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スーパー戦隊シリーズのビジネス戦略を真面目に検証する

Q. スーパー戦隊シリーズの売上高ってどれくらい?
A. 年間100億円(おもちゃだけで)

「5人そろって」「ゴレンジャー!」

赤、青、黃、などカラフルな戦闘服に身を包み、悪の軍団と戦う正義のヒーロー「●●戦隊」シリーズ。休日は子供と一緒に観ているパパママも少なくないでしょう。

日本国内において、おそらく知らない人はいないであろうとも思われる「スーパー戦隊」ですが「幼児向けのコンテンツである」「毎年ヒーローが変わる」などの理由から、特撮ファンを除いては、男の子が生まれない限り接する機会が無いという人の方が大多数でしょう。

僕自身、子供が生まれてから久しぶりに戦隊シリーズをまともに見返すようになったのですが、改めて観ると、このスーパー戦隊

めちゃくちゃ凄いんですわ

大人になってから観ると、子供時代はわからなかった様々な事に気づきます。コンテンツとしての完成度はもちろんのこと、ビジネス戦略としても相当上手いなあと感じることが多々あります。そこで今回は

知名度はめちゃくちゃ高いけど、意外とみんなよく知らないスーパー戦隊のビジネス戦略

について考察してみたいと思います。

スーパー戦隊シリーズとは

そもそもスーパー戦隊シリーズとは、映画の制作や配給などで知られる東映が制作し、テレビ朝日系列にて放送されている特撮ヒーロー番組です。その歴史は古く、1975年に放映された「秘密戦隊ゴレンジャー」から始まり、1979年以降は1年も途切れることなく新作を出し続け、今年で44年目を迎える超ロングヒットコンテンツになります。この時点で相当すごい。

スーパー戦隊のビジネスモデル

スーパー戦隊シリーズの著作権を有しているのは、放映元であるテレビ朝日、制作元である東映、東映の広告代理店である東映AGの3社になります。彼等視点でのビジネスモデルを整理すると、主な収益源は以下の3つと考えられます。

・TV放映枠のCM収入
・映像コンテンツ販売売上、映画の興行収入
・版権収益

この三種類の合計金額や内訳は、明確な資料が公開されていないので全容は不明です。ですが、スーパー戦隊ビジネスがうまくいっているかどうかは、バンダイが公開しているIP別の玩具売上金額を確認することで把握することができます。

なぜ著作権を持っていないバンダイの数値が基準になるかというと、バンダイはスーパー戦隊の筆頭スポンサーだからです。スーパー戦隊をTVで視聴すると、バンダイのCMがバンバン出てきます。

さらに東映はスーパー戦隊の版権を販売して利益を得ていますが、バンダイの玩具売上からのマージンが大きな柱になっていることは想像に難くありません。バンダイとスーパー戦隊は、もはや一蓮托生の関係性だと推測されます。

玩具売上推移

ということで、バンダイが公開しているIP別の玩具売上金額におけるスーパー戦隊の推移を確認してみましょう。

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※2006年から2019年3月期決算資料から(単位:億円)

ここ10年強でのスーパー戦隊の玩具売上は、平均して100億円です。なかなか大きな売上ですが、2015年~2016年に放映された「手裏剣戦隊ニンニンジャー」以降、かなり苦戦気味な様子です。
今年の2月に放送が終了した「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」は、斬新な設定で話題を呼びましたが、玩具売上は平成の戦隊の中でワーストを記録してしまいました。

視聴率推移

次に、CM枠を売るのに非常に重要な指標である視聴率の推移をみてみます。

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見事な右肩下がりです。

TVの視聴率については、スーパー戦隊に限らず世の中的に下降傾向ですので、必ずしも戦隊モノの人気が下がっているとは言えません。しかし、状況としてはなかなか厳しそうです。

仮面ライダーと比べてみたら

スーパー戦隊を取り巻く状況は、やや厳しそうなことが見えてきました。ここで忘れてはならないのは「低迷傾向なのはスーパー戦隊だけなのか?他の特撮はどうなのか?」という比較の視点です。

そこで、スーパー戦隊と並んで日本三大特撮のひとつである「仮面ライダーシリーズ」の売上・視聴率と比較してみることにします。どうなっているでしょうか。

売上比較

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仮面ライダー・・・メチャクチャ儲かってますね。

2006年~2009年あたりまでは互角の展開でしたが、2010年を境に仮面ライダーが大きくリードしています。

視聴率比較

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視聴率については終始仮面ライダーが上なものの、グラフの形は酷似しています。TV離れという点ではどちらも同じ状況にあるようです。

この結果をまとめると

視聴率は仮面ライダー、スーパー戦隊どちらも低下している。しかし、仮面ライダーは2010年以降、玩具販売において大きなブレイクスルーを果たし売上を急拡大できたのに対し、スーパー戦隊は有効な打開策を見いだせていない。

