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富士山をもう一つ作るくらいのものづくり精神!/内田真一さん(大日工業株式会社・常務取締役)

私たちの便利な生活は、多くの電子機器によって支えられています。例えばエアコンやテレビ、スマートフォンなどが挙げられます。これらの電子機器が動作しているのは、電子基板のおかげです。しかし、その電子基板を実際に見たことはありますか?最近の電子機器は、分解のできない構造をしており、その基板を見ることは難しいです。さらに、IoT化に伴い、電子基板も複雑化しています。では、これらの電子基板はどのように作られているのでしょうか? 静岡県の清水区で基板実装を手掛ける大日工業の内田さんに話を伺ってきました。
【大浦、神谷、平濱、望月・常葉大学造形学部2年 村井ゼミ】

取材場所の辻工場でお出迎えをしてくださった内田さん

大日工業株式会社では、主に業務用エアコンの基板実装のほか空気殺菌装置の「Z -CURE」や「ははのて」を製造しています。基板実装は、法人向けの商品のため直接見かけることはありませんが、ビルなどで天井に埋め込まれているエアコンやコンビニで見かけるオープンショーケースの冷蔵庫などに使われています。主に納品しているのは、三菱電機です。そんな大日工業株式会社の幅広いものづくりを手掛ける社風に迫りました。

大日工業で生まれた製品

――自社製品である足元を照らす木の手すり「ははのて」はどのようにして生まれたのですか。

弊社の社長の一緒に暮らしているお母さんが、夜中にトイレへ行く際に電気をつけっぱなしにして戻ったり、暗い中電気を付けるのをめんどくさがってそのまま行って転びそうになったりする場面から危険を感じて、「ははのて」を開発しました。

――「ははのて」の特徴や開発時に力を入れた部分はどこですか。

フットランプの案が出たのですが、フットランプだと前に荷物があると隠れて見えない。また、天井照明やセンサーライトにしてしまうと夜中に起きた際に、明るさが一定以上あると目が覚めてしまいます。なので、手すり自体に照明を付けることで、足元や手元が見えるくらいのやんわりとした明るさになります。トイレなどで夜中に起きてもそのまま再就寝しやすいように考えました。開発時に力を入れた部分は材料です。静岡県は昔から植林を進めているため、竹や杉が多く生えています。しかし、植林したものは、間引いていかないと山が育たないので、そこから大量の間伐材が出ます。しかし、間伐材は商売で考えた時にとても扱いづらいです。間伐材は、伐採に手間がかかるため、必然とコストがかかり普通の木材よりも高くなってしまう。また、間伐材なので育ちきっていません。質という面でもばらつきがあるので、非常に使いにくい未利用資源(活用されず放置されている資源)なんです。そのようなものを「ははのて」に試行錯誤を繰り返して取り入れています。

LED照明内蔵の光る木の手すり「ははのて」 津波避難ビル設置例

――企業でSDGsに関する取り組みは行っていますか。
 
環境に関して言えば、環境省が行っている「エコアクション21」という認証を2007年から16年連続で受けています。そういった基準を満たしている会社や工場は、第三者から見て環境に配慮していることが分かります。でも、環境のために赤字になってはダメなんですよね。だから、森を守る、水を守るっていうだけではなくて、産業を守るとか、貧困をなくそうだとか、そういったSDGsの各テーマの中で自分たちが取り組めるものを意識しています。SDGsに取り組んでいます、でも実は何もやっていませんっていうのを「SDGsウォッシュ」って言うんですけど、そうならないために社内教育でSDGsを意識させるようにしています。

女性社員の意見から生まれたエコアクション21に関する掲示物

 大日工業で働く人々

――内田さんは大日工業にどういう経緯で入社されたんですか?
 
