん恥も沢山かいたし),一人じゃ心細いなら一緒に取り組んでくれる仲間がいれば心強いのかもね.
頼れる人はいる?
僕もまだまだ下手くそだけど,一緒に悩むくらいは出来るかもね.
一緒に悩んで迷って,明るい方に歩いていってみようか.肩を組んでね.

上手になったら,今度は僕の事例報告を一緒にまとめてよ.
まだまだ先の話だった?そうかな?

そうやって細々とだけど,後輩の法人内外の事例報告をサポートするようになった.
サポート方法の正解は分からなかったけど,一緒に取り組む過程や堂々と発表している姿を目の当たりにすると本当に嬉しくなるよね.

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