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私が木造で偏心率の数字をあまり信用しない理由

 建築士という職業の方は、基本的に真面目です。命を預かるという部分もありますので、当たり前といえば当たり前です。しかしその真面目さが仇となる部分もあります。あまりにも細かく考えすぎて、木を見て森を見ないというか・・・(違う人もいます。念のため)。

木造住宅の偏心率にしてもそうです。やたらゼロに近づけることに執着している人がいます。基本的に木造住宅の偏心率は0.3以下にする必要があります。なので小さければ小さいほどバランスが良くなります。一見、ゼロに近づけることが正解に感じますが、実はなかなか難しいのです。

この建物で考えてみましょう。木造3階建てで1階にビルトインガレージがあります。当然のことながら、前面の開口が広いので、建物的にはガレージ入り口付近が弱いと、感覚的に分かります。

これを、46条壁量計算ベースで偏心率を出してみましょう。案の定、バランスが悪く0.298(1F X方向)とギリギリクリアです。HOUSE-ST1の偏心率は、3種類あります。46条の場合、壁倍率5倍が上限、準耐力壁・耐力壁は含みません。まあ壁量計算で出すので当たり前です。剛性も壁倍率×壁長となっています。

では、構造計算した場合はどうでしょう。こちらは壁倍率7倍まで使えますし、準耐力壁や腰壁も使えます。また片筋かいの倍率も変わってきます。それだけ精度が高まります。今回の場合、車庫側に5倍を超える壁を設置していたりするので、同条件でも偏心率は変わってきて0.25と改善されています。

同じ建物でもこれだけ数字が違うのです。正直そこまで信頼できる数字ではありませんね。壁量計算レベルではソフトを使っても限界があり、正直偏心率の数字だけにこだわる必要はありません。もっと大まかに、できるだけバランスをよく、を心がけたほうが良いでしょう。

じゃあ、構造計算すれば、偏心率は数字絶対!なのか?というとそうではありません。構造計算の場合、重量を正確に拾うことが重要なのですが、木造の場合、本体重量に対する積載重量が大きいので、正確に・・・とは何を指すのかが意外と曖昧です。

通常の木造住宅の場合、床に載っかってくる積載荷重は600N/m2で計算します。つまり1㎡あたり60キログラム載っているものとして計算するのです。これには床の重量や梁の重量は含みません。そうなるとタダの床の部分は本当は0キログラムかもしれません。逆に本棚がある部分は集中して重く、この60を超えてくるかもしれません。こればっかりは構造設計者はわかりません。だから均して計算するのです(特別なものは除く)

このY6からY8を2,3階とも、積載荷重を店舗として、建物の後ろだけ荷重を増やしてみて偏心率を計算してみましょう。店舗の積載荷重は1300N/m2ですので、倍以上重いです。まあそれでも住宅の一部分としてみた場合、この重量を超えることはありますね?実際そのような設計もあります。1㎡あたり130キログラム相当だから相当重いと思いきや、お相撲さんが座ったときなど、この重量を部分的にオーバーしてしまうことがあるわけですから、決して可能性がないわけではありません。では、この条件で構造計算し,偏心率を見てみましょう。

はい。更にバランスが改善され0.211となりました。積載荷重でも大幅に偏心率は変わってきます。悪意を持って、積載荷重を変更していけば、もっと改善するかもしれませんが、そもそも同一プランで0.298と0.211という偏心率が両方とも実在してしまうくらいなので、構造設計者もそのあたりを考えて、感覚的にバランスの良い設計を心がけて設計しています。数字を弄んではいけません。数字はもちろん重要ですが、絶対ではなく設計の参考として活用しています。

更にいえば、準耐力壁や垂れ壁を入れる品確法ベースの構造計算だと、また違った結果になります。それぞれが作用して偏心率に影響を与えます。また通常構造計算では重さしか計算しない雑壁も、実際には地震時にバランスに影響してきます。そんなわけで、同じ建物を計算しても偏心率は大幅に変わってしまうんだよ、ということを理解したうえで設計に取り組む必要がありますね。


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