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投資銀行の実務で役立つ実践ガイド『Investment Banking』

ビジネススクールで教えられる内容はファイナンス理論に偏重しがちで、投資銀行の現場で行われている業務とのギャップがあり、それを金融業界に入ったばかりの新人が埋めるのは非常に難しい。

こうした理由から新人が投資銀行業務について学ぶために書かれ、今や世界で25万部以上、200以上の大学で使用されている教科書の邦訳『Investment Banking 投資銀行業務の実践ガイド』が翔泳社から発売中です。

発売前から金融業界を中心に注目を集めていた本書は、投資銀行をはじめとする金融機関において要となるバリュエーション(企業価値評価)、レバレッジド・バイアウト(LBO)、M&A(企業の合併や買収)、IPO(新規株式公開)の実務をケーススタディで解説しています。

本書の特典として財務モデルをExcelファイルで提供しているので、自分でExcelを触りながら実践的に業務ノウハウを身につけることができます。新入社員や転職したばかりの方、これから金融業界で働きたいと考えている方におすすめですが、ファイナンスのプロにも役立つ内容です。

今回は本書が気になる方のために、Perella Weinberg Partnersの創業者パートナーであるジョセフ・R・ペレラ氏による「序文」と、著者のジョシュア・ローゼンバウム氏とジョシュア・パール氏が本書を著した理由と狙いについて語った「イントロダクション」を抜粋して紹介します。

◆本書の目次
第1部 バリュエーション
 第1章 類似会社比較分析
 第2章 類似取引比較分析
 第3章 ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)分析
第2部 レバレッジド・バイアウト(LBO)
 第4章 LBOの基本
 第5章 LBO分析
第3部 M&A
 第6章 セルサイドM&A
 第7章 バイサイドM&A
第4部 新規株式公開(IPO)
 第8章 IPOの基本
 第9章 IPOプロセス

◆著者について
ジョシュア・ローゼンバウム(Joshua Rosenbaum)

RBCキャピタルマーケッツのマネージングディレクター。M&A、コーポレートファイナンス、キャピタルマーケットに関する取引のオリジネーション、ストラクチャリング、アドバイザリーを手がける。UBSインベストメント・バンクや国際金融公社(IFC)を経て現職。

ジョシュア・パール(Joshua Pearl)

ヒッコリーレーン・キャピタルマネジメント創業者、CIO。これまでにブラーマン・キャピタルでマネージングディレクターを務めたほか、UBSインベストメント・バンクでLBOやリストラクチャリングなどを手がけた。

◆訳者について
森生 明(Akira Morio)

グロービス経営大学院教授。1983年京都大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。86年ハーバード・ロースクールにて修士号取得。91~94年ゴールドマン・サックスにてM&Aアドバイザー業務に従事。米国上場メーカーのアジア事業開発担当、日本企業の経営企画・上場担当を経て独立。西村あさひ法律事務所およびベンチャー企業の経営顧問・外部役員を務める。著作に『バリュエーションの教科書』(東洋経済新報社)、『MBAバリュエーション』(日経BP)、『会社の値段』(ちくま新書)がある。

序文
ジョセフ・R・ペレラ(Perella Weinberg Partners 創業者パートナー)

学校教育に批判的なマーク・トウェインはかつてこう言った。

「教室での授業に自身の教育を邪魔されないようにせねばならない」――。

この言葉は、投資銀行業務の核心を突いている。バリュエーション(企業価値評価、valuation)、取引内容・条件(terms)、交渉、複雑に絡み合うディールをこなせるようになるには、まずはやってみて悪戦苦闘してみる必要がある。

真に優れたファーム(企業組織)やディールメーカーは、世代を超えて知識や創造性を継承する徒弟文化を通じて生み出されてきた。インベストメントバンカーや金融のプロを育成する仕事は、全力投球を必要とするディールの特質及び「アート」と「サイエンス」の絶えざる進化により複雑さを増している。

それゆえに私は、ジョシュア・ローゼンバウムとジョシュア・パールが新世代のバンカーの育成を率先して行っていることに、大きな期待を寄せている。投資銀行業務の多くの側面を世界最高峰の大学やビジネススクールでさえも教えることができない中で、バリュエーションやディールプロセスをわかりやすく文書化した彼らの貢献は特筆すべきである。

