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The.斬【杉田尚作品二次創作】 第★話


現代、日本。明治の頃、侍と共に刀はその姿を消していった……


と、それは映画などでよくある話で、実際に刀は無くなるなんて事はあるはずなかった

無くなるどころか、この世に生きる男は皆、昔のように腰に刀を命と称し腰に下げていた。
法律で人を斬っても罪にならないのは、正当防衛、両者合意の上での真剣勝負などがあげられた。

プライドを賭けた真剣勝負、悪人退治、武士(おとこ)たちの魂は太陽の如く輝き続けている。


そんな武士の時代も、ついに終わろうとしていた。
始めから、すでに終わっていたのかもしれないが。



【斬、見参!】

「あがが」「ぐぐ」「ひいい」「おたすけ」「も、もう立つことすらままならない……」
打ちのめされ、薙ぎ倒され、地に這い蹲る屈強な不良たち。彼らの使う武器は何一つとして通用しなかった。
腕力も、刀も、ハンマーも、金属バッドも、ドスも、全く無意味。この村山斬の怪力と反応力の前に成す術はない。

かつて玄人好みの扱いにくすぎる研無刀の使い手として、不良の間でも名を馳せていた斬の手にもう刀は無かった。どこでそれを手放してしまったのか。度重なる生徒会執行部との死闘と「悪鬼」「姫空木の会」にその身を狙われ続ける日々は何も答えてくれない。ただ結果として、磨耗した斬の精神がそこにあるのみ。

斬の「一撃必殺状態」はここ数週間解けていない。まるでその状態こそが彼の本性であったかのように。今の身体と今の心は、斬の戦いにひどく馴染んでいた。もはや下手の横好きで刀を振るう必要などない。予め備わったこの怪力で敵を殴ればいいのだ。斬がその事に気づいてから、その両手が血に染まるまでそう時間はかからなかった。

不良たちの身体が埋め尽くす学校のグラウンドに、未だ一人立ち続ける女子高生がいる。月島弥生だ。その手には、刀。その視線の先には、鬼神の如き村山斬。かつてクラスメイトとして、友達として絆を紡いだはずの二人の間には5メートルほど距離がある。互いにとって必殺となりうる間合いであった。

かつての月島弥生であったなら、この鬼神を前にして震え上がり、剣道5段の実力を十全に発揮する事などまるで出来なかったであろう。だが今は違う。彼女もまた生徒会執行部との死闘を経て力をつけ、勇気を得た。友達との真剣勝負が出来る事を嬉しく思った。

「行くよ、村山君」月島は呼びかける。斬は何も答えない。月島の軸足に力が篭る。「誰が何と言おうと、私は武士よ」月島は地面を蹴る。斬は真っ直ぐに月島へと駆ける。刀を振り上げる。拳を振るう。土煙が二人の姿を隠していった。

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「武士の時代はとっくに終わっていますが」生徒会長はこともなげにそう呟いた。傍らに佇む絶山剣舞の表情が一瞬、ピクリと動く。「不良の時代ももうすぐ終わる。終わらせてみせます」生徒会室の窓から見える第6旧校舎の姿。戦闘の地鳴りがここからもよく伝わる。「奈落」は決死の抵抗を続けているのだろうが、それも時間の問題であろう。

生徒会執行部は力を手に入れた。それは学校を支配するだけの力に留まらず、時代そのものを動かせる力。突如執行部たちの前に現れた「超人」たちを味方につけ、彼女たちの力を掌握した生徒会長の手腕は見事と言わざるを得ない。知性を感じさせるメガネのレンズがキラリと光った。


【漢氣、カクゴ、そして超人】

「な、なんて女だ」「化け物じゃねえか」「まんじの特攻隊長の宇西のボクシングのパンチが全く通用しないなんて」「盛山なんてパンチも当てられてねえぜ」「大将の万次さんでも勝てないしよ」周囲を取り囲む不良たちは既に戦意喪失だ。「ゴミがボクシングだなんて贅沢ですわ」聖木朱美は凛とした表情を崩さず平然と不良たちを見下して言った。

目の前には未だ拳を構え続ける殴野万次の姿。もう立つ事すらままならない状態だが立っていた。「奈落」の下部組織に収まったと言えど「まんじ」の戦力は決して弱くはない。だが超人の前には無意味だ。その身体にはミサイルすら通用しない。「ここに"あの男"がいるんでしょう?出していただけないかしら」「何の事だ…」「ゴミが口出しなんて許されませんわ」怒気が地面を揺るがした。

「何が狙いかは知らないが」奈落の底より放たれたかのような恐ろしい声色が響き、不良たちを震わせ、朱美の意識をそちらに向けさせた。2メートルを有に超える大男がやってきた。サングラスに隠され表情は読めぬが、その背には静かにカクゴが滾っていた。朱美は警戒する。この男が「奈落」の大将、倒藤。そこらのゴミとは比べ物にならない"男"だ。

「俺達にケンカを売ったならば、きっちり落とし前はつけてもらう」「校則違反者には武力行使を厭わないですわ」朱美の目に正義の火が灯る。彼女は生徒会執行部と手を組んだ。より正確には、執行部と提携を結んだ「特別風紀委員」と。不良の更正、秩序維持は彼女の仕事。故に多少強い男が相手だろうと、負けるわけにはいかない。朱美と倒藤の拳がぶつかり合い、その衝撃で不良たちは吹き飛んだ。

