見出し画像

第5回ABEMAトーナメント 予選Bリーグ第一試合

5月7日に、ABEMAトーナメントの予選Bリーグ第一試合が放映されました。過去の大会で勝負強さを発揮してきたリーダーが率いるチーム糸谷「乾坤一擲」と、優勝候補筆頭の呼び声高いチーム斎藤「シン エンジェル」の顔合わせとなりました。チーム糸谷は振り飛車党の若手黒沢怜生六段と西田拓也五段が入り、相手に的を絞らせないメンバー構成となっています。チーム斎藤は前回準優勝チームの木村一基九段と佐々木勇気七段で、隙のないチームとなっています。

一局目:糸谷哲郎八段 vs 木村一基九段

チーム糸谷はいきなりリーダーが登場します。先手の木村九段は相手の一手損角換わりを予想していましたが、糸谷八段は誘いに乗らず矢倉急戦のような駒組みとなります。木村九段が5筋の位を取ると、糸谷八段は奪還を目指して飛車を5筋に回します。木村九段は金取りに▲7五歩と伸ばして金を逃げさせ、銀を前進して桂を食いちぎります。木村九段も飛車を5筋に回し▲9七角と覗き、▲9五桂と打って後手の玉頭から総攻撃を仕掛けます。糸谷八段も角道を開けて反撃を試みますが、木村九段は冷静に歩で角道を遮断し▲7三歩成から寄せに入ります。作戦会議室では斎藤八段と佐々木七段が天使の羽を装備し、チームメイトを応援しています。糸谷八段は先手陣を攻撃して金を剥がし、自陣に投入する粘りを見せましたが、木村九段は角のラインを活かしつつ竜も作って冷静に寄せ切りました。
チーム糸谷:0勝 - チーム斎藤:1勝

二局目:西田拓也五段 vs 斎藤慎太郎八段

リードしたチーム斎藤はリーダーが登場し、関西で奨励会時代からよく知る2人の対決となりました。先手の西田五段が三間飛車に振り、斎藤八段が香を上がって穴熊を目指すと、角頭を狙って▲5六銀と上がって牽制します。斎藤八段がいったん左美濃に構え銀冠に組み替えると、西田五段は角を引いて7筋から攻め掛かります。斎藤八段は角と銀の連携で先手の飛車を追い返し、△6八歩と焦点の歩を放って飛車を走ります。西田五段は銀を取り、桂香を取られる間に▲4一銀~▲3二銀成と後手陣の金を1枚剥がします。斎藤八段は飛車を吊り上げ飛車取りに△5四桂と打ちますが、西田五段は頭を抱えつつ手抜いて▲4四歩~▲5三金と角桂両取りに打ち込みます。斎藤八段も強く応じて激しい駒の取り合いとなりましたが、最後は斎藤八段が△1七銀のタダ捨てから鮮やかに寄せ切りました。
チーム糸谷:0勝 - チーム斎藤:2勝

三局目:黒沢怜生六段 vs 佐々木勇気七段

両チームとも全員が1回ずつ登場し、子どもの頃からよく対戦したという2人の対決となりました。後手の黒沢六段が中飛車に振り、飛先の歩を交換します。佐々木七段が左美濃に構えると、黒沢六段は銀取りに△4五歩と突きます。佐々木七段が強く▲4五同銀と取ると、黒沢六段は飛車取りに△5五角と飛び出します。佐々木七段は飛車を1筋に寄せて凌ぎ、銀を交換して飛車取りに▲4二銀と打ち込みます。黒沢六段は飛車をかわして、金を取らせる代わりに△6七飛成と竜を作ります。佐々木七段が▲5七金打と竜を追い返すと、黒沢六段は端攻めに勝負を賭けます。佐々木七段が玉を右辺に逃がすと、黒沢六段は△5二金と自玉に迫る成銀を取ります。佐々木七段は▲5二同竜と後手玉に迫り、黒沢六段の粘りをかわして即詰みに討ち取りました。
チーム糸谷:0勝 - チーム斎藤:3勝

四局目:西田拓也五段 vs 佐々木勇気七段

好スタートを切ったチーム斎藤は、佐々木七段が連投します。先手の西田五段が三間飛車に振り、佐々木七段は左美濃に構えます。佐々木七段が銀冠への組み換えを目指すと、西田五段は6筋の位を取り2筋の歩を突きます。佐々木七段が△2五同歩と応じると、西田五段はためらいなく▲2五同桂と角取りに跳ねます。佐々木七段が角を上がって受けると、西田五段は4筋の歩を突いて角のラインを活かして攻め込みます。佐々木七段は銀をぶつけて交換し、角もぶつけて交換します。西田五段は1分程考え金取りに▲4四歩と伸ばし、佐々木七段が飛車取りに△5三金と寄ると、構わず▲4三銀と打ち込みます。佐々木七段は飛車を取り、西田五段は銀を金と交換して馬を作ります。佐々木七段は△2七歩から寄せにいきますが、西田五段に▲2九歩と受けられると後が続きません。西田五段が力強く▲5二金と打つと、佐々木七段は無念の投了となりました。
チーム糸谷:1勝 - チーム斎藤:3勝

