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お前らの血は何色だ

「5年生の時の副担任覚えてる?」

 地元の友人、けん君からの久しぶりの連絡だった。

 彼とは小学校中学校が同じで、当時から北斗の拳の大ファンだった。主人公と同じ名前だからというのが好きになったきっかけだったそうだ。社会人になった今もその熱は冷めていない。

 中学生の時、けん君の誕生日に友人数人とTシャツをプレゼントしたのを覚えている。

 赤い北斗七星をバックに人差し指を立てた主人公の手。北斗の拳が好きな彼のため皆でデザインしたTシャツだった。

 その後彼は大学進学のため上京した。Tシャツを宝物のように大事にしてくれていた彼は引っ越しの荷物に入れて東京に持って行ってくれた。東京でも着ていたそうだが、いつの間にかなくなったのだという。

 そして更に月日が流れた頃、Tシャツは意外なところで見つかった。

 けん君が故郷に帰省した際のこと、駅に座り込んでいるホームレスに目が行った。いつからか駅構内に棲み付いていたその人は女性で、老婆と言ってもよさそうな風貌だった。地元の人間は皆知っていて、知っていながら見て見ぬフリをする。今まではけん君もそうしていたのだが、その日は目が離せなかった。

 彼女が着ている服。

 人差し指を立てた手、目を凝らすとその後ろに赤い北斗七星が見えた。

 同僚が自分のためだけに作ってくれたこの世に一枚しかないTシャツ。

 ふらふらと彼女の方へ歩き出す。

 すると彼女も気が付いたのか、顔を上げた――


「こっち見て、”けんしろちゃん”って言ったんだ」

 そこで私も思い出した。

 私含め当時の同級生や先生たちは彼のことをけん君やけんちゃんなどと呼んでいた。彼が卒業後に知り合った人達もそうだったようだ。彼を「けんしろちゃん」と呼ぶのは、5年生の時の副担任ただ一人。

 彼女は私たちが6年生になる前にいなくなった。

 低学年の男の子にいたずらをして逮捕されたという噂が流れたが、大人は誰も何も教えてはくれなかった。

 ホームレスは本当に先生だったのか、どうしてけん君のTシャツを着ていたのか、いまだに何も分からない。

 彼女は今もそこにいる。

 時々けん君のTシャツを着ているそうだ。

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