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STEAM教育とは?意味や目的・実践例など、わかりやすく解説 (3)

前回の記事では、STEAM教育の特徴や、何歳から始めるのが良いかという点について述べました。今回は、世界各国での STEAM教育の実践例やその課題について見ていきましょう。


STEAM教育の実践例は?

STEAM教育の実践例は?

【文献 12-18】

諸外国におけるSTEAM教育の具体例

STEAM教育は世界各国で注目されています。まずは、諸外国での実践例を紹介します。

米国の取り組み

アメリカ・カリフォルニア州にあるHigh Tech Highは、STEAM教育を実践するチャーター・スクールです。批判的思考力や課題解決能力、コラボレーション能力、創造性、失敗から学ぶマインド、やり抜く力といった「非認知能力」と、「知識を活用して何かを創るスキル」を重視した教育を実践しており、PBLを取り入れています。

中国の取り組み

中国は、STEMに留まらない多分野連携を「STEM+」として、全国教育総合改革試験地域である上海市に「STEM+」教育研究センターを発足しました。国内外の専門家や教育研究員が所属して実証研究プロジェクトに取り組んでおり、幼稚園から高校までの96校で実証授業や教員研修を実施しています。

シンガポールの取り組み

シンガポールでは、複数の政府機関が共同で「AI Singapore」というプログラムを立ち上げ、AI 人材の育成を推進しています。また全国統一の中学入試の上位10%に対しては、従来のカリキュラムを取り払った教育を実施しており、時間的な余裕がある中高一貫の学校生活の中で、創造性・クリティカル思考・知的好奇心のほか、非認知能力やリーダーシップ等を強化するプログラムを実施しています。

日本におけるSTEAM教育の取り組み

日本でもSTEAM教育は少しずつ広がってきており、手探りながらも様々な施策が行われています。

学習指導要領の改訂

文部科学省の定める学習指導要領では、小学校では2020年よりプログラミング教育が必修化され、高校では2022年より「情報」の授業が必修化、さらに「理数探究」、「総合的な探究の時間」が新設されるなど、STEAM教育関連の内容が盛り込まれました。

スーパーサイエンスハイスクールの指定

文部科学省は、先進的な理数教育を実施する高等学校等をスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定し、学習指導要領によらないカリキュラムの開発や実践などを支援しています。現在SSHは日本全国に200校以上存在しています。

サイエンス甲子園(科学の甲子園)

サイエンス甲子園(科学の甲子園)は、科学分野に関心を持つ生徒を増やす目的で始められた大会で、高等学校などの生徒がチームで理科・数学・情報の複数科目で競技を行います。各都道府県の生徒が、予選大会から全国優勝を狙ってしのぎを削っています。

兵庫型STEAM教育

兵庫県教育委員会は、県内に3つのモデル校を指定して、STEAM教育のカリキュラム開発に力を注いでいます。例えばモデル校の一つである兵庫県立豊岡高等学校では、「ロボット・プログラミング」、「演劇的手法を用いた自己表現力育成」、「教養の深化」を柱としたカリキュラム開発が行われています。

経済産業省による「未来の教室」

経済産業省のポータルサイト「未来の教室」ならびに「STEAMライブラリー」では、STEAM教育の実践例や学習教材などが公開されています。また「未来の教室ルーム」は、現場の先生達が交流するプラットフォームとして機能しており、実際にSTEAMライブラリー内のコンテンツを活用した教員によるフィードバックやコメントなどが掲載されています。
世界中でSTEAM教育が推進され、様々な取り組みが行われていることが分かりました。
しかしながら、STEAM教育には課題もあります。


STEAM教育の課題は?

STEAM教育の課題は?

【文献 8、19、20、21】

教育を行う先生の不足

STEAM教育はまだ始まったばかりですので、教育者側の準備も万全ではありません。また、元々日本は米国や中国と比較して、AI の基礎となる数学や情報科学の研究開発・教育が立ち遅れている傾向にありました。さらに、STEAM教育で多く行われるPBLにおいては、生徒達を適切に導く教員の役割も重要となります。そのため、今後STEAM教育を行うことのできる人材を確保し、育成していくことが課題となります。

家庭や地域などによる教育格差

STEAM教育が全ての子ども達に公平に行き渡るように、経済状況や地域による格差を是正することも課題の一つです。特に、貧困を背景とする子どもの学力の格差は、小学校中学年頃を境に開き固定化していくとも言われています。また、ICT環境の整備状況は自治体ごとに差があるため、今後電子環境を整備していくこともまた喫緊の課題です。