本書は、インベストメントバンカーを志す者だけでなく経験豊富な者に対しても、金融の取引現場で役立つ、比類のない実務教育を提供している。

マーク・トウェイン流の「修羅場経験」をしつつ「やりながら学ぶ」教室では、バリュエーションの基本を忠実に守り、鋭い判断力を持つことが要求されるが、これらは高くつくミスや不必要なリスクを避けつつ取引の質を向上させるために必要なテクニックである。

50年にわたる私のウォール街経験から、バリュエーションが投資銀行業務の核心であることは明白であり、論理的で説得力のある方法で事業を正しく評価する能力はバンカーの必要資質である。この論理と根拠付けは、クライアントと交渉相手の両者を奮い立たせ、ディールメイキングに勢いと納得感をもたらすものである。

本書は、M&A、IPO、投資の場面で重要なこと、すなわち事業や取引にどれだけの価値があるかという問題について体系的なアプローチを提供する。それだけでなく、もっと微妙な課題、つまりいくら支払うべきか、どう取引を成立させるか、などにアプローチするための枠組みを提示している。

バリュエーションに関する包括的な参考書がないため、取引の基本及び機微はバンカーからバンカーへ、ケースバイケースで口頭伝承されてきた。本書は、投資銀行業務におけるアートとサイエンスを体系化し、理論と実践の架け橋となるべく、バリュエーション手法の基本をステップごとにわかりやすく解説している。

投資銀行業務に携わる多くのベテランは、新人にとって適切で実践的なマニュアルがないことをよく嘆いている。実際、バリュエーションやM&Aに関するファイナンス関連の書籍のほとんどは学者によって書かれており、数少ない実務家の書籍は、取引を成立させるために使われるテクニックの基本や実践よりも、ドラマチックな闘いやドタバタ話の紹介になりがちである。

本書は、インベストメントバンカーや金融プロフェッショナルの実務に携わる人々にとってこれまで欠けていた部分を補うものであるのみならず、ファイナンスの知識がない人でも十分に理解できるように構成されている。

私たちが不確実で不安定な時代――ウォール街の伝説的な金融機関の多くを破綻に追い込むような――に生きているのは事実である。しかし、高い技術的専門性を有する熟練した金融プロフェッショナルの必要性は、長期的に変わらないであろう。企業はいつの時代も、市場の荒波を航行し価値創造の機会を手に入れるにあたり、経験豊富で自主性のあるプロフェッショナルにディールの分析、ストラクチャリング、交渉、クロージングについて助言を求め続ける。

ローゼンバウムとパールは、慎重であるべし(=デューデリジェンス)という基本に立ち返り、成長性や収益性やリスクを評価する上で、根拠ある現実的な前提を用いることを提唱している。金融のプロフェッショナルを目指す世代に適切なスキルと考え方を身につけさせようとする彼らを通じて、より明るい経済の未来を実現するための強固な基盤が築かれるであろう。

イントロダクション

常に進化し続けるファイナンスの世界では、しっかりとしたテクニカル基盤が成功のための不可欠なツールである。しかし、この世界はスピードが求められるため、コーポレートファイナンスの生命線であるバリュエーションとディールメイキングをきちんと体系化するヒマが誰にもなかった。

そこで我々は2009年、自分たちがウォール街で働きたいと思っていた頃にあればよかったと思う本を著すことにした。

『Investment Banking』は、金融業界の中心にあるバリュエーション実務をバンカー自身がとっつきやすく、かつ本格的に解説したものだ。本書の狙いは、理論重視になりがちな最近のファイナンスの文献と現場実務のギャップを埋めることにある。

金融界がリーマンショック後の大不況後のニューノーマルに適応していく時期、第2版の内容を今日の環境に即して再確認する意義は大きい。M&A、資本市場、レバレッジド・バイアウト(LBO)、新規株式公開(IPO)、その他の株式投資の機会におけるバリュエーションとデューデリジェンスのベースは不変だが、環境は常に進化している。

