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ボールを投げる、たったそれだけのことについて ピッチングフォーム試論(7)

 今日はなんだか行けそうな気がする。いい球を投げられた日は、そうやって気分よくスタートを切れる。逆にコントロールが荒れがちだった日は、つまらないケアレスミスが起こりそうな予感がするので、気を引き締める。

 縁あって草野球に参加したことで、ボールを投げる、たったそれだけのことに魅了された私は、週一回のノースローデーを除き毎朝十五分、二十球程度のネットスローを日課としている。いまではそれが、一日の心身の調子を測るバロメーターにもなった。

 ピッチングフォームを勉強し、素人なりに変化球にも挑戦するようになって、好きが高じて雑文まで書いてしまった。

 ちなみに『変化球 机上の空論』は公開当初、後半部分を有料にしていたので敬遠される向きも多かったと思われるが、ほとんど読者もおられないようなので全文無料公開とした。

 さて、毎朝の投球練習では、週ごとに自分なりに課題を決めて試行錯誤を繰り返している。今週は球速アップを目指してみよう、今週はコントロールの精度を高めよう、今週は下半身のヒップファーストを意識してみよう、今週はリリース時の手首の向きに気を配ろう、今週はサイドスローを試してみよう、今週はジャイロボールに挑戦してみよう……といった具合だ。生来の運動音痴なので、たくさんの知識を仕入れても、それらを同時にこなせる器用さは持ち合わせていない。下手は下手なりに日進月歩、少しずつ遊び感覚で実験してみようというスタンスでいる。

 そうしているうちに、自分の身体の特性というものが改めて少しずつ判ってきた。短期的な調子の良し悪しで合う合わないを決めつけるのではなく、長期的に良い日も悪い日も試していって、悪いなりにでも酷くなりすぎずにまとまりそうなかたちが見えてきたのだ。

 過去六回の連載ではあまり言及しなかった部分として、今月に入って「踏み出し脚」に注意を向けていろいろ試してみたところ、コントロールと球速が、ある程度は両立するように伸びてきた。両者は必ずしもトレードオフのような関係とは限らない。

 いくつかのフォームを試していくなかで、気になったのはオリックスの山本由伸投手や、ジャイアンツの戸郷翔征投手の踏み出し脚の使いかただった。ふたりに共通しているのは、ひょろりと細身ながら、見た目とは裏腹に剛速球を投げるところだ。私はどちらかといえば痩せ型で、お世辞にも肉づきのよい恵まれた身体とはいえないので、彼らからなにか盗めるものがないかと考えた。もちろん彼らは身長が高く、長い手脚を活かしているという側面もあるだろうが(私の身長はジャイアンツの田口投手やヤクルトの小川投手と同じくらい)、素材は劣っても身体のメカニクスそれ自体になにかヒントがないものかと。

 そうして着目したのが、踏み出し脚をほとんど曲げずに下ろし、リリースの瞬間に真っ直ぐ突っ張って伸ばして、リリース後に伸び上がるように見えるところだった。少年野球時代にも、ものの本にも、踏み出し脚は大きく踏み出して膝を直角にし(ただし膝が爪先より前に出てしまわない角度を保って)、軸脚の膝が地面につきそうなくらい身体を沈めて投げろと教えられてきた。しかし、それでは踏み出し脚に地面から伝わるエネルギーが十全には伝わっていなかったのではないか(少なくとも、私の未熟な体幹では)。そういえば、アンダースローで名を馳せた渡辺俊介投手も、その著書で、踏み出し脚でしっかり止まること、そこから力を得ることを要点のひとつに挙げていた。あるいは外国人でよく「手投げ」と(半ば否定的なニュアンスで)いわれるような投手たちも、多くが踏み出し脚に力感のあるフォームになっている。

 そう考えて、試しに踏み出し脚をあまり曲げずに、リリースの瞬間に突っ張って地面からの反発力を意識して投げてみたところ、球速とコントロールがだいぶ安定するようになった。リリースの瞬間に軸脚で蹴るという感覚とも矛盾しない。リリース後に一塁側に流れてしまう癖が改善されたのも思わぬ副産物だった。
 もちろん、そのためには従来以上に腹筋を使うし、体幹トレーニングの必要を痛感させられる。私はクロスステップ気味なので、なおさらだ。

 体格や骨格によっても人それぞれ最適解は異なるはずで、これと決まった正解がないからこそ難しい。トレンドも日々進化し、変わっていくはずだ。しかし、素人なりにあれこれ考えて身体を動かしてみることは単純に楽しいものである。

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