ケヴィン・ケリーが語る「本と読書と出版」 その2

■クローズとオープンのバランス

インターネットは世界最大のコピーマシンだ。デジタル経済はこうした自由に流れるコピーの川の上を動いている。(第3章 Flowing )

著作権は無法なコピーを許さない、私的な範囲でのコピーとその活用がある条件内で許されるだけだ。つまり著作権は有料世界を守る防御壁なのだ。出版者側はDRM技術で「クローズ」にすることで、電子書籍にも紙の本と同じ状態を保持しようとしている。しかし、クローズのままでは、「自由に流れるコピーの川の上を動いている」デジタル経済の波に乗ることはできない。ここに何らかのオープン戦略が必要になる。紙の本にも、電子本にも。

デジタル化、コンピュータ化は、固定化から流動化へ、「フローの時代」へと経済社会を追い立てている、とケヴィン・ケリーは言う。

「フローの時代」にあってはデジタル・データをうまくフローさせてこそ、「価値」を収穫することができる。ただ「クローズ」を否定はしていない。そうではなく、デジタル・データの何らかのオープン戦略、そのことによるクローズとオープンのバランスの調整が必要なのだ。

アマゾンの最大の資産は、プライム配送サービスではなく、この20年にわたって集めた何百もの読者レビューだ。アマゾンの読者は、たとえ無料で読めるサービスが他にあったとしても、「キンドル読み放題」のような何でも読めるサービスにお金を払う。なぜならアマゾンにあるレビューのおかげで、自分の読みたい本が見つかるからだ。(第3章 Flowing )

つまり、コピーできないものを売る、という発想が、クローズとオープンのバランスの調整策として編み出されなければならない。「コピーできないもの」として、ケヴィン・ケリーは信用をあげたうえで、さらに八つのヒントを指し示す。

即時性
パーソナライズ
解釈
信頼性
アクセス可能性
実体化
支援者
発見可能性

上述「キンドル読み放題」の話は「発見可能性」の実例として挙げられた。ちなみに読者目線の「発見可能性」を作品提供者目線でいえば、「潜在読者の掘り起こし」と「本と読者のマッチング」となる。

他に、本に関して「即時性」の項目でこんな記述も。

ハードカバーの本は即時性を提供するからより価値が高いのであり、硬いカバーの装飾はただの見せかけだ。

その1で紹介したケヴィン・ケリーの言葉はこうだった。

もっと重要なことは、われわれが新しいものを古いものの枠組みで捉えようとしがちだということだ。

著作権(古いものの枠組み)に縛られた発想のままではだめなのだ。

重要なのはコピー(ここでは売り部数くらいの意味(筆者註))の数自体ではなく、一つのコピーが他のメディアによってリンクされ、操作され、注釈を付され、タグ付けされ、ハイライトされ、ブックマークされ、翻訳され、活性化されたその数だ。作品がコピーされることよりも、どれだけ多くその作品を思い起こし、注釈を付し、パーソナライズし、編集し、認証し、マークを付け、転送し、関わっていくかに価値が移っている。(強調は筆者)(第3章 Flowing )

(この記事はケヴィン・ケリーが語る「本と読書と出版」 その2 | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/7781 の転載です。)

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