ということがわかるかと思います。


スーパー戦隊のマーケティング

戦隊シリーズのマーケティングは、シンプルな構造で説明できます。すなわち、まずTV放送で認知を獲得してから、様々な関連ビジネスに展開させるという手法です。

あらゆる起点はTV放送から始まり、ここでヒットするかしないかが大きな分かれ道になるという流れです。そういう意味では、コンテンツの制作を担う東映の重要性が最も大きいと言えそうです。


スーパー戦隊のポジショニング

戦隊ものが他の特撮番組に対しどういったポジションをとっているかですが、日本には「三大特撮」と言われているシリーズがあります。ご存知「仮面ライダー」「スーパー戦隊」「ウルトラマン」の3つです。3者のざっくり棲み分けとしては

仮面ライダー:年齢層・高(5歳~10歳くらい)
ウルトラマン:年齢層・中(4歳~8歳くらい)
スーパー戦隊:年齢層・小(2歳~6歳くらい)

年齢については主観も入っていますが、仮面ライダーが最も大人向けであり、スーパー戦隊が最も幼児向け、ウルトラマンはその中間にあたるかなと思います。特に最近の仮面ライダーは物語の難解さが増してきており、大人ファンをかなり意識した展開をしています。

一方でスーパー戦隊はあくまで幼児向けを貫いており、未就学児でも内容が理解できる展開になっています。

スーパー戦隊の4P/4C

このへんも検討してみます。

<4P 企業側の視点>

・製品(Product)
TV番組、映画、ヒーローショー、玩具、衣料品、お菓子など。

・価格(Price)
TVは無料。玩具は安いもので数百円だが、高いものだと数千円。グッズをコンプリートしようとすると万は軽く超える。衣料品はライセンス料金が含まれる分、一般的なものに比べて20%ぐらい高い。

・場所(Place)
かつてはTV放送かDVDレンタルで観るのが一般的だったが、最近ではVODでも見られる。

・プロモーション(Promotion)
もはや有名すぎるので、大胆な宣伝活動は行っていない。新シリーズが始まる際は、CMが打たれるほか、幼児向け雑誌などとタイアップが組まれる。

<4C 消費者側の視点>

・価値(Customer Value)
子供が憧れる永遠のヒーローのひとつ。子供からすれば極上のエンタテインメント。大人からすると、見せておけばしばらく夢中になるので子育てにはなくてはならない存在。

・コスト(Cost)
グッズの料金は基本的にやや高いので、子供へのプレゼントとしてプレミア感が出る。かといって高額すぎるわけでもなく、多くの家庭で購入できる価格帯。

・利便性(Convenience)
TV放送が主だった時代は、日曜の朝早くに起きなければならない、ビデオ録画を設定しなくてはいけないなど手間があったが、VOD視聴が一般的になった現代では、好きなときに好きなように観ることが可能になった。とはいえ最新シリーズはTV観る必要が大きい。

コミュニケーション(Communication)
情報発信は番宣が主であり、基本的に一方通行。このあたりは旧態依然としたものがある。リアル接点では、ヒーローショーの後に行われる握手会が有名。ここでの距離感はかなり近い。しかし当然ながらヒーローは喋らない。

グローバル展開

あまり知られていませんが、スーパー戦隊はグローバルに輸出されています。

海外では「Power Rangers」というタイトルで放映されており、戦隊のスーツこそ同じなものの、シナリオや制作は現地オリジナル。海外でも相当な人気を誇っており、スーパー戦隊の面白さは国境を超えています。

コンテンツとしての魅力を解剖

なぜスーパー戦隊はここまでご長寿コンテンツとして人気を博してきたのか?それは、いくつかの理由があります。

勧善懲悪のわかりやすいストーリー

スーパー戦隊のストーリーは、とにかくわかりやすいです。
「みんなを傷つける悪い奴がいて、それを正義のヒーローが倒す」
という、誰がどう見てもわかる物語です。ここでは、物事の善悪が相対化されるアムロとシャアみたいなことは起こりません。正義は正義、悪は悪です。このわかりやすさが、幼児でも話を理解できるゆえんです。

完成されたキャラクターバランス

スーパー戦隊に出てくる5人のヒーローのキャラクターは、毎回違うように見えて、実は全く一緒です。シリーズ初期の頃は様々なパターンがありましたが、試行錯誤の末、今は完成された形で運営されています。

具体的に解説すると

熱血漢(主な色:レッド)
9割型、赤は熱血漢でありチームのリーダーです。熱血漢が主人公というのは、少年向けコンテンツの鉄板でもありますね。あらゆる課題を熱意とガッツで乗り越え、強力なリーダーシップでチームを導く不動のリーダーです。

知性派(主な色:ブルー、グリーン)
永遠の二番手、ブルーに多いのがこの知性派タイプ。熱血漢のキャラを支えるインテリタイプというのは、これまた少年向けコンテンツの鉄板です。何事にも猪突猛進するリーダーを冷静にいなし、チームの危機には持ち前の知性で突破口を導き出す重要な存在です。

ムードメーカー(主な色:イエロー、グリーン)
明るいキャラクターでチームの雰囲気を和らげる、隠れた大黒柱。一番色の振れ幅が多い役割でもあります。戦闘面で目立つ機会は少ないですが、日常ではとにかくよく喋ったりドジを踏んだりするので、私服時での存在感は群を抜いています。

