【メモ】裁判員裁判の死刑判決を上級審が破棄して確定したことについて

■2015年2月4日の報道

裁判員の死刑、破棄を支持=東京・千葉の1人強殺―二審の無期懲役確定へ・最高裁 (時事通信) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150204-00000115-jij-soci
「裁判員裁判の死刑判決が二審で破棄され、無期懲役とされた東京と千葉の強盗殺人事件2件について、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は3日付で、検察、弁護側双方の上告を棄却する決定をした。いずれも二審東京高裁判決が確定する。」


裁判員の死刑判決破棄、確定へ 最高裁「極刑は慎重に」 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/CN/201502/CN2015020401001491.html


※【追記】最高裁の決定がネット上に公開されました。

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面(東京の事件)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84840


裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面(松戸の事件)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84839


※【追記・その2】

裁判員裁判の判断(特に量刑)が上級審で覆ることについて - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/779645



■私見

裁判員裁判が下した死刑判決を上級審が破棄できるという制度設計自体については,私は賛成です。

ただ,制度の一般的な当否と,今回の東京高裁と最高裁の判断は正しかったのかという個別的な当否は別です。それを検討する材料として,メモを作成します。



■東京の強盗殺人被告事件(東京高判平成25年6月20日判時2197号136頁,第10刑事部,裁判長:村瀬均判事)

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=83954

量刑に関する東京高裁の判断を引用します。但し,表示の関係で,改行や太字等の編集を一部,引用者が行っています。


「死刑は,窮極の峻厳な刑であり,慎重に適用すべきであることはいうまでもない。死刑が相当かどうかの判断は,無期懲役刑か死刑かという,連続性のない質的に異なる刑の選択であり,有期懲役刑の刑期のような許容される幅といった考え方には親しまない。いかなる事情が無期懲役刑と死刑の質的相違をもたらすかは,原判決がいうとおり,最高裁の判例(最高裁昭和58年7月8日第2小法廷判決・刑集37巻6号609頁)に示された要素,すなわち,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等諸般の情状を検討した上で,過去の先例の集積をも参考にして判断することになる。個々の事例を構成する要素の重みは事案により異なるから,単なる事例比較は意味がなく,相当ではないが,過去の先例の集積からうかがわれる傾向は,事件の重大さの程度を評価する資料となり得るという意味で参考とされるべきである

 強盗殺人罪の法定刑が無期懲役と死刑に限定されているのは,最も重要な法益である人の生命を奪って利欲目的を遂げるところにある。

 保護法益の中心が生命である以上,現実に生命を奪われた数が多いほど刑事責任が重いのは明らかである

 また,早い段階から利欲目的で被害者の殺害を計画し,これに沿って準備を整えて実行した場合には,生命侵害の危険性がより高い犯行といえるのであり,その計画性が高ければ生命という法益を軽視した度合いが大きいとして,重い刑事責任が問われることになる。 

 本件では,殺意が強固で殺害の態様等が冷酷非情であり,結果が極めて重大であることは原判決指摘のとおりである。

 しかし,本件は,被害者が1名の事案である

 そして,被害者への刺突時にはその態様から強固な殺意が認められるものの,被害者方への侵入時には殺意があったとは確定できず,侵入後に状況によっては人を殺すこともやむを得ないと考るに至ったと認定できるにとどまるのであって,まして殺害について事前に計画されたり,当初から殺害の決意をもって臨んだものとは到底いえない。

 また,被害者方への侵入時には強盗目的が認められるものの,その計画性については,包丁を準備して現場に赴いたという点で,それなりに計画的といえるにとどまるのである。

 強盗殺人罪の刑が無期懲役刑と死刑に限定されている上記の趣旨にかんがみると,上記アに列挙した量刑要素のうち,被告人の前科の点を除いて検討した場合,すなわち,本件犯行の態様,結果,被害感情,犯行に至る経緯や動機の点を十分に踏まえて,前科を除く諸般の情状を検討した場合,本件は死刑を選択するのが相当な事案とはいい難い

 原判決は,被告人に人の生命を奪う重大な前科がありながら,服役後短期間のうちに本件に及んだことを相当重視したものと思われる

 確かに,そうした観点は量刑判断の上で重要ではある。

 しかし,一般情状である前科を死刑選択に当たり重視する場合,これまでの裁判例には一定の傾向がみられることに十分留意する必要がある

 そこで,この点に関する先例の量刑傾向をみると,殺害された被害者が1名で死刑が選択された強盗殺人罪のうち,前科が重視されて死刑が選択された事案の多くは,殺人罪や強盗殺人罪により無期懲役刑に処せられ仮出所中の者が,再度,前科と類似性のある強盗殺人罪を敢行したという事案である

