物語 僕は君のために分身する
2→
ぷぅっ
突然、小さな破裂音が空気を震わせた。
ん?なんだこの音は?
クラスの生徒たちが声を殺して笑っている。
音の方向を見ると、フカフカの布団に座った女の子が顔を両手で覆っている。
何が起こった?
生徒たちを見るとドッキリ成功とばかりにこちらを覗き込んでいる。
僕の驚いた表情がよっぽど間抜けに見えているのだろうか?
教師は静かにしなさいとだけ言って黒板に再びチョークを走らせる。
自分の身の周りに起こった事件を把握できない。そのまま顔をひきつらせて休憩時間に突入する。
生徒たちは何もなかったように自由に休み時間を過ごし出した。
彼女は顔を下げたまま廊下へ早歩きで退場した。
唖然とした顔がまだ戻っていない自分に対して、右隣の生徒から渡辺だと自己紹介を受ける。
「びっくりした?」
「...なにが?」
「さっきのこと!」
「あぁ、えっと...。」
言いにくそうな表情を察したのか渡辺は
「ま、すぐに慣れるよ」とだけ言い肩に手を置いてきた。
その後の授業も彼女は黙って授業を受け続け、ときおり何かに怯えるような表情をみせた。
それが伝播したのか僕は全く授業内容が頭に入ってこず、今まで経験したことないような緊張感に包まれていた。
放課後、特に何もしていないのに体の力が抜けるような疲労感に襲われてしまった。
目の前に布団があれば横になりたい。
彼女はもうすでに早足で帰ってしまった。
「おつかれさん!じゃまた明日。」渡辺がそそくさと帰ろうとする。
「ちょっとまって、聞きたいことがあるんだけど」
「俺クラブがあるんだけど」
「すぐに済むから!あのさ、左に座ってた子って...。」
あぁ、質問内容がお見通しだという表情でこちらを見た。
渡辺は口に手を当てて耳に近づいてきた。
「山吹さんだろ?あの子ね我慢できないんだ。」
「え?」
「わかってんだろ?俺に言わせんなよ、ガスが我慢できないんだって」
「ガス」
「そう、そうゆう珍しい病気なんだって」
まさか、信じられない。
つづく