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「観る将」が観た第31期銀河戦決勝トーナメント2回戦 藤井銀河vs千田七段

12月7日に、銀河戦決勝トーナメント2回戦第2局が放映されました。1回戦で斎藤(明)五段を降した藤井聡太銀河と、西川六段を破った千田翔太七段の顔合わせとなっています。

千田七段は2013年プロ入りの29歳で、9月末に中村真梨花女流三段と入籍したことを発表したばかりです。現在B級1組で昇級争いしている強豪で、朝日杯で3連覇を目指していた藤井銀河(当時七段)を破って優勝した経験があり、NHK杯でも準優勝するなど早指し棋戦でも実績を残しています。AIを使った序盤研究に定評があり、三段時代の藤井銀河にAI研究を勧めたことでも知られています。
両者の対戦成績は藤井銀河の4勝2敗ですが、直近の対局は21年度の順位戦B級1組で千田七段が勝っています。


千田七段の研究手順

振り駒で先手となった千田七段が角換わりに誘導し、銀を上がる前に▲4六歩と突く趣向を見せます。藤井銀河は玉を4筋に上がり、千田七段が飛先の歩を交換すると、△4七角と打ち込みます。角を合わせると角交換後に飛銀両取りを狙う筋があるので、千田七段が▲3八銀と上がって馬を作らせると、藤井銀河は△2三銀と上がって飛車を追い返して銀冠の形を作ります。後手が馬を作って好調に見えますが、AIの評価値は1歩を手持ちにしている千田七段の55%となっています。

じっくりした駒組み

お互いに駒組みに戻り、藤井銀河が7筋の歩を交換してから△7四馬と銀に当てると、千田七段は▲5六銀と上がって受けます。藤井銀河が△6三銀と上がって陣形を整えると、持ち時間を使い切った千田七段は▲3七桂と攻撃態勢を作ります。藤井銀河は△4四歩と突いて備え、千田七段が▲7六歩と自陣の傷を消すと、少考して▲4三金右と手厚い陣形を作ります。

千田七段の仕掛け

千田七段は考慮時間を1回使って2筋の歩を合わせて桂交換し、藤井銀河が△3三同玉と取ると、更に考慮時間を3回使って▲7五歩と突いて馬に当てます。藤井銀河も持ち時間を使い切って同馬と応じると、千田七段は王手で▲5一角と打ち込みます。藤井銀河が考慮時間を1回使って△4二金引と受けると、千田七段は▲7六銀と上がって馬に当てます。AIの評価値は藤井銀河の65%と傾いてきました。

千田七段の馬

藤井銀河は△7四馬と引き、千田七段が更に▲7五歩と馬を追うと、△6三馬とかわします。千田七段は考慮時間を使って▲9五角成と馬を作り、藤井銀河が△2二玉と玉形を整えると、▲4五歩と仕掛けます。藤井銀河は考慮時間を使って銀で取り、千田七段が考慮時間を使って飛車取りに▲7四桂と打つと、△8三飛と浮いてかわします。

金捨てで飛車を救出

千田七段は更に考慮時間を使って▲5一馬と潜り、藤井銀河が△5四馬と先受けすると、4筋の銀を交換して▲8四銀と打ち飛車を捕獲します。藤井銀河は△5二金と捨て、馬で取らせてから△8四飛と銀を取って飛車を助けます。千田七段が3筋の歩をぶつけると、藤井銀河は考慮時間を使って8筋の歩を交換して攻め合います。

千田七段の勝負手

千田七段が最後の考慮時間まで使い切って▲8七歩と受けると、藤井銀河は△7六飛と銀を食いちぎり、△7六同馬と金を取って2枚替えします。千田七段は3筋の歩を取り込み、藤井銀河が考慮時間を3回使って△6六馬と王手しつつ自陣にも利かせると、持ち駒を温存して▲7七金と上がって馬に当てる勝負手を放ちます。AIの評価値は藤井銀河の99%に跳ね上がります。

大逆転か!

AIは9筋に銀を捨てて退路封鎖する手を推奨していましたが、藤井銀河は考慮時間を1回使うも発見できず、△5五馬と引いて飛車に当てます。千田七段は温存した金を▲3三金と王手で打ち込み、藤井銀河が△1二玉とかわすと、AIの評価値は千田七段の84%と逆転を示しています。

正確な受け

AIは馬を引いて3筋への利きを加える手を推奨していましたが、30秒将棋の千田七段は▲2三金と銀と交換してから▲4一馬と金に当てます。藤井銀河は△2二金打と守り、千田七段が▲3二銀と数を足すと、金銀交換してから再度△2二金打と馬に当てます。後手玉は受け間違えれば頓死という状態が続いていますが、藤井銀河は正確に受け続け、AIの評価値は再び藤井銀河の95%と大きく振れています。

藤井銀河の反撃

馬を逃げては勝ち目のない千田七段は▲8二飛と打ち込んで紐を付け、藤井銀河が金で馬を取ると、▲3二同飛成と竜を作って王手します。藤井銀河が銀で合い駒すると、千田七段は▲2一金と打って後手玉に迫ります。藤井銀河は考慮時間を1回使って△7六桂と王手し、千田七段が玉を9筋に寄ってかわすと、△8八銀と打って縛ります。

電光石火の寄せ

千田七段が▲1一金からの連続王手で竜と馬を交換し、▲7六金と桂を取って下駄を預けると、藤井銀河は△8九銀不成と王手で捨てて先手玉を下段に落とし、△6七角~△3九飛と王手して、合い駒を使わせてから△6八銀と詰めろを掛けます。千田七段は▲6七銀と角を取りますが、藤井銀河は△7九竜から即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は千田七段の研究と思われる手順に藤井銀河が飛び込み、いったんは膠着状態となりました。千田七段は考慮時間をつぎ込み、馬を作って攻め込みましたが、藤井銀河は強く反発して飛車と金銀の2枚替えで勝勢となりました。千田七段の勝負手に藤井銀河もチャンスを逃して大逆転かと思われましたが、既に考慮時間を使い切っていた千田七段も後手玉を寄せ切れませんでした。最後は正確な受けで猛攻を凌いだ藤井銀河が電光石火の寄せを魅せ、140手の激闘に終止符を打ちました。
藤井銀河は優勝に向けてまた一歩前進し、次の準決勝では渡辺和史六段と杉本和陽五段の勝者と顔を合わせます。本局では一瞬危ない場面もありましたが、残り2局に勝って連覇を達成することを期待しています。


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