 また,無期懲役刑の仮出所中ではないが,無期懲役刑に準ずるような相当長期の有期懲役刑となった前科である場合には,その前科の内容となる犯罪と新たに犯した強盗殺人罪との間に顕著な類似性が認められるような場合に,死刑が選択される傾向にあるといってよいと思われる。

 これらは,無期懲役刑による矯正のための処遇を十分受け,仮出所により法の定める矯正過程に服していた者が,その立場を顧みることなく,法の定める遵守事項等を無視して強盗殺人罪を敢行したこと,無期懲役刑に準ずるような相当長期の有期懲役刑に服し矯正のための処遇を十分受けながら,再度類似した強盗殺人罪を犯した点で,法規範軽視の姿勢が著しく,改善更生の可能性もないことが明らかであることが考慮されたものと思われる。

 本件においては,被告人の前科は無期懲役刑ではなく,これに準ずるような相当長期の有期懲役刑である。そして,被告人は,真面目に服役して全ての刑期を終えてその執行を終了している

 また,上記ア(エ)のとおり,その前科は夫婦間の口論の末の殺人とそれを原因とする無理心中であり,利欲目的の本件強盗殺人とは社会的にみて類似性は認められないのであって,類似性が顕著な重大犯罪を重ねて最早改善更生の可能性のないことが明らかとはいい難い。実際にも,被告人は,前刑執行終了後,上記ア(ウ)のとおり,更生の意欲をもって努力したが,その前刑の存在が就職にも影響して何ごともうまくいかず,自暴自棄になった末の犯行の面があることも否定できないのである。

 被告人の前科の評価に関しては,このような留意し酌量すべき点があるのであるから,前科を除けば死刑を選択し難い本件について,その前科を重視して死刑を選択することには疑問があるというほかない。

 そうすると,原判決は,人の生命を奪った前科があることを過度に重視しすぎた結果,死刑の選択もやむを得ないとした誤りがあるといわざるを得ない。」。



■千葉の 住居侵入,強盗強姦未遂,強盗致傷,強盗強姦,監禁,窃盗,窃盗未遂,強盗殺人,建造物侵入,現住建造物等放火,死体損壊被告事件(東京高判平成25年10月8日高刑集66巻3号42頁,第10刑事部,裁判長:村瀬均判事)

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=83958

量刑に関する東京高裁の判断を引用します。但し,表示の関係で,改行や太字等の編集を一部,引用者が行っています。


「死刑は,窮極の峻厳な刑であり,慎重に適用すべきであることはいうまでもない。死刑が相当かどうかの判断は,無期懲役刑か死刑かという,連続性のない質的に異なる刑の選択であり,有期懲役刑の刑期のような許容される幅といった考え方には親しまない。いかなる事情が無期懲役刑と死刑の質的相違をもたらすかは,前記永山判決に示された要素,すなわち,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等諸般の情状を検討した上で,前記2(2)のとおり,過去の先例の集積をも参考にして判断することになる。


 本件では松戸事件が量刑判断の中心となる。原判示(上記ア〔ア〕〔イ〕)のとおり,松戸事件は,強固な殺意に基づいた犯行であり,殺害の態様も被害者の負った創傷の状況に照らして誠に執拗かつ冷酷非情なものである。被害者の死体を焼損し犯跡を隠蔽することを企て,マンションの被害者宅に放火した犯行も甚だ危険かつ悪質である。結果が極めて重大であることはいうまでもなく,突然理不尽にも生命を奪われた被害者の無念な思いは察するに余りある。遺族の処罰感情は極めて厳しく,被告人に対し死刑を求める心情も十分に理解できる


 他方で,被告人が,被害者を包丁で脅迫して金品を強取したほか,何故上記のような冷酷非情な態様で殺害までしたのか,その動機や殺害直前の経緯については,被告人の弁解が信用できない以上,判然としないというほかない

 もっとも,被告人は,深夜被害者宅に侵入して物色行為に及び,若い女性が一人暮らしをしていることを知り,同所にあった包丁を手にして室内で横になるなどしていたところ,朝10時過ぎに被害者が帰宅したことから,被害者に包丁を示して金品を要求し,現金5000円とカード類4枚等を強取したという経緯は原判決が認定したとおりであって,被告人が被害者を殺害する状況となったのは,金品強取後に生じた被告人と被害者間の何らかの事情が原因であることが窺われる

 そうすると,被告人において,被害者宅への侵入時や包丁を手にして室内にとどまっていた間に殺意がなかったことは明らかであるし,さらには,金品を要求した時点においても,未必的な殺意を含め,被害者を殺害する意思があったとは認めることができない

 また,殺害直前の経緯や殺害の動機も不明であることから,本件は,いかなる意味においても計画的な殺害行為ということはできない。この点,原判決も殺害行為自体の計画性については明確に否定している


