#しらたまの台本プラス9 【10分想定朗読台本】流星群の夜

完全に趣味に走った、朗読台本です。
読み聞かせ、寝かしつけに使えるように設計しているので、急がずにゆっくり読めば10分を超える尺になるかなと。
数字を狙うよりも、コアなファン層ををつかみたい人、ファンコンテンツ、ループ音源用に作成しています。
フリー台本で改変も可能なので、ゆるく使ってください。
ちなみに、リアルとフィクションの両方混ぜ込んでいるので、規約の後に元ネタになった地域の情報とかも入れておきます。

流星群の夜

肩に食い込むような重いリュックを背負って、早朝に家を出た
天気予報は晴れ、絶好の天体観測日和だが、山の天気はかわりやすい
期待する心とは別に、突如現れてくる不安も抱えながら電車を乗り継いでいく
電車を降り、1日数本しかないバスに乗って終点につく頃には昼を過ぎていた
終点にたどり着く頃には、自分は一人きりになっていた
そこで待っていたのは、日本でも指折りの過疎地として知られる村からは想像できない、観光客の姿だった
中には海外の方らしい、金髪碧眼の男性、女性も混ざっている
それぞれが大きなリュックを背負い、カメラを持っているため、一目で目的がわかった
ここは「雲海が見える村」として有名になっていた
交通が不便すぎるがゆえに人口が減り続け、いずれ消滅するかもしれない山奥の村
人口減少で産業らしい産業もなりたたないこの村は、その環境ゆえに早朝に雲海を見られるチャンスが多い
普段住んでいるところでは霧にしか見えないものも、高所から見下ろせばそれは雲の海に見える
寒暖差が激しい山地であれば、雲海の発生率はなおさら上がる
それでも、自然の気まぐれに弄ばれてしまうのは仕方のないことだが、折り返すバスを待つ人たちの表情は一様に晴れやかだ
交通が不便な土地だからこそ、自分で車をレンタルするか、不便を承知でキャンプでもしなければ雲海の撮影はできない
村は過疎化と高齢化が進みすぎて、宿の一つもないからだ
彼、彼女たちは、その苦労に見合う景色を見られたのだろう
自分もその幸運にあやかりたいと思いながら、バスを降りた
目指す場所はそう遠くない
ただ、事前に調べたとしても土地勘がないことは事実だ
すれ違う人々と軽く会釈をしながら、歩みを進める
たまにいぶかし気な顔をする人も混じっていたが、特に気にもならなかった
雲海だけを目的に来るのであれば、時間が早いと感じる人もいるからだろう
街の明かりも、月の光も星を隠してしまうが、これだけ過疎化が進んだ村であれば光の影響は少ない
自分は雲海を見下ろす側ではなく、星を見上げる側だ
同好の士がいたとしても、車を使った方が便利なのはわかりきっている
道中ですれ違うことはないだろう
不便を承知で、電車とバスという交通手段を使ったのは、いずれこのバス路線もなくなってしまうかもしれないからだ
星を見上げていると、その光は何百年前、何千万年前のもので、今はなくなっているかもしれないと思うことがよくある
星の寿命よりも圧倒的に短い、人間という生き物の生活に少しでも触れたくて、記憶したくて、多くの人から「無駄」「非効率」と言われることをしている
自覚はあっても、それがやめられないのは、おそらくそれが「人間だから」だと、益体もないことも考えてしまう
ただ、そんなことを考えていた時間も、それほど長くなかった
山道が近づき、野生動物に警戒しなければならなくなると、悠長に物事を考えている余裕はなくなってしまう
山奥に行けば、クマの被害が……といった連想をしがちだが、実際はイノシシとの遭遇も命の危険があるし、猿は集団で行動する上にその腕力は人間の比ではない
ましてや、一人で助けを求めることも難しい環境となればなおさらだ
時折獣除けに用意したブザーを鳴らしつつ、森の中の道を歩く
