昔日に滲む 【散文詩】



背もたれに寄りかかって、海を見ているとき、わたしを見つけられるのは月か星、ビニール傘をさしてはいるけれど、降ってくるのは雨みたいな光ばかりで、ビニール越しにも、夜空がよく見えた。わたしたちの記憶からこぼれて、忘れていった思い出が、海底で泳いでいます。たまに海へ来ると、思い出が、音を立てながら遡って来るんです。だから、海へ来てしまうんだと、気づいてしまった。外が明るいか暗いかで、朝と夜を判別して、洗濯機を回したり、仕事へ向かったり、眠ったりしているけれど、朝と夜は何度もやって来るから、季節よりありがたみを感じません。わたしの頬を撫でるのはあなたじゃないし、わたしの手を握るのも、あなたじゃない。紙を破くときの音って、なんか好きだ。今が朝だったらって思うように、夜だったらって思うように、はやく明日になったら、昨日に戻れたらって思うように、行ったり来たりを繰り返す波。

すべて、諦めたっていいさ、いちばんうつくしいのが今日だって言うなら、今までも、これからも、うつくしいに決まっているから。



きみのために風は吹いている そう思えるのはきみのかけがえのない生活が、日々が、 言葉となって浮かんでくるからだと思う きみが今生きていること、それを不器用でも表現していることが わたしの言葉になる 大丈夫、きみはきみのままで素敵だよ 読んでいただきありがとうございます。 夜野