 そして,これまでの先例の傾向をみると,殺害された被害者が1名の強盗殺人でその殺害行為に計画性がない場合には,死刑は選択されないという傾向がみられるといってよい

 原裁判所も,上記ア〔オ〕のとおり,殺害された被害者が1名で殺害に計画性がない点を特に考察しており,この先例の傾向を念頭に置きつつ慎重な検討を加えたことが窺われる。その上で,原判決は,本件に特有の事情を考慮すると,殺害された被害者が1名で殺害に計画性がないことは,死刑を回避すべき決定的事情とまではならないとし,その特有の事情として,

〔A〕短期間に強盗致傷や強盗強姦という重大事案を複数回犯し,その中には死亡してもおかしくないほどの重篤な傷害や,深刻な性的被害を受けた者がいること

〔B〕刃物を使用して一連の強盗事件を敢行しており,被告人の粗暴な性格傾向の著しさにも鑑みると,被害者の対応いかんによってはその生命身体に重篤な危害が及ぶ危険性がどの事件でも十分あったこと

を指摘している


 確かに,被告人は,上記ア〔ウ〕のとおり,重大かつ悪質な犯行を重ねており,これらは被害者の対応いかんによっては生命身体に重篤な危害を及ぼしかねない犯行であって,被害者らが受けた被害も深刻で処罰感情も厳しいものがある。また,上記ア〔エ〕のとおり,被告人は,昭和59年に〔3〕事件と類似する強盗致傷,強盗強姦で懲役7年に処せられ,さらに,平成14年に松戸事件と類似する住居侵入,強盗致傷で懲役7年に処せられるなど,重大事犯に及んだ複数の前科を有する上,前刑出所後3か月足らずの短期間のうちに本件各犯行を反復していることに照らせば,被告人の極めて粗暴で反社会的な性格傾向も否定できない

 しかし,本件において被告人が犯した各犯行は,生命身体に重篤な危害を及ぼしかねない危険なものであるとはいっても,松戸事件を除けば,殺意を伴うものはなく,法定刑に死刑が含まれる多くの犯罪にみられるような,人の生命を奪って自己の利欲等の目的を達成しようとした犯行ではない

 別の観点からいえば,松戸事件を除いた各事件については,その重大悪質な犯情や行為の危険性をいかに重視したとしても,各事件の法定刑からして死刑の選択はあり得ない

 同様に,被告人の前科をみても,殺意を伴うものはなく,松戸事件と類似する前科は,若い女性の家に侵入し,家人の帰宅を待ち構えて同所にあった包丁で脅した上,ストッキングで両手を緊縛してキャッシュカード等を強取したという事件であるが,松戸事件のように人の生命を奪おうとまでした事件ではない。上記〔A〕〔B〕の事情をみても死刑を選択すべき特段の要素は見当たらないのである。

 死刑が選択されないという一定の先例の傾向がある場合に,その傾向に沿った判断をしない事情があるときには,死刑は慎重に適用すべきであるという観点からも,その合理的かつ説得力のある理由が示される必要がある。原判決が指摘する上記〔A〕〔B〕の事情は,確かに,被告人の刑事責任の重大さを根拠付ける悪情状であるといえる。

 しかし,殺害された被害者が1名で殺害行為に計画性がない場合には死刑は選択されないという先例の傾向があるにもかかわらず,その傾向に沿った判断をしなくてもよいのかが問われている場面において,少なくとも,上記〔A〕〔B〕の事情があることを理由として,その傾向に沿った判断を排した上で,無期懲役刑とは質的に異なる刑である死刑を選択し得るとすることは,合理的かつ説得力のある理由を示したものとは言い難い

 原判決は,殺害された被害者が1名の強盗殺人で殺害行為に計画性がないことは死刑を回避する一つの事情と捉えた上で,上記〔A〕〔B〕の事情という本件に特有の事情があることを考慮すれば,それは死刑を回避する決定的事情とまではならないという考え方をしているが,その判断は合理性のある評価とはいえないというべきである

 当裁判所は,松戸事件の殺害態様が執拗で冷酷非情であり,放火も危険性の高い悪質な犯行であること,その結果も重大であることを十分に考慮しても,同事件が殺害された被害者が1名の強盗殺人であり,殺害行為にいかなる意味においても計画性を認めることができないことを踏まえると,死刑を選択することが真にやむを得ないものとはいえないと考える。

 そして,松戸事件に加えて,松戸事件前後の強盗致傷,強盗強姦等の事件の犯情が重大,悪質,かつ危険であることなどを併せて考慮し,さらに,被告人の前科関係や粗暴で反社会的な性格傾向,被告人の反省の情が乏しいこと,松戸事件の被害者遺族や他事件の被害者らの厳しい処罰感情などの一般情状を十分に斟酌しても、同様に,死刑を選択することが真にやむを得ないものとはならないというべきである。」。

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