free「そのみかん、絶対にむいてあげません」

 毎日お菓子を運んでくる上司がいる。かなり年下、まぁまぁイケメン、中身中二男子。最初は餌付けかな、と思ってたんだが、最近は太らせてから食う気だな、と思う位には頻度が高い。まぁ貰ったものとか、自分の口に合わないものとか、そういうのが流れてくるんだけど、たまに気になることを言ったりしたりする。

「あげます。むくの面倒なんで。手が汚れるのが嫌」

 うん、これデジャブ?白昼夢?…ただの古い記憶、と気付いた時には軽く眩暈がした。同じことを言った人は、まだ高校生だった私を夢中にさせた人。あぁ、なんでちょっと顔の良い男は自然に甘えたりするんだ、しかもここ職場だよ。仕事しろよまったく笑

 こういうこと言われると、世話焼きの性質から必ずむいて、楊枝でもさして持っていった。過去の私。そうするとだいたいが、それを好意と勘違いしてしまう。…そう勘違い。若かりし頃にはありがちなんだよ、好きだからじゃない。なのに。

 普段しっかりしてるのに、仕事でも家事でも手なんか汚してるくせに、なんでみかんの皮むいて欲しいなんて言うんだ。…勘違いするし、やってあげて嬉しい特異体質がうずく。もちろん「むいて」って言葉じゃないところが余計にたちが悪い。そう、こういう男は要注意だよ?いい、ここメモして。直接的に「○○して」って言わない男は、しっかり者風だけどだいたいが甘え上手で、そのギャップさえもズルいんだぞ、と。

 さて現実の職場のデスク上。オレンジ色のまあるい、かわいい美味しそうな果物ひとつ。ティッシュを一枚取り出して、丁寧に実の部分を直接さわらないように、むいていく。万が一にも他人の口に入るかもしれないものを、自分の素手が触れてしまわないように。アタシも、オレンジの皮の汁が手に付くの苦手だから、意外と上手いのよこれ。

 きれいに分離した皮と、実。…見つめること1分。迷う。けど、これは私が貰ったもの、と言い聞かせる。むいてあげない、それが正しい。きっと。そして次の瞬間、素手で4つに分けて口の中へ。すべてを口にほおり込むまで数分ってとこかな。甘くてうまかった。でもみかんは、こたつの中で手をオレンジにして食べるものだ、と思う。自分の食べるものは自分でむくんだ!…と過去の男にも言えたら良かったのにな。…と仕事中に思った話。…仕事しろ笑

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