子供たちの法律~ゲームセンターと法

子供たちに風営法?

日本で「フーゾク」と言うとこのカタカナ表記と共にエッチなものを想像しがちですが、法律上の「風俗」はもう少し広い概念です。数年前に、「(ナイト)クラブが風俗なのか」という議論が巻き起こったのもクラブが風俗営業法に含まれていたからですが、一般的に言う「フーゾク」は法律上は「性風俗」と呼ばれ、「風俗」とは別物です。そこで、法律上の「風俗」はと言うと、

第二条 この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
一 キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業
二 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を十ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業として営むものを除く。)
三 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが五平方メートル以下である客席を設けて営むもの
四 まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業
五 スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る。)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く。)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業(前号に該当する営業を除く。)

クラブが風俗か、の話で「10ルクス」が基準となった話は一時話題になりました。それぞれの条文に合わせて、「1号営業」「2号営業」・・・と呼びますが、今日のテーマは「5号営業」ゲーセンです。一見して分かる様に、この5号だけ異質です。18歳未満も使用可能だからです。通常は22時以降の立ち入りは禁止ですが、これは法律の要請です。

第十八条 風俗営業者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、十八歳未満の者がその営業所に立ち入つてはならない旨(第二条第一項第五号の営業に係る営業所にあつては、午後十時以後の時間において立ち入つてはならない旨(第二十二条第二項の規定に基づく都道府県の条例で、午前六時後午後十時前の時間における十八歳未満の者の立入りの禁止又は制限を定めたときは、午後十時以後の時間において立ち入つてはならない旨及び当該禁止又は制限の内容))を営業所の入口に表示しなければならない。

風俗は原則18歳以上の施設としておきながら、( )表示で5号のみ「午後十時まで」と取り決めし、この時間は都道府県の条例で厳しくすることは可能、とあります。

青少年育成条例

この都道府県の条例とは、都道府県毎に若干呼び名は異なりますが、一般に「青少年健全育成条例」と呼ばれます。いくつか例を見てみましょう。

大阪府青少年健全育成条例
(保護者の努力義務)
第二十五条 保護者は、通勤又は通学その他正当な理由がある場合を除き、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める時間に青少年を外出させないように努めなければならない。
一 十六歳未満の者 午後八時から翌日の午前四時まで
二 十六歳以上十八歳未満の者 午後十一時から翌日の午前四時まで
茨城県青少年の健全育成等に関する条例 (定義)
第13条 この章及び第5章において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
(1) 青少年 18歳に達するまでの者(配偶者のある女子を除く。)をいう。
(深夜外出の制限)
第33条 保護者は,特別の事情がある場合を除き,青少年を深夜(午後11時から翌日の午前4時までをいう。以下この条及び次条において同じ。)に外出させないよう努めなければならない
2 何人も,正当な理由がなく,保護者の委託又は承認を受けないで,深夜に青少年を連れ出し,同伴し,又はとどめてはならない。
3 深夜に営業を行う者は,深夜に当該営業に係る施設内又は敷地内にいる青少年に対し,帰宅を促すよう努めなければならない。
徳島県青少年健全育成条例
(夜間外出等の制限)
第六条 保護者は、正当な理由がある場合を除くほか、夜間(午後十一時から翌日の午前四時までの時間をいう。以下同じ。)に青少年を外出させないように努めなければならない。
2 何人も、正当な理由がないのに、夜間に保護者の委託を受けず、又はその承諾を得ないで青少年を連れ出し、同伴し、又はとどめてはならない。
3 興行を業とし、若しくは主催する者(以下「興行者」という。)又は次に掲げる営業を営む者(以下「興行者等」という。)は、夜間に興行をし、又は当該営業を営む場合は、入場しようとする者の見やすい箇所に青少年が入場することができない旨を掲示するとともに、青少年をその興行又は営業の場所に入場させてはならない。
一 個室又は他から容易に見通すことができない区画において、客に図書類の閲覧若しくは視聴又はインターネットの利用をさせる営業
二 個室を設け、当該個室において客に専用装置による伴奏音楽に合わせて歌唱させる営業

「商品」の謎

4号営業と5号営業の差は何でしょうか。お金をコインに代えてコインの増えたり減ったりを楽しむゲームセンターと、お金を玉に代えて「打つ」パチンコの本質的な差はどこにあるのでしょう。

