2022.4① Weekly Music Log ~春ねむり、mzsrz、levi、KAGERO、ドライブ・マイ・カー~

架空対談方式で、主にその週の新譜を中心に、音楽について緩く書く週刊記事。

――5回目です。2月目になりました。

なんとか続けられていますね。個人的には在宅勤務になって、通勤がなくなったことが音楽を聴く機会の減少に繋がっているのですが、やっぱり良い音楽を聴くのがメンタルヘルスに効くなと感じるここ最近です。そういう意味でも、こうやって音楽を聴く機会を作るのは良いなと思っています。

――何事も習慣化は大事ですからね。では、今週はどんな感じですか?

今週はちゃんと新譜中心ですね。書きたい曲はたくさんあるのですが、曲数は絞って4曲にしました。

――良い曲は際限なくありますからね。では1曲目お願いします。

春ねむりの「生きる」です。

――海外でも評価されるシンガーソングライターですね。詩を詠うように歌うのが印象的で、ポエトリーラッパーと自称したりもしているようです。

個人的にも、いわゆる歌ともラップともポエトリーリーディングとも言い難い、それらが混じり合った独特なボーカルが印象的で(ポエトリーラップという考え方は昔からあるのですね、初めて知りました)、それを緊張感のある重々しいトラックに乗せて突き刺すようなアーティストという印象を持っていたのですが、この曲は、良い意味でトラックのイメージから大きく外れたもので、びっくりしました。

――重々しさは一切なく、軽やかですよね。イントロから、キャッチーなコーラスとギターリフが印象的です。

そうなんですよね、最初聴いたときに、イントロだけで良曲を確信したので、これだれ!?となりました。そしてリリックの強さは言わずもがなです。

――この曲は、まさしくタイトル通りのリリックですが、谷川俊太郎の文学作品「生きる」の一部が朗読で引用されていますし、谷川俊太郎ご本人の許諾を得て制作された作品とのことです。

谷川俊太郎の「生きる」なんて、教科書以来に出会いましたが、うまく引用して、素晴らしい世界観を創り出していると思います。

ベースとキックドラムや時折ハンドクラップで代替される四つ打ちのビートは、終始安定して身体に響き続けて、それだけでも気持ち良いのですが、やっぱりこのキャッチな音に乗せて届けられる言葉の力強さに感服します。言葉に籠った力強さは、ともすればあまりにも強烈にこちらに届きかねないほどですが、それをこの安心感のあるビートが中和しているように感じます。このご時世において、深刻にしようとすればいくらでも出来ると思うのですが、そうはせず、あくまでも前向きにこのバランスの音色と重さに仕上げたのが抜群で、谷川俊太郎の「生きる」の雰囲気を活かしながら、キラキラと輝いている楽曲です。最後の転調の展開にも、やられました。

――なるほど。フックのコーラスもみんなで歌いたくなるような軽さがありますよね。

そうですよね、このコーラスは最初に聴いてからずっと耳に残っています。

――春ねむりは4/22にニューアルバム「春火燎原」をリリース予定ということで、俄然楽しみになってきましたね。

全くその通りです。どんなアルバムになっているのか要注目です。

――次の曲に行きましょう。次は何ですか?

mzsrzの「フェーダー」です。

――読み方が若干難しいですが、「ミズシラズ」ですね。

公式サイトの紹介をそのまま引用しますが、まさしく見ず知らずの状態から生まれたアーティストであることからの名称のようです。

エイベックス × テレビ東京による次世代オーディション「ヨルヤン」を勝ち抜いた十代のボーカリスト:大原きらり / 作山 由衣 / 実果 / ゆゆん / よせいからなる5人組。水のように無色透明で変幻自在な「多様声」と「憑依声」を持つ。
音楽プロデューサーに『DECO*27』を迎え、誰しもが思春期に抱える感情の機微を音に乗せて代弁する。

――ボーカリスト5人組ということですね。

そのようです。アーティスト名やアイドル文脈とは距離を取ろうとしている意図も見える姿勢は、CYNHNを想起しました。後述のストイックな音楽性も然りです。ちなみに、本人たちがどのように名乗っているの確認してみたら、"5人組ヴォーカル・コレクティヴ"でした。色々透けて見えて、面白いですね。

――アーティストも多様な在り方があっていいですね。曲はどんな感じでしょうか?