したがって、財務予測、割引率、取引倍率(マルチプル)、レバレッジ水準、資金調達条件など、成長性とリスクを評価するためのより現実的な前提のアップデートが必要である。

バリュエーションは常に、長年培われてきた「サイエンス」に加えて多くの「アート」を必要とするが、「アート」の部分は変化する市場の発展や状況に適応していかねばならない。そのため、IPOに関する2つの章を新たに加えるなど、内容を適宜更新している。

本書の出発点は、ウォール街で職に就きたいと考えた学生の個人的な体験にある。我々二人はそれぞれに投資銀行のアソシエイトやアナリストの座をめぐる就活プロセスを通じて、現場実務世界でのバリュエーションや財務分析が、教室での学びと別物であることに気づいた。これを特に痛感したのが採用面接プロセスのうちテクニカルな知識を問われる部分で、ここで何百人もの優秀な候補者たちがふるいにかけられている。

この現実に直面し、我々はウォール街で使われているバリュエーションの手法の実践的なハウツーガイドを探し求めたが、それは徒労に終わった。そこで投資銀行、プライベート・エクイティ(PE)ファンド、ヘッジファンドで働く友人や知人に相談し、様々な情報源から断片的に情報を集めたが、思うような準備ができなかったのは言うまでもない。

幸運にも内定を得ることができたが、このプロセスは我々に深いインパクトを残した。実際、勉強するためには自分で資料を作るしかなく、その資料はその後も改良が加えられて進化を続け、この本のベースとなっている。

ウォール街に入った我々は、インベストメントバンカーとして必要なスキルを身につけるためのファイナンスと会計の詰め込み型訓練プログラムを受けた。しかし入社して数ヶ月もすると、そのトレーニングの限界が見えてきた。実際のクライアントの状況や案件は複雑であり、市場環境・会計基準・テクノロジーは進化していくので、我々の知識やスキルではかなわない。業務をこなすには先輩に相談するほかないのだが、皆が業務に追われている中で時間を割いてもらうのは至難の業だった。

このような現実に照らし、長年の「ベストプラクティス」と「ディール経験」に基づく信頼できるハンドブックの有用性は計り知れない。

そこで、ウォール街でキャリアを積もうとする大学生や大学院生、金融業界への転職を考えている人たちの一助となるよう本書を制作したのだが、同時に本書は既存の金融プロフェッショナルにとっても重要な参考書となっている。

金融の仕事は専門性が高いためスキルセットのギャップが顕著に表れる。多くのプロフェッショナルが継続的にスキルを向上させ、知識の幅を広げ、洗練させることを望んでいる中、本書は、ウォール街企業の公式な研修プログラム及び非公式なOJTで非常に有用だと証明されている。

多くのPEファンドやヘッジファンドが、投資担当者や主要な投資先の幹部のトレーニングに本書を利用している。これらのプロフェッショナルの多くはコンサルティングや事業会社出身であり、ファイナンスの素養を持たない。

さらに、バイサイドの投資会社(機関投資家)の大半は社内に研修プログラムを持たず、OJTに大きく依存している。よって本書は、これらの企業に就職を希望する人たちの参考書としても役立っている。

また、事業開発部門、M&A部門、財務・経理部門などの企業内プロフェッショナルにとっても、本書は必要不可欠なツールである。これらの専門家は、コーポレートファイナンスやバリュエーションに関わる取引を日常的に担当しており、投資銀行とともに様々なM&A取引(LBOや関連するファイナンスを含む)、IPO、事業再編、その他の資本市場取引に携わっている。

加えてM&Aやコーポレートファイナンスなどのアドバイザリー業務に携わる弁護士、コンサルタント、会計士の方々にも、本書はより深い理解を提供できるものと確信している。

金融のグローバル化が進む中、本書は北米以外の国でも十分に通用するようデザインされている。アジア、ヨーロッパ、中南米、インド、中東などの市場でクロスボーダー取引に携わってきた我々は、世界中で優秀な人材が求められていることを実感している。

本書は、これらの市場におけるファイナンスの専門家にとっても、貴重なトレーニング教材、信頼できるハンドブックとして重要なニーズを満たせると確信している。


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