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Syd Barrett / The Madcap Laughs

 シド・バレットのファースト・アルバム「帽子が笑う...無気味に」(1970)を聴いてます。昔の日本盤の邦題で「気狂い帽子が笑っている」というとんでもないのもありましたが、さすがに今は問題ありです。しかし音そのものは変えるわけにもいかず、今も昔も「ヤバイ」としかいいようがないサウンドが詰まっております。

 元ピンク・フロイドでソフト・マシーンのメンバーが参加しているという豪華といえば豪華なメンバーが彼の奇怪な曲を演奏してますが、それで「この程度かよ」と思わせる程のヨレヨレしたまとまりの無いサウンド。豪華メンバーというのも今だから言えることであって、要するに「お友達レベル」のミュージシャンが「しょうがねぇ、付き合ってやるか」と厄介なレコーディングに渋々参加した感も。

 そもそもシド本人も、拍子とか小節数とかテンポとか全然考えてないみたいだし、イントロとかサビとかフェード・アウトとか、そういうのもなく、どの曲も、ほとんどテキトーに始まってテキトーに終わります。でも、シド自身はアヴァンギャルドなものを作ろうという意識はさらさらないみたい。結局、無我夢中で作り上げたシド必死の「ポップ」の集大成が、この奇跡のファーストなのです。

 シドにとってポップというのは、唯一世間と自分との間に接点を持てる取っ掛かりだったに違いありません。だから、その場所を失ってしまってからの彼は、文字通り「あっちの世界」に入っちゃったわけです。他人からみたら「狂気の天才」で片付け、それをネタにひと儲けという感じなのでしょうが、本人にしてみれば、ただの悲劇でしかない。それだけに、このアルバムは、突出した才能あるポップ・スターが世間から疎外されていく瞬間を捉えた稀有なドキュメントともいえます。

 2曲目の「むなしい努力」という曲を聴いてください。タイトルからして泣けますが、何といってもサウンド。おそらくバックのミュージシャンも「ほんとにコレでいいの!?」と思っていたに違いないヨレヨレな演奏が涙を誘います。続く「ラブ・ユー」のイントロのコードも本当にこれであってるの!?

 アルバム後半も気力も体力も失せたかのように、必死で演奏するフロイドやソフツのメンバーたち。当のシドも、ギターを弾いてメロディを歌うも、声がひっくり返って「ゴメンゴメン」と誤りますが、そのミスった様子まで、しっかりアルバムに録音されています。初ソロだというのに、こんなことでいいのでしょうか。いや、いいんです。やりたい放題やらせたスタッフ側の判断が、結果的に何年も人々に語り継がれる迷ロック・アルバムになったのですから。

(2005.6.22)

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