トラップ調のハイハットから始まる楽曲で、ヴァースもラップを意識したような言葉の乗せ方が印象的なフロウです。ですが、そこから様相は一気に変わっていき、EDMのようなビルドアップを挟んで、辿り着くのは、ストレートなロックなビートです。正直、最初聴いた時は、予想外の連続でびっくりしました。こう来るだろうなというメロディの運び方や、曲の展開とはことごとく違った形できたので。2番に戻るときも潔くて、さっとトラップ調の雰囲気に戻すのは印象的です。

――色んな要素が織り交ぜられている楽曲って感じなのですね。でも、ボーカリストと肩書きの通り、歌には安心感があります。

だからこそのトラックなんでしょうね。歌がここまで安定していれば、トラックで色々やっても、曲としては十分成り立つという自信があるのでしょう。

――この曲は、3/16にリリースした1stアルバム「現在地未明」に収録されている楽曲ですが、公式サイトの紹介にもあったように、このアルバムはDECO*27が全曲プロデュースとのことです。

あまり詳しくは知らないのですが、最近よく見かけるボカロPですね。以下の記事は面白かったです。

今注目のボカロPであり、シーンのキーマンであることは間違いないようです。まだアルバムの他の楽曲は聴けていないのですが、多様なプロデューサーが参加している作品のようですので、楽曲のクオリティについては一切の妥協なしという姿勢が感じられます。良いですね。

――なるほど、アルバムの他の曲も必聴ということですね。

聴かざるを得ないです。ちゃんと聴いてみたいと思います。

――では、3曲目に行きましょう。

leviの「pressure」です。

――今って感じのサウンドです。どういうアーティストですか?

自分もあまり把握できていないのですが、特にSoundCloud周辺で盛り上がっているクルー、STARKIDSのメンバーで、読みは「リヴァイ」。まさしく進撃の巨人のリヴァイ兵長から取られているとのことです。そのleviがリリースしたファーストソロEP『SPEEEED』からの1曲になります。

超余談ですが、なぜか、STARKIDSと、韓国のボーイズグループのStray Kidsがごっちゃになっていたんですが、最近やっと理解しました。ちなみに、Stray Kidsも結構面白い音楽やっていると思います。

――アーティストの空目は結構ありますよね。ちなみに、最近、SoundCloud周辺の話題をそこそこ見かける気がします。盛り上がっているんですかね。

どうなんでしょうね、自分も全然追えていないんですが、STARKIDSも出ている、以下のライブ動画は凄いなと思いました。

Hyperpopの流れを感じざるを得ない音楽が集っていますが、知らないアーティストばかりでした。しかもSpotifyとかにも音源がないアーティストもいるので、おそらく主戦場はSoundcloudなんだと思います。それがここまでの熱量を持ったライブをやっているとは、正直びっくりでした。自分が知らないところで、確実にシーンが生まれて育っている感じがして、めちゃくちゃ面白いです。(あと、やっぱり今はもうスマホ片手にライブ観るのがデフォなんだなというのも、結構興味深いです。)

――こういうライブ、状況も状況なので、久しく行っていないですね。なんだか懐かしいです。最高の雰囲気ですね。

そうですね、やっぱりライブってこういう空気感こそがって気がするので、そろそろこの日常は戻ってきてほしいところです。

――曲に話を戻すと、どんなところが良かったですか?

最近、なんとなくですが、こういう現行のヒップホップの音に、綺麗なギターのリフを合わせるのが結構多い気がします。過剰な低音に混ざっているのか反発しているのか、不思議な立ち位置で響くギターの音色が生み出す曲全体の空気感が、絶妙で心地良いです。時折鳴る電子音は、今はほとんど聴くことのないカメラのシャッター音のようにも聴こえて、そういう意味でも懐かしさも新しさも感じる曲だと思いました。もちろんラップも◎でした。

――このシーンは今後さらに面白くなること間違いなしですね。

そうですね、最近ようやくサンクラ周辺の面白さを認知できたので、アンテナ張っていきたいです。

――そうですね、意識的にアンテナ張らないと届かない場所ですからね。では、最後の曲に行きましょう。

最後の曲は、KAGEROの「SCORPIO - REBUILD」です。

――曲名に、REBUILDとありますね。どんなアーティストで、どんな曲なのでしょうか?

KAGEROは、4人組インストバンドなのですが、まず構成が面白く、ベース・サックス・ピアノ・ドラムスです。これだけ見ると、ジャズとかおしゃれな音楽が想像でき、それも遠からずなのですが、その実態は、この文字面からは全く想像できないほどの、狂暴なサウンドがこのバンドのオリジナリティだと思っています。公式サイトには、4ピースジャズパンクバンドと書いてありますね。パンクの感じは良く分かります。

それで、この曲なのですが、オリジナル楽曲全70曲を再構築する企画を始めたそうで、その1曲目になります。なので、REBUILDですね。これだけでもよくやるわと思うのですが、さらにぶっ飛んでるのは、それを毎日1曲ずつ配信すると。。。ストイックにもほどがあります。

