森川キャサリーン事件(H4/11/16)

概要


原告であるアメリカ国民の名前が森川キャサリーン・クノルドだったことから掲題の名前が付いている判例。旧外国人登録法には登録原票に指紋押捺が定められていたが、当人はこれを拒否したところ、罰金刑を受けた他、その後の再入国申請について法務大臣より不許可処分を受けた。この不許可処分取り消しを争った訴訟。
最高裁の判例はワード一枚にも満たないシンプルなもので、
我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものでないことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和二九年(あ)第三五九四号同三二年六月一九日判決・刑集一一巻六号一六六三頁、昭和五〇年(行ツ)第一二〇号同五三年一〇月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁)の趣旨に徴して明らかである。以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違憲はない。論旨は採用することができない。」
とのものだった。

条文


外国人登録法
第十四条 十六歳以上の外国人(一年未満在留者を除く。)は、第三条第一項、第六条第一項、第六条の二第一項若しくは第二項、第七条第一項又は第十一条第一項若しくは第二項の申請をする場合には、これらの規定による申請に係る申請書の提出と同時に、登録原票及び署名原紙に署名をしなければならない。ただし、その申請が第十五条第二項の規定により代理人によつてなされたとき、その他その申請に係る申請書の提出と同時に署名をすることができないときは、この限りでない。

国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)
第二条
1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。
第十七条
1 何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。
第二十六条
 すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。

参考ー日本弁護士会連合会「外国人に対する指紋押捺制度に関する決議」


https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/1985/1985_4.html

1. 現行外国人登録法によると、16歳以上の外国人は、1年以上在留する場合(イ)「外国人登録証明書」(常時携帯)(ロ)「外国人登録原票」(市区町村保管)(ハ)「指紋原紙」(法務省保管)にそれぞれ左手ひとさし指の指紋を押捺することが義務づけられている(法14条)。
この指紋押捺義務に従わない場合(押捺拒否行為)には1年以下の懲役若しくは禁錮又は20万円以下の罰金に処せられることになっている(法18条1項8号)。
2. しかし、日本国民の場合は、戸籍上の登録や住民登録、印鑑証明、旅券や自動車免許証など同一性の確認が極めて重要なときさえも、指紋は一切必要としていない。
せいぜい写真で充分との制度をとっている。特に、最近の自動車運転免許証には写真の複写が用いられ、その上にビニールコーティングがなされ、写真の偽造変造は事実上不可能となるほど技術の進歩が反映されている。
ところで、今日のわが国の内外の社会情勢は昭和27年の立法当時とは比較にならないほど良好な状態にある。登録制度の対象となる外国人の大部分を占める在日韓国・朝鮮人や中国人は、もはや2世・3世の時代となり、日本国民とほとんど同じ実態をもち、平和に生活を営んでいる。
他方、わが国では、刑事訴訟法218条2項で「身体の拘束を受けている被疑者」に限って強制的指紋採取を認めていることから、指紋押捺の強制はその人間を犯罪者扱いするという強い屈辱感を与えている。
3. ところで、日本国憲法13条によって、プライバシーの権利(自己の情報を管理する権利)は基本的人権のひとつとして保護されている。また、この権利は在日外国人に対しても当然に適用される。
さらに、先般、わが国が加入した国際人権規約B規約7条では、「品位を傷つける取扱い」は禁止されている。
加えて、現代の人権保障は外国人内国人という区別をやめ、すべて「人間」として取扱おうとするところに特色がある。合理的な理由なく差別的な取扱いがあれば憲法14条及び国際人権規約B規約26条に反することになる。
4. 以上の指紋押捺をめぐる国内的現実や国際的人権法制をみるとき、今日において、外国人にのみ指紋押捺を強制することは、憲法及び国際人権規約に違反する疑いが強く、指紋押捺制度は早急に撤廃しなければならない。
右制度に反対して指紋押捺拒否をなした者に対して、刑罰、再入国不許可などの何らかの不利益も与えてはならない。

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