かつて開発用に整備されたはずの道は、長年手入れがされていないため獣みち同然になっている
もくもくと道を進むことに集中していると、突然道が開けた
山の中にぽっかりと空いた、雑草が生い茂るだけの空間
もともとここには鉄塔が立ち、送電網が張り巡らされる予定だったそうだが、予定は予定だけで終わってしまった
そんなところは日本各地にあるが、木々が切り払われた場所は、自分のような天体観測愛好家にとっては絶好のスポットだ
交通が不便だからこそ穴場になっている場所に生えた背丈の伸びた草を、申し訳ないなと思いながら切り開き、キャンプの準備をする
予測ができないからこその自然だ
早め早めに動かないと、気づいた時には身動きが取れなくなる恐れもある
ましてや、周囲を山に囲まれた場所は、日が落ちるのも早い
荷物を降ろして、こまごまとした準備を整えたころには空は明け茜色に染まっていた
ほっと一息を付いて、折り畳み式の焚火台に新聞紙と割り箸を入れ、火をつけてから炭を追加していく
茜から紫紺に、澄んだ紺へと変わっていく夜空を見上げながら、お湯を沸かしてコーヒーを飲む準備をする
今日は、空の機嫌も良いらしい
わずかに浮かぶ雲が太陽の光の変化を際立てていく
思わずスマホで撮影してしまうが、この鮮やかさは記憶に残るだけになるだろうなぁとも思ってしまう
写真の加工が簡単に、便利になればなるほど、実際の目で見た色彩や空気、音といった五感の記憶が際立ってしまうのも人ならではだ
それが思い出による誇張かもしれなくても、自分が感じたものであることには変わりがない
誰かに伝えたい、と、思う人もいるのかもしれない
しかし、自分は、自分が感じただけで満足だし、言葉や形にしない方がより貴重だと感じてしまう
お湯が沸いたら、カップにドリップパックを付けて、お湯を注ぐ
自分で豆からひいたコーヒーにこだわり、山で味わうからよいといいう人もいるが、今なら気持ちがわかる気もする
おそらく、自分と同じで、そこに至るまでの積み重ねがあるからこそ、よりおいしく感じるのだろう
体力と荷物の余裕があれば、自分も試したいなぁと思っていると、にわかに増え始めた星の輝きに混じって、一筋の線が見えた
結局、同じ場所、同じ時間で、星を見たいと思い、実行した人はいなかったらしい
この場に一人でいる贅沢さと、ほんの少しの寂しさを抱えつつ、夜空に目を凝らす
また、一筋、星が流れた
新月の夜は、普段暗くて見えづらい星の光でも、目を凝らせば見えるようになる
まして、それが流星群であれば、どうなるだろうか?
雲は、いつの間にか一つもなくなっていた
一つ、また一つと流れていく流星をみながら、その光景を目に焼き付ける
流星群のピークは、まだ数時間先だ
これはまだ始まりにしか過ぎない
すっかりぬるくなってしまったコーヒーをわきにおいて、寝袋の準備をする
こんな贅沢な夜を過ごせるのは、この先の人生でもないかもしれない
コーヒーを飲み干し、寝袋にくるまりながら、ただ夜空を見上げた
増えていく流れ星をみながら、これだけ幸福なら、願うこともない
むしろ願いが叶ってしまったなと、そんなことを思った
ああ、星が、きれいだ
それ以外、思う言葉がなくなってしまい
夢中で星を追い続けた

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ニコニ・コモンズ


元ネタ

元ネタにしたのが、日本で一番人口が少ない「天空の過疎村」「雲海の村」です。
ただ、実際は「もっとバスの本数が少ない」ので、リアリティ重視の人は台本の調整をお願いします。
ほかにもいろいろフィクション加えてるので、気になる方はチェックしてみてください。

追記

ニコニコに読み上げサンプル動画をUPしました。


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