一番ヶ瀬イキル

自創作のアレコレや読んだ本の感想を書きます。

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『若きウェルテルの悩み』読書感想文

ロッテへの愛は一番神聖な純粋な兄妹のようなものじゃなかったか。 引用:若きウェルテルの悩み-166ページ 『若きウェルテルの悩み』を読了しました。 こんなIQ4みたいな感想ツイートはしたんですが、非常に強く印象に残った作品なので、こちらでも感想文を書く事にしました。 あらすじ ゲーテ自身の絶望的な恋の体験を作品化した書簡体小説で、ウェルテルの名が、恋する純情多感な青年の代名詞となっている古典的名作である。許婚者のいる美貌の女性ロッテを恋したウェルテルは、遂げられぬ恋であ

    • 陳腐な阿諛を手繰り寄せ

      最初はさ、下手くそなおべっかばかり言う人だなって思ってたのよ。 「綺麗だね、今日も」とか。 「ずっと君の事を考えてた」だとか。 五秒もあれば誰でも思いつくけど、あえて誰も口にしないような――そんなクサいセリフ、恥ずかしげもなく言うのよ。あの人って。 こちらへの接し方も、なんだか書店の隅っこでホコリ被ってる恋愛指南書に書いてありそうな感じでさ。正直、友達との話のネタにして馬鹿にしてたんだよね。 陳腐な阿諛追従ばっかりするしょうもない男だって。 ただ、いつだったかは忘れ

      • 血だら真っ赤な自我

        僕が僕たりえるには目を見開かなくてはならない。らしい。 目を閉じる僕は、僕ではない。らしい。両親曰く。 僕は目を閉じると別人になるのだろうか。正直、まったくそんな感覚はないけれど。でも、両親があまりにも自信たっぷりにいうものだから、心配になってしまうんです。僕の自我が取るに足らない瞼の上下に支配されているような気分になってしまって。 そもそも『自我』というものは、この上なく不安定なものだ。と思う。 これほど外部からの干渉に影響され、いとも簡単にゆらぐようなものが、人格

        • 吐露

          これは初めてお話するんですけど、我が家は村八分にあってたんですよ。仕方ないですよね。僕には目が七つありますから。だって顔に目が七つもある人間がいたら恐ろしいでしょう。 そんな化物、距離を置きたいと思うのが普通ってもんですよ。 三十そこらの世帯が寄り集まる小さな集落でしてね。……隠田集落って知ってます? 合掌造りの屋根が有名な――えぇ、それです。それ。僕、そこに住んでました。 ここと違って豪雪地帯ですから、あそこは。冬はいっとう寒くて、僕の家はすきま風もすごくて。 寝て

        『若きウェルテルの悩み』読書感想文

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        • 独白
          6本

        記事

          空は青く、涙はこぼれる

          「ごめーん、そういう事だから! あとはよろしく!」 電子音に変換された姉の声がそう言った。4月15日、姉は突然消え、代わりに聞いたこともない金融会社の人間が僕の目の前に現れた。そして今はその事務所のソファに腰掛けている。 連帯保証人の欄に僕の名前が記入された借用書と、姉が電話口で言っていた事。この二つを反芻して考えた結果、「そういう事」とは、この金融会社から暴利で借りた借金の事を指していて、「あとはよろしく」とは、僕にその借金を肩代わりしてくれ、という意味だ。と、悟った。

          空は青く、涙はこぼれる

          ピルケースのお花畑

          ――お花畑みたい。 あたしのピルケースにたんまり入った錠剤を見て、知人の妹がそう言った。 「お花畑? あぁ、そうね。赤、黄色、白、ピンク。どれも可愛い色でしょう」 とりあえず、そう返しておく。子供は嫌いだから本当は相手にしたくないんだけど、知人は妹に弱いから。この妹と仲良くしておくと、知人にお金借りる時とか便利。 いつもなら三万。粘れば五万。”お花畑”たちをひと揃い買うにはしょぼい額だけど、ないよりマシでしょ。 「こんなにたくさん、すごいねえ。きれいだねえ」 幼児

          ピルケースのお花畑

          監視対象:お母さん

          お母さん、その男は誰なの。 寝てたけど、お母さんの声で分かったよ。昨日は三軒隣に住んでる尾形のおじさんを連れてきてたね。尾形のおじさんとお母さんが何をしてたか。分かんないけど、多分、尾形のおじさんとしてた事を今日もするんでしょ? 僕が寝たあと、閉め切った障子の向こうで、こっそり男の人をお家に連れてきて。いつもは開いてる障子なのに。なんで今は閉めてるの。そこで何をしてるの。 オレンジ色の豆電球の光と、お母さんと、男が絡まる大きな影。僕にはこれしか見えない。僕には秘密の事な

          監視対象:お母さん