――なかなかにまともではないことをやりますね。。。曲もイントロから圧倒されます。

音もそうですし、こういった企画面もそうで、どこから切り取っても、相当にぶっ飛んでるバンドだと思うのですが、一番凄いと思うのは、これだけの熱量が音源にパッケージされている点だと思います。ライブかと思えるほど、音が生きていて、躍動している。加えて、インストなのですが、サックスとベースそれぞれが歌っているかのようにひたすら前に出てくるので、終始圧倒されている間に曲が終わります。こんな音楽は、KAGERO以外ではなかなか出会ったことがない気がします。

――音源でもここまでの熱量があるのに、ライブだとどうなってしまうのでしょうか。

KAGEROを初めて知ったのは、大分前にライブをたまたま見た時でした。目当てではなかったので、全く知らない状態で見たのですが、一瞬で心を掴まれてしまいましたね。こんなバンドがいるのかと思いました。とにかくまともではなく、ぶっ飛んでいる。でなければ、こんな音にはならないと思います。最近はライブを見る機会もないですが、この音源を聴く限り、ライブでは当時と全く変わらぬ熱量を見せてくれるんだろうなと思いました。

――そこまでですか。面白いです。そんなに知名度は高くなさそうですが、ぜひチェックしてほしいバンドですね。これから毎日配信リリースするわけですし。

はい、そうですね。万人にウケるタイプではないので、好みにハマるかは結構難しいかもですが、一度は聴いてみてほしいバンドですね、こんなバンドは他に知らないので。

――では、今週も最後におまけをお願いします。

今週は、アカデミー賞の話を少し。ウィル・スミスのほうではなく、「ドライブ・マイ・カー」についてです。

――あえてここで書くまでもないとは思いますが、2009年の滝田洋二郎監督の「おくりびと」以来の国際長編映画賞を受賞した映画ですね。映画はよく見るんですか?

映画は全くです。年に片手も観ないと思います。嫌いではないんですが、時間もないですし、なかなか。でも「ドライブ・マイ・カー」は観ました。配信でですが。

――流行りに乗っかった感じですね。

まぁたまには何かみたいなぁと思った時に、やっぱり流行りに乗るのが一番良いのかなと思いまして。ちなみに村上春樹の小説も読んでないです。

――その状態で見てみて、どうでしたか?

面白いとは思いました。ただ、やっぱり自分には消化不良な点が多かったんですよね。濱口竜介監督の作品もほとんど見たことないですし、監督自身についても断片的に見聞きするだけだったので、知識不足の面も大きいとは思いますが。

――頭を空っぽにしてみるような映画ではないと思うので、確かに全く映画に馴染みがない人が見ると、解釈が難しいんだろうと思いますね。

なので、そういう前提でではあるのですが、以下の2つの記事は、自分の消化不良だったポイントを的確に言語化してくれました。

――具体的にどんな点でしょうか?

音楽以上に適当なことを書く勇気がないので、詳細はぜひ記事を読んでいただきたいのですが、この映画は「正しく傷つく」という言葉がキーとなっているのだろうと自分でも思いました。しかし、果たしてそれをどう捉えるのか。例えば、この記事ではまさしくそこから「男性性」の在り方について細かく記載しています。

でも、なんかその文脈がスッキリ来なかったんですよね。確かにその見方は出来ると思う。だけど、そうしたときに、この映画から零れ落ちるものが、あまりにも多くあるのではないか?という気がしました。

そういったことを上記2つの記事ともに指摘しているのだと自分は理解しました。前者はまさしくその「男性性」の見方とは違った観点を、映画全体に流れる"滑らかさ"に隠されたものがあるのではないかという話を、後者はさらにラディカルに、そもそもこの物語は世間で捉えられている解釈とは全く違った「怪奇的に引き裂かれていく物語」として捉えることが出来るのではないかという話を。

――なるほど。なかなかどちらも独特な視点からの映画の捉え方をしていますね。

これが批評や論考なんだなと思いました。正解がある話ではないですが、こういった普通とは違った見方をすることで、映画の世界の奥行が広がると思います。そして、いわゆるもっと大衆向けな映画であればそういった見方は必要ないようにも思いますが、この映画は真っ当ではない見方を求めている映画なのではないかなと、個人的には思いました。やっぱり謎は多いので。

――音楽も同じですね。色んな見方・聴き方をすることで、その作品の魅力が増していくように思います。

そうですね。そういう見方・聴き方を自分も模索して、ここで書いていけるといいなぁと思います。

――そうですね、続けながら考え続けていきましょう。

そうしたいと思います。今回もありがとうございました。またよろしくお願いいたします。


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