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写真に著作権はない!? ――5分で分かる著作権の基礎(2)

■今回のテーマは何?

このような記事が話題になっています。

写真に著作権はないと言う話 - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/843136


上記記事の内容は正しいのでしょうか?

……と言うわけで,今回は,タイトルにもあるように,写真に著作権は認められるか?――正確には,写真の著作物性(創作性)はいかなる場合に認められるか?――について,簡単な説明をしたいと思います。


■結論

結論から申し上げると,上記まとめで引用されている,これらのご発言は正確ではありません。写真は著作物たり得ますし,著作権も認められ得ます。

ご指摘のとおり,写真に創作性が認められず,著作物性が否定されることはあります。この場合,まさにご指摘のとおり,著作権は発生しません。

また,「編集著作物」というものが著作権法上認められている(著作権法12条1項)という旨のご指摘もおっしゃるとおりです。

ただ,写真であれば,常に著作物性が否定されるというのは,正確なご指摘ではありません。


さらに,「日本の法律では実際に手足動かして作ることが重要視される」という点も,現行法の解釈としては正確ではないと言わざるを得ません。むしろ,現行法は,それらを重要視しないという立場を採用しています。

「我が国を含むいわゆるコンチネンタル・アプローチを採る大陸法系諸国においては,著作権は『著作者』が創作したことから生まれる権利(Author's right)と考えられており,保護の対象となる著作物は,著作者の精神的な作業から生まれた『精神的創作物』であることが必要とされる(略)。したがって,多大な費用や労力をかけ,『額に汗』を浮かべて制作したものであっても,それだけでは『創作性』の要件を備えたことにはならない(略)。」(大寄麻代「著作物性」牧野利秋=飯村敏明『新・裁判実務大系 著作権関係訴訟法』〔青林書院,2004年〕132頁以下。太字は引用者による)。




■そもそも「著作物」って何? 何のために「著作物」の話をしているの?

「著作物」とか「著作権」とか似たような言葉が出ていますが,そもそも,「著作物」とは何でしょうか? そして,「著作物」について論じる意味はどこにあるのでしょうか?


ある入門書()は,著作物の概要について,次のように説明します。

「著作権法上,著作者の権利(著作者人格権および著作権の双方を含む)の対象となるものを著作物という。」(島並良=上野達弘=横山久芳『著作権法入門』〔有斐閣,2009年〕14頁

つまり,著作物であれば,原則として,著作権などが認められます。

言い換えれば,「ある作品が著作物に当たるか否か」を議論する理由は,「著作物と言えれば著作権が認められるから」という点にあります。

要するに,著作権の有無を判断するために,著作物かどうかを考えるわけです。


したがって,写真についても,「この写真は『著作物』だ」と言えれば,原則として,著作権などが認められることになります。


では,改めて,「著作物」とは何なのでしょうか?

「著作物」については,著作権法2条1項1号が定義規定を置いています。

(定義)
著作権法第2条第1項

 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(後略)

正直に言って,この規定だけを読んでもよく分からないと思います(笑)。

一応,理論的な説明をしておきますと,
(1)「思想又は感情」を含むこと
(2)「表現」されたものであること
(3)創作性があること
(4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」であること
という4つの要件を満たすと「著作物」に当たることになります。


もっとも,上掲の定義規定は曖昧な内容であるため,著作権法自身が,10条1項で著作物を例示しています。

そして,実は,この著作権法10条1項8号に「写真の著作物」という規定が明示的に置かれています。

(著作物の例示)
著作権法第10条第1項

 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一  小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二  音楽の著作物
三  舞踊又は無言劇の著作物
四  絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五  建築の著作物
六  地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七  映画の著作物
八  写真の著作物
九  プログラムの著作物


したがって,写真が著作物たり得ることは,著作権法10条1項8号から明らかです。


 余談ですが,この入門書は,信頼できる研究者の先生方によって作られており,かつ,教育的配慮が行き届いています。もし,著作権に興味・関心があり,1冊だけ本を買うというのであれば,私は,同書をお薦めします。
著作権法入門 | 有斐閣
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641143739



■じゃあ,写真なら何でも「著作物」に当たるの?

結論としては,冒頭でも申し上げたように,写真なら何でも「著作物」に当たるわけではありません。「著作物」に該当しない写真もあります。


問題は,いかなる場合に,写真が「著作物」――すなわち「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)――に該当するか否かという点にあります。

特に,写真については,「創作性」がどのような場合に認められるのかという点について色々な議論があります。


冒頭で引用した @haruna_nowaki さんのツイッターのご発言は,この点をご指摘されようとしていたのだと思います。

「写真=著作物」と勘違いされている方も少なからずおられますので,@haruna_nowaki さんのご発言は,この勘違いが誤りであることを指摘されるという意味で的を射たご発言だと思います。


そして,写真について,いかなる場合に創作性が認められるかという点については,議論がありますので,詳細かつ正確なご説明をここですることはできません(本稿は,タイトルにあるように,著作権法の基礎を5分で説明しなければならないのです(笑)!)。


そのため,概要を大雑把に説明しますと,以下のとおりです。

まず,「創作性」とは何かということですが,伝統的には,

「著作者の何らかの個性が表現されていればよい」

と解釈されています(前掲・島並ほか24頁,中山信弘『著作権法』〔有斐閣,初版,2005年〕49頁など。伝統的通説。)。結構緩い解釈です。

実際に問題になったことがある具体例を見ていきましょう。


●写真の創作性が否定される場合

典型例は証明写真です。
証明写真について創作性が否定される理由は,証明写真が機械的・自動的に撮影・作成され,撮影者の個性が表現されているとは言えないからです。

また,別の例としては,忠実な記録等を目的とする平面的な写真についても創作性が否定されます。
例えば,古代の絵画を,歴史記録目的や修復前の現状確認目的などで,電子機器や機械を利用して,精密かつ平面的に撮影した場合です。この場合は,次のような理由で創作性が否定されます。

「正面から撮影する以外に撮影位置を選択する余地がない上,技術的な配慮も当該作品をできるだけ忠実に再現するためにされるものであって,独自に何かを付け加えるものではなく,新たな創作性が認められないからである。」(岡村久道『著作権法』〔民事法研究会,新訂版,平成25年〕79頁)。


●写真の創作性が肯定される場合

写真の創作性が認められるのはケースバイケースです。というわけで,典型例を挙げることが難しいです。すみません。

そこで,著作権法の大家である東大名誉教授・中山信弘先生のご説明を引用させていただくと,次のとおりです。

「写真が著作物たりうるのは,被写体の選択,シャッターチャンス,シャッタースピード・絞りの選択,アングル,ライティング,構図・トリミング,レンズ・カメラの選択,フィルムの選択,現像・焼付等により」,著作者の個性が表現されている場合である(前掲・中山92頁)。



■まとめ

結局,今回の記事の結論としては,

「写真に著作権が認められる余地は十分にありますが,いかなる場合に著作物性(創作性)が認められるかについては,ケースバイケース」

という歯切れの悪いものになってしまいました(笑)。


というわけで,ケースバイケースですから,著作権についてお悩みの方は,著作権に強いお近くの弁護士にご相談ください!


#法律 #著作権 #解説

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