意味のある作業

意味のある作業という言葉について作業療法士ではない方から質問をいただいた.

作業の意味とはなんだろう?
意味のある作業とはなんだろう?

文章にしてみるととても美しく見えるよね.
言葉に出してみるととても美しく聞こえるよね.

その内容はなんなんだろう?

クライエントに,家族に,学生に,同僚に,多職種に,
みんなが理解しやすい言葉で
それでいて本質を捉えた言葉で説明できていますか?

書籍や論文に書かれている言葉はとても勉強になるんだけど,そのままの言葉で彼らが納得してくれるかな?
そのままの言葉で真意が伝わるかな?

ほんとうに頭の良い人は難しい現象を面白おかしく話すことが出来る人だと聞いたことがあるよ.
つまり僕では役不足かもね.

ひとは生きていく営みの中で絶えず無数の作業をしている.
作業なしではひとは生きていけないそうだよ.

ひとが取り組む作業には常に何かしらの意味がある.
あなたが気付いていなくてもね.

ただ歩くだけじゃない.
ただ食べるだけじゃない.
ただ抱き合うだけじゃない.

それにはどんな意味があるのだろうね?
その意味を知ることは作業療法士である僕にとってどんな意味があるのだろうね?

面接評価の時によく尋ねます.
「どうしてそれが好きなの?」
「それにはどんな意味があるの?」
「それをすることで将来どうなりたいの?」
何度繰り返しても我ながらくどいなと思う.

クライエントは怪訝そうな顔で
「そんなこと考えたこともなかった」
「どうしてそんなこと聞くの?」
と答えることが多い.

一瞬の気まずさ.
振り返り考えてもらうために答えを急かすまいと更に沈黙を味わう.

どうしてそんなことを聞くんだろうね?
聞かなくてもリハビリテーションは出来るのかもね.
聞くことで気まずい空気を味わうことになるのかもね.
それでもやっぱり聞きたいんだよね.

なんとなく動作の練習を繰り返すことは作業療法ではないと思っているから.
作業の意味を理解しないと作業療法が出来ないと思っているから.
支援している作業にどんな意味が込められているのかを知らないと他者に作業療法を説明できないと思っているから.

そこに至るまでには教科書や論文に書かれていないような泥臭さが横たわっていることの方が圧倒的に多いんだけど,
時々はこんな面倒くさいことを聞くのはもうやめにしようかと本気で考えることもあるのだけれど,
それでもやっぱり聞きたいんだよね.

今日はクライエントと一緒に数年ぶりの編み物をした.
「本当に準備してくれたの?」
「話はしたけど忘れられたと思ってた」
「久しぶりだから出来るかしらね?」

暇つぶしのためにと行っていた塗り絵が編み物に取って代わっただけに見えたかもね.
その作業の意味はクライエントと僕しか知らない.今のところは.
実動作場面の評価結果とクライエントが作業に抱く意味を来週のカンファレンスでみんなに伝える予定だよ.

このクライエントはどうして編み物に取り組みたいと思っているのか.
編み物という作業はこのクライエントにとってどんな意味があるのか.
この作業に取り組むことで,このクライエントは将来どうなっていくのか.

さて,全員の感情を揺さぶるにはどうやって伝えたら良いものか.

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