(遊技場営業者の禁止行為)
第二十三条 第二条第一項第四号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)を営む者は、前条第一項の規定によるほか、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 現金又は有価証券を賞品として提供すること。
二 客に提供した賞品を買い取ること。
三 遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物(次号において「遊技球等」という。)を客に営業所外に持ち出させること。
四 遊技球等を客のために保管したことを表示する書面を客に発行すること。
2 第二条第一項第四号のまあじやん屋又は同項第五号の営業を営む者は、前条第一項の規定によるほか、その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない。
3 第一項第三号及び第四号の規定は、第二条第一項第五号の営業を営む者について準用する。

非常に分かりづらい規程ですが、ポイントは2項にあります。「まあじゃん屋」と5号(ゲームセンター)は商品の提供をしてはいけない、と言うのです。4号営業は「まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業」なので、つまりこの規程は麻雀店以外の4号営業(パチンコ、パチスロなど)は商品を提供して良いという意味です。

ところが、話はそう簡単には行かないことは、ゲームセンターでたくさんの景品ゲットの遊戯があることから容易に想像が付きます。もともと何の景品を与えてよく、何を与えてはいけないか、はっきりとしたルールは無かった様で、先に民間が業界団体を組織していわゆる自主規制を設けます。いわゆる「800円ルール」と言うやつで、例えば

(一社)日本アミューズメント産業協会[JAIA]「アミューズメント施設における景品提供営業のガイドライン」

3. 景品の内容
①景品の価額
景品として提供する物品は小売価格でおおむね800円以下のものとする。小売価格とは、景品専用に開発された物品を除き、一般市場における価格とする。なお、景品専用に開発された物品であっても1個あたりの価格はおおむね800円を超えてはならない。
②景品の種類
善良な風俗の保持、清浄な風俗環境の保持および青少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する観点から、ゲームセンター等における正常な商習慣に照らし適合すると認められる景品に限る。
また、食品衛生法の遵守及び他者の知的財産権を侵害することがないようにすべきである。
以上の点を踏まえ、次に掲げる物品等をゲームセンター等に設置されるアミューズメントマシンにおいて提供される景品として製造・販売・流通してはならない。
ⅰ たばこ、喫煙器具類およびこれらをモチーフにした物品
ⅱ 酒類、および酒をモチーフにした物品ⅲ 医薬品、興奮・めまい・幻覚等の作用を目的とする有機溶剤や成分を 含有する物品
ⅳ 青少年の健全な育成や公序良俗を阻害する内容が印刷または記録され た各種メディア(図書、写真、フィルム、ビデオテープ、CD-ROM・DVDなどの記録メディア類)
ⅴ 性的な行為の用に供する物品および性器を模した物品
ⅵ ショーツ、ブラジャー等の下着類
ⅶ 金券類および類似品
ⅷ 食品衛生法に抵触する材料を使用した物品
ⅸ 偽造ブランド品や偽造キャラクターを使用したもの等、他者の知的財産権を侵害している物品
ⅹ 心身に危害を与える恐れのある物品(レーザーポインター、刃物類)
ⅹⅰ動物愛護の精神に反する恐れのある生物
4.景品提供の方法
①クレーン式遊技機等の遊技設備によりクレーンで釣り上げるなどした物品で小売価格がおおむね800円以下のものを提供すること。
②景品は、あらかじめ表示されている物品と同一のものでなければならない。
③景品と異なる高額なものをデモンストレーションとして展示してはならない。
④カプセル内に品名や記号を記したチケットなどを入れ、これを景品と交換してはならない。
⑤提供した景品をもって他の景品と交換してはならない。
⑥景品が手渡しで提供される仕組みの遊技の場合においても、本ガイドラインの定めるところにより、景品の取扱いを行わなければならない。
⑦風俗営業適正化法に定めるいわゆる4号営業に用いられるパチンコ機、パチスロ機に類する遊技機、メダルゲーム、ビデオゲーム、フリッパーゲーム機等の遊技機を用いる遊技においては、景品を提供してはならない。

後にこの業界スタンダードは、警察庁によって明確化されることになります。

警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」

第17 風俗営業の規制について 10 遊技場営業者の禁止行為
(3) 遊技の結果が物品により表示される遊技の用に供するクレーン式遊技機等の遊技設備により客に遊技をさせる営業を営む者は、その営業に関し、クレーンで釣り上げるなどした物品で小売価格がおおむね800円以下のものを提供する場合については法第23条第2項に規定する「遊技の結果に応じて賞品を提供」することには当たらないものとして取り扱うこととする。

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