淡い本音
学校から駅までは15分そこから二人は違う電車に乗る
俺は上り電車で、高瀬は下り電車
なぜか今日は二人きりで学校をでた
いつもは4~5人のグループで帰ってたけど今日は何故か二人
風邪をひいたやつ、委員会で居残りのやつ、バイトだからって早く帰ったやつ
そんなこんなで二人きり
グループだと話せるのに緊張しないのに、二人きりだと話せない。
学校を出て3分くらいか。もっと長く感じたけど無言のままだった。
高瀬は時折ニコニコしながらこっちを見てくる、切れ長の澄んだ瞳で。
弾むように歩く姿に揺れるポニーテールと制服のリボン、もうどこを見ていいのかわからない。
「なに?吉野って普段はクールキャラなの?」
少しバカにしたような口ぶりで高瀬が話始めた
「なんだよ!キャラって!あれだよあれ、いつも大人数で帰ってるだろ?その時沢山話してるから、二人の時くらい静かな方がいいかなと思ってるだけ」
我ながら何を言っているか分からない
「ふーん。そーぉ。でも私は大人数の時にワイワイ先陣切って喋る吉野の方が好きだな~」
不意の「好き」 心臓に鉄球が落ちたように凹んでは戻った
「たまにはいいんだよたまには!」
もう何を話してもダメな気がした
「そうやってクールぶってる吉野も可愛くて好きだけどね~」
まただまた...
なんなんだ?高瀬は俺をからかっているのか?だいたい高校生男子にむかって「可愛くて」だと...
不覚にも少し照れてしまった。
するとすかさず
「やーい!吉野照れてやんの~!」
両手でガッツポーズを作り、からかうように顔を覗き込んできた
揺れるポニーテールから良い匂いがした
「う、うるせぇ!」
ぐうの音というか、かろうじて出た音だった
高瀬はいつも元気で明るい。でもどこか落ち着きというか陰を感じる。その雰囲気に魅力を感じグループ内でもどこでも高瀬を目で追うようになっていた。
またしばらくの沈黙の後高瀬がまた話始めた
「なんでこの間お見舞いに来てくれなかったのさ?!」
何の事だと少し考えた
「あ、あー珍しく学校休んでたな」
高瀬は今も少し咳をしていた
「そーだよ!久しぶりに39℃とか出ちゃうもんだから大変!!親は仕事だし、何もできないから退屈だし!」
病み上がりとは思えないテンションでしんどかった事を力説しはじめた
「熱あるときくらい寝とけ!だいたいな友達が風邪ひいてたらゆっくりしといてほしいだろ!お見舞いなんて図々しいだろ」
少し嘘をついた。
実は高瀬が休んだ2日目コンビニでプリンとリンゴジュースを買い、学校帰り下り電車に乗ろうとした。でも勇気がなかった。
その買い物は次の日の朝食になった。
「私と吉野の仲じゃーん!お見舞いに来てくれてたら嬉しくて好きになってたかもねー!」
にひっ と口角を上げた無邪気な高瀬の表情と再びの「その言葉」に俺はまた照れて黙るしかなかった
駅が見えてきた。再びの沈黙
「好き」だと三回も言われた。三回も。
これは友達としての好きでいいのか?...良いんだよな…?こんなこと聞く事はできなかった
頭がぐちゃぐちゃになるのを感じながら
駅の改札に立っていた
「じゃーね!吉野!また月曜日ね!」
「お、おうまたな」
何も聞くことも気の利いた返しもできずに背中向けお互い、反対の階段へと歩きはじめた
「あっ!吉野ちょっと待って」
振り返ると高瀬が小走りで駆け寄ったきた
いきなりの事に驚いていると目の前で立ち止まり、フーッと深く息を吐き、俺の目をみて言った
「…好き なんてホントに好きな人にしか言わないから、わかってよね!」
そういうとまた反対の階段へと走って行った
何が起きたかわからなかった。世界が止まったような、心臓が止まったような、時間が止まったような気がした
ぐちゃぐちゃだった頭の内側から全てを解放させるような大爆発が起こった
そこからどうやって帰ったかあまり覚えていない。気がつくと家のベッドに横たわり高瀬の言葉に胸が高鳴る自分がいた。
抑えきれない土日を越えて、恥じらいと一層の高鳴りが始まる月曜日に早くも思いを馳せていた。
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