大阪・桐壺温泉さん(平野区の銭湯)
きりつぼ。垣間見ならぬ二度見する。やんごとなき、みかどの銭湯サロンかも。いろいろ妄想してしまう銭湯です。
(1704文字)
桐壺温泉(きりつぼおんせん)さん
ここは大阪市平野区。神社仏閣もおおい。平野は大阪で独特な歴史をほこる。中世より、まちのまわりに濠をめぐらせ環濠自治地区となります。
めぐりめぐって人の世は。
もより駅は……
●大阪メトロ(谷町線)…平野駅・徒歩約5分
◆名所旧跡の宝庫・平野区◆
平野区の銭湯めぐりは桐壺温泉さんからです。千年前の物語のはじまりのように。
おしのび銭湯
桐壺温泉さんは、ふつうのお家のような、銭湯らしからぬ外観です。寝殿造りでもありません……。
春とはいえ夜は冷えます。なのでわたしは開店すぐに訪れました。
オレンジと黄色のツートンカラーのテント。ここはコインランドリー。とりつぎの女官はいません。
銭湯はとなり、緑の小屋根へ。暖簾がかかっています。
ふつうの下駄箱。靴を入れるとすぐ番台のはずが、番台はありません。フロントや受付もない。
ここは廊下のような待合室になっています。かなり奥に番台と脱衣所がありますので迷わず進んでください。
中庭には池もあります。不思議な空間。番台に行くまで時間がかかるぶん、ゆるりとリラックスタイムにきりかわります。
知る人ぞ知るヒミツの銭湯。
ここは、お忍び銭湯かもしれません。
ことしは「光る銭湯」で脚光を浴びるかも……妄想とともに。
番台・桐壺の更衣
ここでは女将さん、というよりは桐壺更衣さんですね。にこやかでやさしそうな女性が番台にいます。親しみやすい雰囲気で、みかどの寵愛を受けているのがわかります。
開店直後なので一番風呂をもとめて常連さんがおしよせる。牛車とみまごう自転車で。頭の中将も登場だ。明石の入道も惟光も。
桐壺更衣さんは和歌を詠むかわりに、ひとりひとりに軽快なごあいさつ。時めく銭湯でございます。
わたしはバァさんなので役どころは、源典侍(げんのないしのすけ)。扇子を忘れたけど臆せず楽しく入浴します。
脱衣所、いやここでは更衣室というべきか。大きなテーブルにマンガ単行本・おもちゃ・トレーニングマシン……まるでサロンです。
光る君もここで遊んでいたのかもしれません。
桐壺温泉という屋号、わたしは平安時代とか和風の銭湯をイメージしていたのです。
実際はとてもポップな銭湯。
このギャップもたまりません。
露天岩風呂
大阪市内の銭湯ではあまりない露天風呂。几帳はないが貴重です。おぼろ月夜は美しかろう。
寒いのか露天岩風呂には誰もいません。行かねば柏木。
常連さんはというとサウナ(無料)にすっぽりと。さらに真っ赤な末摘の花。近江の君はお静かに。
こぢんまりした浴室は、すぐに満員。五十二帖の物語。
カランがないので、わたしは湯船のフチに腰かける。大阪銭湯の湯船は外側にイスのような段がついています。湯船の外周は、さながら黒い御影石とタイルのベンチ。ここに座ることはめったにないですよ。
しばらくは露天岩風呂を行ったり来たり。そして30分もすると浴室は、もぬけの殻に。裳抜けが語源だそうな。「常連さんは早い」銭湯あるあるです。
桐壺温泉さんには、イケズなコキデンの女御さんもいなかった。紫の湯けむり薫り、冷泉もあり。
タイルの鯉が泳ぐ
誰もいない浴室で、ゆっくりと。いろいろ見えてきます。男湯と女湯のあいだの壁には白い大きなタイル。富士山が描かれています。
窓ぎわには青海波。
魚型のタイル・立体的なカジキ?も壁で泳いでいます。湯船の底にもタイルの鯉が3匹。魚型のタイルの銭湯、最近では見かけなくなりました。
桐壺温泉さんは湯船がたくさんあり、楽しめます。寝風呂でゴロン、水琴窟の音がするような水枕も風流。深湯船は熱めであったまる~。
そして雲隠
ととのう天の浮き橋へ。
いつも こころに うるおいを
水分補給も わすれずに
さいごまでお読みくださりありがとうございます。
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