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【返金可】 小説の書きかた私論


●はじめに

 本稿は、雑誌・書籍・ウェブ媒体に十年以上携わってきた一編集者・ライターによる、小説の書きかたの「試論」であり「私論」である。
 小説の「面白さ」を言語化することは非常に難しい。小説の基礎の基礎や、小手先の技法・技巧について語ることはできても、つまるところ小説というのは自由で正解のないものである。「面白さ」の本質は規定しようがないし、書き手のほうとて、それを誰かに規定されたくはないだろう。必勝法や上達法と謳えるようなメソッドがあるならば、むしろ教えてほしいくらいだ。切実に。
 とはいえ小説には、体裁を整えるための最低限のルールというものが存在する。たとえば視点や文体が、なんの意味も脈絡もなくバラバラに混在するような無手勝流の小説は、もはや小説とはいえないかもしれない。文学賞においてはいわゆる下読みの段階で弾かれてしまうだろう。
 また、私はエンタメの分野で勉強してきた編集者だが、古今東西あらゆる物語/トリックが語り尽くされたとされる現状で、これまで先達が著してきた無数の小説というものの構造を客観的に解析、類型化し、自らの血肉にすることは、近道ではなくとも遠回りなアプローチだとは思わない。
 とかく小説が、絵や音響、音楽といったものに頼らず、それ単体で完結するという性質上、すべてを委ねられている書き手は全能感を抱きがちだ。前代未聞、誰も読んだことのない面白い話を思いついた! これは名作になること間違いなし! と勇んで書いてみたはいいものの、いざネットに発表してみたら、思ったより見向きされなかった……という体験が、誰しも一度はあるのではなかろうか。
 もちろん、そういった熱意を持って書かれた作品に価値がないというわけではない。むしろ価値は大いにあるし、インターネットに張り巡らされた読者の目も万能ではない。ネットの片隅に埋もれて日の目を見ない、世が世なら名作として持て囃されていたかもしれない不幸な作品がないとは決して言いきれないだろう。
 しかしながら、結果的に日の目を見ている作品は、例外なく一定以上の水準にある。豊富な読書経験、そして客観的な分析に裏打ちされた理論がある。私のような凡百の編集者など及びもつかないほどの努力と研鑽が、プロの作家にはあると肌身で感じている。

 本稿は、実際に第一線で活躍しているプロの作家からこぼれ聞いたコツや編集者ならではのコラムなどを交えつつ、通り一遍の基礎の基礎や、小手先の技法・技巧について、私なりに判りやすく体系的にまとめたものである。
 あまりに基礎的な話に終始するものだから、小説を書き慣れている人にとっては、あるいは退屈かもしれない。しかし、本稿は私自身の復習のために書くものでもある。それは取りも直さず、基礎の基礎を見直すことにこそ意義があると考えているからである。

 個人的な興味があって人間がボールを投げるメカニクスを学んでみて、自分が自分の身体についてあまりにも知らなかったことに驚いた。

 日々パフォーマンスの向上に努めるアスリートたちは、人間の骨格や筋肉について勉強し、動作分析・バイオメカニクスに自覚的に取り組んでいる。小説の書き手も小説という表現形態について、もっと自覚的に探究すべきではないか――そう考えたのだ。
 本稿は、いわば小説のメカニクスである。

 ※本稿は、約95000字あります。ほとんど一冊の書籍と変わりません。
  返金機能が実装されたので「返金可」の設定にしました。
  まずは立ち読みだけでも歓迎です。ご活用ください。


●第一章 ツカミこそが生命線

 まず書いてみることが大事

 小説を書くには、どうすればよいか。
 答えは簡単である。

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94,411字 / 2画像

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