もともとものづくりが好きで、幼稚園、小学校ぐらいの頃、弟がよくおもちゃを壊していたんですけど、それを直すのが自分の役目だったんですよね。小学生だった頃は、私の世代だとファミコンやパソコンが出始めた頃で、5、6年生の頃にプログラムが面白いなって思い始めました。中学生の頃は技術家庭の授業で「動く貯金箱を作る」というテーマで基板のエッチングからやらせてもらえたんです。そこで電気って面白いと思うようになって。高校の入学祝いにはパソコンを一式買ってもらいました。実際に今大日工業で使っている基板にもそういったものを工業的に取り入れています。中学校を卒業をしてからは漠然と半導体に惹かれるようになって、半導体について学べる三重大学に入学しました。鈴鹿サーキットが近くにあったため、見てみたいという邪な考えもありました。

――勉強会や研修会を積極的に行っているとお聞きしましたが、具体的にどのようなことをしていますか?

コロナに入る前は年に2回、興津工場の人も合わせて当時約80名の方が、ぎゅうぎゅうになりながら、半日、または1日かけて、毎回テーマを変えながら勉強会を行っていました。今も、外部講師を招いたり社内で講師を立てたり、場合によってはディスカッションや発表会を行ったりしています。最近だとDXやITとか、そういったものも外部の先生を招いて私が企画をして勉強会を開催したり、仕事に直接関わることではないけど心肺蘇生の手順を学ぶ勉強会も開いたりしています。社員の方に勉強会の感想を書いてもらい、5点満点で点数をつけてもらうようにしていて、次の勉強会に活かすようにしています。

インタビューの様子

――工場では、女性が多いように見えましたが、女性雇用を意識されていますか?
 
元々プリント基板の実装が主な事業なのですが、結構細かい手作業が多く、比較的女性の方が向いているというところもあって、辻工場では女性の社員さん、パートさんが非常に多いです。今は、女性管理者、現場で頑張っている方を現場のリーダーにすることを考えています。比率的に女性が多いと作業に向いている部分があります。

何やら基盤にハンダ付けする機械を眺める神谷くん

――社内では社員のために何か取り組みをされていますか?
 
社内には、堤案制度というものがあります。提案箱というものが置いてあるのですが、提案用紙があって、そこに書き出していく制度です。最初の段階では提案を出す、ということ自体難しく意見が集まりにくかったので、今は困ったことがあれば出すという形式にしています。そうすることで、自分の困ったことを誰かが解決してくれるようになり、「次はこうしよう」「こういうところをどうしようか」というふうな声が上がるようになりました。解決できる可能性がある提案を出した人には、効果に応じて賞金を出していて、みんなで社内の士気を高めています。
 
――目安箱で何か面白いアイディアはありましたか?
 
床掃除に使う掃除道具を雑巾からポリッシャーにして効率を上げる案や、業務上のデジタル化についての案がありました。デジタル化を進めていくことに関しては、現場の人のデジタル化が難しいですよね。でも、デジタル化できる部分があると、紙で書いていたものをデータにしましょうとか、自動集計しましょうという形で1ヶ月に何十時間という時間が改善されます。自分のやる気や、困ったことを解決できるという、世の中のユーザーさんに対して困りごとの解決につながっていってほしいと思っています。新アイテム、新商品を作る練習にもなりますので。

富士山をもう一つ作るくらいの意気込みで

――ファクハクに向けての意気込みと今後の抱負をお聞かせください。

やっぱり知ってもらいたいって言うのが1番なんですけど、清水、さらには静岡を元気にしたいっていう気持ちがあります。静岡県は人口流出が多いんですけど、人気はすごくあるんですよね。だから産学官民、全部が力を合わせてやっていきたいと思っています。せっかく家康さんがいろんな伝統工芸とかを集めて城下町に色々な文化を作ったのに、それにあぐらをかいたまんまで、自分たちで作ったわけじゃない富士山をただ掲げるだけだったら、多分元気にはならない。もう一個富士山を作るくらいの気合いでこれからも頑張っていきたいですね。

内田さん、ありがとうございました!

常葉大学造形学部2年 村井ゼミの学生さんたちが、ファクハク参加企業を取材。大学生目線で、各社の魅力を表現してくれています。全部で3回シリーズです!

静岡工場博覧会実行委員会・阪口追記


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