夏の香りに思いを馳せて (夏祭り編)ショートショート
下駄箱に行くとそこには手紙が入っていた。
(もしかして、さっきの?)
そこで手紙を広げることはできない。僕は手紙をポケットにしまった。
読みたい衝動に何度もトイレに駆け込みそうになった。でも今は見るのはやめておこう。
今日は彼女を見ることが全くできない。
きっと彼女もドキドキしているだろう。
だから極力普段と変わらないように、いつもと同じように過ごした。
「ただいま」
僕は家に帰ると、手も洗わずに食事の支度をしている台所へ行きつまみ食いをする。そして必ず「手を洗いなさい」っと言われる。でも今日はそこまで同じようにはできなかった。
もう我慢できない。
僕はそのまま自分の部屋へ直行した。
「帰ったの?」
母親の声が聞こえた気がしたが、そんなことどうでもいい。
深呼吸して、ポケットの中から手紙を取り出した。
少しよれてしまった手紙。
手を洗っていないことに気がついて、ズボンで手をゴシゴシとふき、よれてしまった手紙を気休めに伸ばした。
もう一度深呼吸をして、便箋を丁寧に開く。
せっかくの手紙、ビリビリにはできない。
1枚の便箋が入っている。
ドキドキは最高潮だった。
そして。
1行目。
○○くんへ。
え?誰?
1行の目の名前は僕の名前ではなかった。
「やばい、これって!」
彼女はその手紙を入れる場所を間違えていた。
この手紙は僕の隣の下駄箱の友だち宛だ!
頭の中で「困った」って何百回言ったかわからない。
「ねぇ、帰ってるの?ご飯できてるよー」
もう!
「うるさい!勉強中!」
呑気な母親の声がこれほどまでにウザく思えたことはない!
「へぇ、そんなに急に勉強しても成績上がんないんじゃない?冷めないうちに食べてよ!」
もう!だからうるさい!こっちこそ冷めないうちに彼女の気持ちをなんとかしなくちゃいけないんだから黙っててくれ!史上最大のトラブルなんだ!
「どうしよう、どうしよう、」頭の中で繰り返される。
まさかこのまま捨てるわけにはいかない。そんなことしたら彼女が悲しんでしまう!
どうしていいかわからないまま、とりあえず手紙の封をなんとか元に戻した。
きれいに開封しておいて良かったと、この時ばかりは自分を褒めた。
そして、次の日の早朝、友達の下駄箱にそれを入れた。
祭りの音が聞こえてきた。
僕は妹にせがまれて二人で夏祭りに出かけた。
妹の小さな手がほんの少し僕を癒してくれた。
もしかしたら彼女と来られたかもしれないのにな。
あの手紙はあのあとどうなったのだろうか。
彼女の恋がもし成就しなければ、チャンスはあるのか?
「お兄ちゃん、かきごおり食べたい」
「うん。」
今年の夏も暑そうだな。
xuさんriraさんの共同企画に応募します。
青春にも夏祭りにも、特に思い入れるものがないのですが、間違った手紙を受け取った、ちょっと悲しい思い出をデフォルメして、青春編〜夏祭り編への連作として作ってみました。
xuさんriraさんどうぞよろしくお願いします。
ちなみに、七夕編も応募予定??
コンプリート、目指しまーす!
素敵な企画、ありがとうございます。
とても楽しい夏になりそうですね。
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