五局目:糸谷哲郎八段 vs 木村一基九段

チーム糸谷は西田五段の勝利の流れに乗ってリーダーが出陣し、一局目と同じ顔合わせになりました。後手の糸谷八段が得意の一手損角換わりを採用し、お互いに腰掛け銀から銀矢倉の形に構えます。木村九段が飛車を5筋に回すと、糸谷八段は△2七角と打ち込みます。木村九段が少し考えて▲5四歩と突くと、糸谷八段も1分程考え銀で取ります。作戦会議室では黒沢六段が「良くなる可能性70%、悪くなる可能性30%」と話しています。木村九段は2分近く考えて▲4七角と打って後手の角を捕獲しにいきますが、糸谷八段は△3五歩と突いて援軍を送ります。糸谷八段は△7二角成と生還させると大きなため息をつき、木村九段は銀を前進して攻め込みます。糸谷八段が角取りに△6三銀と打つと、木村九段は後手の香頭に飛車取りで▲9二銀と打つ勝負手を放ちます。糸谷八段は冷静に飛車を逃げ、木村九段の攻勢を丁寧に受け止めます。最後は糸谷八段が△6九角から反撃し、上下から挟撃態勢を作って寄せ切りました。
チーム糸谷:2勝 - チーム斎藤:3勝

六局目:黒沢怜生六段 vs 斎藤慎太郎八段

連勝で勢いに乗るチーム糸谷は、エースと期待が掛かる黒沢六段が出陣します。先手の黒沢六段は初手に5筋の歩を突き、中飛車に振って美濃囲いに構えます。黒沢六段が▲7五歩と突くと、斎藤八段は2分近く考え△7四歩と反発します。黒沢六段がノータイムで歩を交換すると、斎藤八段は再び少考して角取りに△7六歩と打ちます。黒沢六段は9筋に角を逃がし、歩で取らせる代わりに▲7四飛と金を取ります。斎藤八段は銀で飛車を追い返し、△7七角成と桂を取って馬を作りますが、黒沢六段も▲7一銀~▲6二銀成で角を捕獲します。斎藤八段は成銀を取りにいきますが、黒沢六段は角を打って飛車と交換し▲8二飛と打ち込み後手陣に攻め込みます。時計の電子音に追われた斎藤八段は△7一金と飛車取りに打ちますが、黒沢六段は構わず▲4一金から寄せにいきます。斎藤八段は△8九飛と打ち込んで反撃しますが、黒沢六段はそのまま寄せ切りました。
チーム糸谷:3勝 - チーム斎藤:3勝

七局目:西田拓也五段 vs 佐々木勇気七段

両チームとも全員が1勝ずつ挙げる好勝負になってきました。四局目と同じ顔合わせとなり、西田五段は後手となりましたが前局と同様に三間飛車に振ります。西田五段は美濃囲い、佐々木七段も左美濃にしっかり囲います。佐々木七段は▲6八角と引き、角のラインに沿って銀を前進します。佐々木七段が▲6四歩と取り込むと、西田五段は△7九金と寄って飛車を6筋に回すスペースを作ります。振り飛車党独特の指し回しに、作戦会議室の斎藤八段から「ひぇー」と声が上がります。佐々木七段が▲2三歩と垂らしてから"と金"を作ると、西田五段は飛車を6筋に回して守りの銀で先手陣に攻め掛かります。佐々木七段は▲7九桂と守備駒を足しますが、西田五段は△6七歩成から飛車も切って清算し攻め込みます。佐々木七段は▲7五桂と飛び出し、角で取らせてから▲7九香と打つ受けの妙技を見せると、西田五段は9筋から端攻めして押さえ込みます。時間に追われた佐々木七段は必死に反撃して後手玉を引きずり出しますが、時間を残していた西田五段は冷静に凌ぐと桂香の攻めで寄せ切りました。
チーム糸谷:4勝 - チーム斎藤:3勝

八局目:黒沢怜生六段 vs 斎藤慎太郎八段

まさかの4連敗で後がなくなったチーム斎藤はリーダーが出陣し、チーム糸谷は決めて来いと黒沢六段を送り出します。六局目と同じ顔合わせとなり、先手の黒沢六段は前局と同様に中飛車に振ります。黒沢六段は角を交換してから5筋の歩も交換し、1歩手持ちにします。斎藤八段が左美濃から雁木に組み替えると、黒沢六段は5筋の歩を合わせて仕掛けます。斎藤八段は早くも残り時間が1分となりますが、黒沢六段は▲6五桂~▲7一角と流れるように攻めをつなぎ銀桂両取りに▲8二飛と打ち込みます。斎藤八段は自陣に角を打って粘りますが、黒沢六段はじっと▲6二金と打って攻め立てます。斎藤八段はもう1枚の角を△4五角と打ち、黒沢六段は飛車を取らせて銀を取りますが、後手陣が徐々にまとまってきたようです。黒沢六段は▲4四銀と打って角と交換し、▲5五角と打って攻めをつなぎます。斎藤八段は△4五馬と引き付けて守りに効かせますが、黒沢六段は角で桂を食いちぎり、▲2五桂から鮮やかに寄せ切りました。
チーム糸谷:5勝 - チーム斎藤:3勝

第一試合の結果

チーム糸谷は、3連敗後に怒涛の5連勝で大逆転勝利を収めました。特に若い振り飛車党の2人が、大駒を捨てて敵陣に切り込む思い切った攻撃で強豪を撃破し、2勝ずつ挙げてチームに勢いをもたらしたのが強く印象に残ります。リーダーの糸谷八段が強敵を相手に指し分け、第3回大会で活躍してリーダーがエースとして信頼する黒沢六段に加え、初出場で未知数だった西田五段も実力を示したことで、このチームが優勝候補の一角であることを再認識させる勝ちっぷりでした。
チーム斎藤はメンバーが3人とも初戦に勝ち、優勝候補の筆頭として最高のスタートを切りましたが、一度失った流れを取り戻すことはできませんでした。団体戦における勢いの怖さを痛感する結果となってしまいましたが、経験豊富な3人が揃ったチームであり、次戦での予選突破に期待したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?