理数科目に対する苦手意識

STEAM教育を受ける子ども達の、理数科目への苦手意識も問題といえます。日本の小中学生の「算数・数学・理科の勉強が楽しい」と感じている割合は、国際平均よりも低い現状があります。さらに、「将来数学や理科を使う職業につきたい」と考える児童⽣徒の割合も低い状況です。理数系科目への苦手意識は、STEAM教育そのものへの抵抗感に繋がりかねません。そのため子ども達の意識改革も課題といえるでしょう。


まとめ

以上、STEAM教育について、基本的な意味や特徴、実践例や課題などを解説してきました。
STEAM教育が次世代育成においていかに重要であるか、お分かりいただけたのではないでしょうか。
本記事により、少しでもSTEAM教育の理解を深めていただけたら幸いです。
世界中で注目を集めるSTEAM教育。
日本ではまだ始まったばかりですが、今後ますます広く浸透していくことでしょう。
日本の未来のため、そして子ども達の将来のために、ぜひSTEAM教育を実践していただければと思います。



【参考文献】

  1. STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進, 文部科学省, https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/mext_01592.html

  2. 21世紀の教育・学習, 経済産業省, https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/mirainokyositu/pdf/001_09_00.pdf

  3. ヤング吉原真理子ほか. 世界を変えるSTEAM 人材, シリコンバレー「デザイン思考」の核心. 朝日新聞出版, 2019.1.30

  4. NRI未来創発, 野村総合研究所, https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf

  5. GIGAスクールとSTEAM教育, JSTEM 日本STEM教育学会, https://www.j-stem.jp/features/column_20221006/

  6. 統合イノベーション戦略 2019, 令和元年6月 2 1 日 閣議決 定-内閣府, https://www8.cao.go.jp/cstp/togo2019_honbun.pdf

  7. 長野大学紀要, 第34巻第 1 号 27-39頁 2012, 27, 27 *社会福祉学部講師 我が国の戦後教育史における学習指導過程の特徴

  8. Society 5.0 に向けた人材育成, 文部科学省, https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/06/1405844_002.pdf?_fsi=GYvFjkEo

  9. 【編集部体験】6/24新発売のSTEAM本掲載のアクティビティをやってみた!, STEAM JAPAN, https://steam-japan.com/practice/7169/

  10. トイザらス、遊びながら学べる「STEAMトイシリーズ」を7月15日に発売, こどもとIT, https://edu.watch.impress.co.jp/docs/news/1423386.html

  11. お茶大こども園ラボ, 幼児期の教育・保育探求プロジェクト開発, https://www.learning-innovation.go.jp/verify/z0051/

  12. 「未来の教室」と EdTech 研究会 2 第1次提言(案) 3 (2018年6月4日時点版), 経済産業省, https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/mirainokyositu/pdf/004_02_00.pdf

  13. STEM/STEAM教育をどう考えればよいか, 諸外国の動向と日本の現状を通して, 大谷忠 東京学芸大学大学院, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssej/45/2/45_93/_pdf/-char/ja

  14. 高等学校学習指導要領, 文部科学省, https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/07/11/1384661_6_1_2.pdf

  15. 国立研究開発法人 科学技術振興機構 次世代人材育成事業, https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/gakkou/1309941.htm

  16. 科学の甲子園-国立研究開発法人 科学技術振興機構 次世代人材育成事業, https://koushien.jst.go.jp/koushien/

  17. 兵庫型STEAM教育について, 兵庫県教育委員会, https://www.mext.go.jp/content/20210716-mxt_kouhou02-000016510_01.pdf

  18. 未来の教室, 経済産業省, https://www.learning-innovation.go.jp/about/

  19. 「未来の教室」ルーム 経済産業省「未来の教室」・「STEAMライブラリー」交流サイト, https://foresta.education/learning-innovation

  20. 20学校教育情報化の現状について, 初等中等教育局情報教育・外国語教育課, https://www.mext.go.jp/content/20210908-mxt_jogai02-000017807_0003.pdf

  21. 国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)のポイント, https://www.nier.go.jp/timss/2019/point.pdf

  22. Society 5.0とは, 内閣府, https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

  23. L.ダーリング-ハモンド著.深見俊崇訳.パワフル・ラーニング, 社会に開かれた学びと理解をつくる. 北大路書房,2017.5.10

【画像出典】

  1. NovelAIhttps://novelai.net/


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