ヒロイン(主な色:ピンク、ホワイト)
戦隊メンバーに必ず一人いる女の子ポジション。女性というだけで特別感があるおトクな立ち位置です。性格は清楚系だったり元気系だったり幅がありますが、基本的に「男の子が想像する女の子像」なので、実際に女性が見たら全然共感しないタイプのキャラクターだと思います。

真面目系 or 女好き(主な色:ブラック、ホワイト)
5人のメンバーの中で唯一、未だにタイプが固定化されない役割です。さらに男性が演じるか女性が演じるかも作品によって幅があります。

割合的には、いわゆる優等生気質の真面目系になることが多いですが、男性が演じる場合ごくたまに「女好き属性」になることがあります。その場合の色は例外なくブラックです。ホストのイメージなのかもしれません。

変態(主な色:ゴールド、複合色)
最近のシリーズでは、回が進むと6人目の追加戦士が加入するのが当たり前になりました。その追加戦士の性格は、全て変態です。一口に変態と言っても様々な方向性がありますが、直近のものをふりかえると、ナルシスト、メンヘラ、パリピなどが多いようです。世相を反映してる感じもしますね。

他の戦士よりも数段上の実力を持っているという設定上、色はリッチなカラーが多く、場合によっては複数の色を持つという明らかにスペシャルな特徴があります。

キャラクター設定のお手本

この6人のキャラクター設定ですが、物語を作る上で非常によくできており、会話と展開をいかようにも動かしていくことができます。スーパー戦隊のキャラ分けはキャラクター設定のお手本として参考になる要素も大きいですね。

合体ロボット

戦隊の魅力を語る上で、合体する巨大ロボットの存在は欠かせません。

そもそも男の子は、合体するロボットに非常に弱いです。グッサグサ心に刺さります。正直、話の展開におけるロボットの存在は、売るおもちゃを増やすための大人の戦略以外の何者でもないのですが、まあ子供からしたら関係ないです。とにかく合体するロボットがかっこいいのです。

最近では合体のバリエーションがどんどん増えてきており、売るおもちゃを増やすための大人の戦略が際限なくエグくなっているのですが、まあ子供からしたら関係ないです。とにかく合体するロボットがかっこいいのです。

実はすごいアクション

ここからは、子供向けというより大人が見たときの魅力です。

子供のときは気づきませんでしたが、戦隊のアクションシーンは超レベル高いです。一流のエンタテインメントとして成立しています。

特に戦隊シリーズの場合、集団vs集団の大立ち回りになるため、三大特撮シリーズの中で最も大規模かつ派手なアクションが楽しめます。本当に、みんなありえない動きをしながら闘っているので、そこを見ているだけでも充分楽しめるんですね。

美男美女が勢揃い

スーパー戦隊はイケメン・美女が揃っています(まあ当たり前ですが)。

主要キャラに若手俳優を起用しているため、ここからブレイクしていく方もちらほら出てきています。どの俳優さんが売れるかな?なんて考えながら見るのも、楽しみのひとつ。というか、むしろ応援したくなっちゃうんですけどね。スーパー戦隊出身の俳優で有名なところでは、松坂桃李、千葉雄大、志尊淳、などがいます。

スーパー戦隊の今後

スーパー戦隊の明らかな課題は

視聴率の低迷
玩具売上の低迷

でしょう。特に玩具売上の低下は致命的なものがあります。

このあたりは東映も明確に危機感を感じているようで、最近では最初からメンバーが9人もいる「宇宙戦隊キュウレンジャー」や、2つの戦隊がライバルとして競い合う「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」など、これまでにない斬新な設定のシリーズが、2年続けて放映されました。マンネリを打破し変化を生み出したい意図だったのでしょうが、視聴率の低下にも玩具売上の低下にも歯止めをかけることはできませんでした。

そして2019年は恐竜をモチーフにした「騎士竜戦隊リュウソウジャー」が始まりました。恐竜は王道なモチーフなため原点回帰した形になりますが、正直、保守的な意思決定だと思えてしまいます。売上の下降をなんとしても食い止めたいという意向が見え隠れします。

ある意味ライバルである「仮面ライダー」は、大人ファンをうまく取り込んでいくことで成長をとげました。スーパー戦隊も、なんらかの形で大人を巻き込んでいく必要があるでしょう。

おわりに

大人になってから、まさかここまでスーパー戦隊を観ることになるとは思っていませんでした。

子供と一緒に楽しめること

これがスーパー戦隊の一番の魅力だと思っていますし、日本が世界に誇れる文化であるのは間違いありません(毎週、特撮の番組を作るノウハウを持っているのは世界でも東映だけ)。

課題は多いと思いますが、これからも長く続いてほしい番組です。

この記事を書いたひと

マネーフォワードという会社でWEBマーケターをやっています。SEO、LPO、ログ解析まわりが得意です。戦隊まじですごいなと思います。

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