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『朝しなり』

『ジャス、ミン、ティー」

声には出さないが、しゃがれた心の叫びと共に昨夜沸かして枕元に用意しておいたジャスミンティー入りやかんに手を伸ばす。
喉に居候する粘つく痰が、すっかり冷えきったジャスミンティーのスーっとした喉ごしによりスッキリと流れ去るのではないか、という科学的根拠もない中年独自の直感と思い込みと、喉を乾かせ目を覚ます習慣を踏まえて昨夜からやかんに入れて枕元に用意していたのだ。

布団の上に座り、その喉薬ジャスミンを大きめのマグカップいっぱいに注ぐ。一晩寝かせたからか、やや茶色がかっているのだが、これが効果を倍増させる、と霊感商法の一端を垣間見ながら一気に飲み干す。

「ゲッフッゴフッ」

近頃はその辺りの中堅中年男性みたいに咳き込むことが多いが、おそらくこの朝のスッとした一杯により、腐り卵のような独自の口臭にも少なからず効果をもたらすだろうと、希望的足取りでバスルームへ向かう。

「ジャー、ジャボボ、ボボッジャ、ジョボジャ」

「今日はいまいちだが、昨日は歌舞伎の効果音として使えそうな風情あるリズムを刻んでいたな」

狭い肌色のユニットバスルーム内トイレで先ほどのジャスミンティーに瓜二つの水分を途切れ途切れ排出しながら昨日の朝を懐かしむ。


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