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生徒会執行部の強攻策は、終創始の心を少なからず動揺させていた。かつて不良の「頂上(テッペン)」に立った思慮深い彼と言えど、超人などという存在の襲来は完全に予想の外。「無壊ちゃんから得た情報を整理すると、あの子たちは遥か未来の人間たちらしい」だがそれでも彼は考えるのを止めない。秘する力である裏カクゴを総動員し、空気の乱れを探る。

「超人たちが時間を遡るに至った原因があるはず。それをあの子たちよりも先に突き止めるんだ」降って湧いた力を得て暴走する執行部を止め、超人たちを止め、この混乱を機に襲い来るイカれた勢力の台頭を止める。もはや時代が頂上(テッペン)を必要としていなくとも、終創始は己の責務を果たす事を決めていた。

「……見つけた」終は走り始めた。超人が如き速度で校舎から校舎へと飛び移り、目標へと真っ直ぐに向かう。彼の知らないエネルギーがそこに感じられたのだ。漢氣ともカクゴとも、裏カクゴとも違う。生ぬるくて気持ち悪いエネルギー。「あれは……」その源となる者がそこにいた。走り来る終創始を待ち構えていた。


【武士 VS 不良】

「委員長。流石にアレはまずいんじゃ……」朧川は冷や汗を流しながら、校門前に立つ男を見つめていた。不良社会と戦う者にとって、あの眼帯と白木の剣を持つ男の事は有名だ。「金蔵の親衛隊、討条だな」「特風の者か。そこをどけ」特別風紀委員(略して特風)の委員長、拳崎は少しも臆する事なく討条の前に立った。その位置から一歩踏み出せば、そこは討条の剣の間合い。

「キサマらの罪状など最早数えるまでもない。この学校に入るというのなら力づくでも更正させてやる」「雑魚が」討条は拳崎に構う事なく一歩踏み出し、敷地内に足を踏み入れた。と同時に拳崎も一歩踏み出し、拳を突き出した。目にも止まらぬ拳の応酬。「委員長……!」

——「……クソッ!もうおっぱじめてやがる!」唐草希流が校門前に辿り着いた時には、既に勝負は佳境に差し掛かっていた。超高速の一撃を何度もその身に受け傷ついた拳崎の身体。拳崎の連撃を回避し切れず脇腹から血を流す討条の身体。激しい戦いだが、未だ討条は刀を抜いていない。「……抜く必要のない相手と思ったが」討条が刀に手を添え、構えた。拳崎は素手のまま、命を賭して一歩を踏み出した。


【赤髪のガリ勉野郎】

「ま、まさか研無刀!?」不良は目の前の男が持つ刀を見て驚愕した。武士の時代は終わったはずなのに、このような刀を使う者がいた事に驚きを隠せない。「真剣は斬れ味がある分扱いやすいし、素人から玄人まで幅広く使われていた武士の基本武器」

「対して研無刀は見た目なんかは真剣とほとんど変わらねぇが、あえて斬れない様に鋭く研がない分硬度と重量をかなり増加させて、斬るより破壊を目的とした玄人好みの扱いにくすぎる刀。使いこなせねぇとナマクラ刀より弱いただの鉄クズみてぇなもんだってのに何であの男は?」

「最近拾ったもんだが、使いづれぇけど大した武器じゃねえな」赤髪の男——学崎強は研無刀を正眼に構えたまま言い放った。「天才の俺にしてみりゃ当然だ」「こいつ…!」「どけ。俺がやる」驚き戸惑う不良を下がらせ、学崎の前に巨大な不良が立ち塞がった。学崎の目が一層険しくなる。かつての苦々しい敗北の記憶が呼び覚まされる。

毒呂高校の頂上(テッペン)、名は無限輪廻。かつて、この男の恐るべき漢氣を前に学崎は破れた。会得したはずの裏カクゴを使いこなす事も出来ず、戦いに敗れ、病院のベッドに寝ているうちにかつての仲間は散り散りになり、それどころか己の知る学校内の勢力図そのものが書き換わっていたのだ。

生徒会執行部や特風、超人と呼ばれる女どもの台頭は不良たちを追い詰め、根絶していく。進学校へと改革されていき暮らしやすい所となっていく学校。ガリ勉である学崎にとって心地よい変化のはずだ。勉強に邁進出来、NASAへの就職を確実にするチャンスのはずだ。なのに何故こんなにイラつく?

「もう一度タイマン勝負と行くか、学崎」「テメェのせいで色々台無しだ」学崎の背に黒いカクゴが浮かぶ。この学校破りをこれ以上ここで好きにのさばらせるわけにはいかない。これ以上こんな奴に時間を使うわけにはいかない。学崎にはするべき事がある。会うべき仲間がいる。

「俺の邪魔する奴は全員ブッ殺す!」



現代、日本。明治の頃、侍と共に刀はその姿を消していった……

と、それは映画などでよくある話で、実際に刀は無くなるなんて事はあるはずなかった。

無くなるどころか、この世に生きる男は皆、昔のように腰に刀を命と称し腰に下げていた。
法律で人を斬っても罪にならないのは、正当防衛、両者合意の上での真剣勝負などがあげられた。


そう簡単に世界は変わらない。
男達は戦い続ける。

世界を変える、という大儀の下——



「斬」「SWOT」「ムッツリ真拳」etc.
杉田尚先生作の漫画作品を題材とした二次創作作品

「The.斬」非公開——!

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