酔中介錯人
光っている。
まるで、青魚の鱗のようだな。
と、俺はふと思った。
三宝に置かれたこの刀で、俺は腹を切らねばならない。
いますぐに。
たくさんのギャラリーが俺を見ている。
みんな神妙な顔をしているが、それは好奇心を隠す仮面でしかないことは、俺には分かっている。
残念ながらシーズンは過ぎてしまったが、残り少ない花弁を散らす桜の老木も、青空と共に俺を見守っているような。
そんな、気がする。
さらば。
なにも思い残すことはない。
むんず。
と俺は刀をひっつかみ、晴天のもとに露わにした腹部にずぶりと突き刺した。
おおう、、、、
ううっ
言葉もない。
なんたる激痛。
は、はやく。
はやく介錯を。
介錯をっ!
そう思って介錯人を見上げた俺に、信じられないモノが見えた。
・・・ぐびぐび
残したら失礼だからね。
飲む飲む
ぷはーっ。あー、うまい。
おっ そうだった。
介錯するんだったね。
ちょっと待ってね。
すらっ、と僕は愛刀を抜いた。
ぷーっっ酒しぶき。
いざ、お覚悟っ(笑)。
と、刀を振り上げた僕だったが、バランスを崩して仰け反りかえってしまった。
もう少しで転倒するところだったよ。
あぶないあぶない。
うむ。あれ、
刀はどこだ?
・・・おお、地に突き立っている。
ねえねえ見てよ見てよ、これ。
これこそ茶柱ならぬ刀柱!
と、切腹の彼にウケを求めた僕だったけど、奴は激痛と怒りが混じった血走った目で僕を睨むばかりで。怖いなー。
わかった、わかった。
余裕の無いヤツだな。
では、今度こそ。
ちぇすとーーーーー。
刀を地面から引っこ抜いた僕だったが。
まぁ何せすっかり酔ってしまって。
ぜんぜん刀が首に当たらないんだ。
だから、ヤツの首をハネることは、
ついに最後まで出来なかったんだ。
ほんと、ほんと、
ごめんなさい。
(終)
注: パントマイムによる、1人2役の演技。
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