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「観る将」が観た第71期王座戦挑決トーナメント準決勝 藤井竜王名人vs羽生九段

6月28日に王座戦挑戦者決定トーナメントの準決勝、藤井聡太竜王名人と羽生善治九段の対局がありました。藤井竜王名人はシードされて挑決トーナメントからの出場で、中川八段と村田(顕)六段を降して勝ち上がっています。羽生九段は、二次予選で千田七段と佐藤(康)九段を破って挑決トーナメントに進出し、久保九段と斎藤(明)五段を倒しています。

全八冠制覇を目指す藤井竜王名人にとって、最後に残された王座戦の挑戦権獲得まであと2勝となりましたが、過去唯一の全七冠制覇を成し遂げた羽生九段が阻止し、自らのタイトル獲得通算100期に向け前進することができるかという大一番になりました。両者の対戦成績は藤井竜王名人が11勝3敗と圧倒していますが、昨年度末に行われた王将戦七番勝負では羽生九段が様々な戦型を駆使して2勝し、歴史的名勝負となったことは記憶に新しいところです。


羽生九段が角換わり早繰り銀から先攻

振り駒で先手となった藤井竜王名人が角換わりに誘導し1筋の位を取ると、羽生九段は早繰り銀を選択し7筋の歩をぶつけます。藤井竜王名人が銀矢倉を組んで受けると、羽生九段は7筋の歩を取り込んでから銀を前進し、4筋の歩を取って戻ります。藤井竜王名人が歩を取らせる代わりに陣形を整え、26分の熟考で3筋の歩を突くと、羽生九段が次の42手目を30分程考えて昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王名人が4時間5分、羽生九段が3時間56分となっています。

藤井竜王名人が反発

羽生九段が昼休を挟む47分の長考で中央に前進していた銀を6筋に引くと、藤井竜王名人は33分の熟考で3筋に桂を跳ねて攻め合いを目指します。羽生九段が4筋の歩を突いて桂跳ねに備えると、藤井竜王名人は2筋の歩を突き捨て、銀で取らせてから4筋の歩を合わせて取らせます。藤井竜王名人が更に6筋の歩を伸ばすと、羽生九段は銀を5筋に浮いてかわします。

お互いに自陣への侵入を阻止

藤井竜王名人が▲4五桂と跳ねると、羽生九段は飛車を4筋に回します。桂を5筋に成り込むと飛車を成られてしまうので、藤井竜王名人が歩で桂を支えると、羽生九段も銀を4筋に引いて桂成を防ぎます。藤井竜王が飛車を下段に引いて自陣の傷を消すと、羽生九段は△5五角と打ち、先手の桂を支える歩を狙います。

藤井竜王名人の馬

藤井竜王名人は32分の熟考の末、金取りに▲8三角と打ち込み、羽生九段が金を5筋にかわすと、▲7四角成と歩を取って馬を作ります。羽生九段は角で桂を支える歩を取りますが、藤井竜王名人は金をぶつけて角を引かせ、再度歩を打って桂を支えます。羽生九段が次の64手目を30分程考えて夕休となりました。残り時間は藤井竜王名人が1時間22分、羽生九段が1時間20分と拮抗しています。AIの評価値は藤井竜王名人の54%とほぼ互角ですが、ABEMAでは先手の方が指し手がわかりやすいと解説されています。

羽生九段の猛攻

羽生九段が夕休を挟む65分の長考で残り1時間を切り、馬の頭に歩を打つと、藤井竜王名人は28分の熟考で残り1時間を切り、馬を引いてかわします。羽生九段は銀で4筋の桂を食いちぎり、角で7筋の銀を食いちぎり、取った銀を飛金両取りに△3八銀と打ち込みます。藤井竜王名人は飛車を6筋にかわし、羽生九段が銀で金を取ると、6筋の歩をぶつけます。

お互いに相手の攻め筋を阻止

羽生九段が金を取った銀を成り、飛車を追ってから6筋の歩を取ると、藤井竜王名人は馬で取り返します。羽生九段が歩で馬を追うと、藤井竜王名人は▲4六馬と引き、後手の飛車が攻撃参加するのを防ぎます。羽生九段も桂を9筋に跳ねて先手の飛車が8筋に回って成り込んでくるのを防ぐと、藤井竜王名人は自陣に銀を打って成銀に当て、後手からの攻めを催促します。両者とも相手からの攻め筋を消し、AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れ動いています。

再び羽生九段が攻勢

羽生九段は銀取りに桂を打ち、藤井竜王名人が成銀を取ると、△7六桂と銀を取って先手陣に攻め掛かります。藤井竜王名人は再度自陣に銀を投じて守りを固めますが、羽生九段は銀を打ち込んで王手し、先手陣の金を剥がします。羽生九段は更に8筋の歩を突き捨ててから金銀交換し、力強い手つきで飛車取りに△7六銀と打ちます。

ついに傾く評価値

藤井竜王名人は飛車を7筋にかわしますが、羽生九段は8筋の突き捨てで空いたスペースに金を打ち込んで王手し、更に銀で桂を取って詰めろを掛けます。藤井竜王名人は玉を6筋に早逃げするしかありませんが、羽生九段は王手で先手玉を追い、銀を剥がしてから馬取りに△5四桂と打ちます。先手陣には金駒がなくなりましたが、右辺が広く開けており、AIの評価値はついに藤井竜王名人の73%と傾いてきました。

藤井竜王名人の正確な受け

馬の逃げ場所を間違えると評価値を大きく戻すことになりそうですが、藤井竜王名人が正確に2筋に引いてかわすと、羽生九段は取られそうな銀を引いて飛車に当てます。藤井竜王名人は飛車を後手陣に飛び込み竜を作りますが、羽生九段も△4五飛と自陣で働きの弱かった飛車をようやく攻撃に参加させます。藤井竜王が歩で飛車の利きを止めると、1分将棋に突入した羽生九段は歩を合わせて攻め合います。

端の位の効果

藤井竜王名人は竜で王手し、羽生九段が玉を2筋に上がってかわすと、4筋の歩を取ります。羽生九段はこの歩を桂で取って王手し、更にこの桂を成り捨てて飛車の利きで王手します。藤井竜王名人が銀で合い駒すると、羽生九段は更に王手を続けましたが、1筋の位の効果で広い右辺に逃げ込んだ先手玉は捕まりません。まだ後手陣はすぐに詰まされる状況ではありませんが、攻防共に見込みなしと判断した羽生九段は潔く投了を告げました。

まとめ

本局は後手の羽生九段が藤井竜王名人の角換わりを受けて立ち、1筋の位を取らせる代わりに早繰り銀で先攻しました。藤井竜王名人も桂を跳ねて反発しましたが、羽生九段が飛車を回して受けるとお互いに相手の攻め筋を消し合い、終盤の入り口までほぼ互角の評価値が動かない熱戦となりました。羽生九段は桂を駆使して攻め込み先手玉を孤立させましたが、正確に応じ続けた藤井竜王名人が受け切りました。
藤井竜王名人は自身初の王座戦挑戦者決定戦進出となりましたが、「今期も苦しい将棋が多くて、内容的には課題が多いと感じています」と、いつもと変わらず反省の弁を述べています。挑決の相手は渡辺九段vs豊島九段の勝者となり、いずれにしても強敵ですが、ここまで来たら全八冠制覇への挑戦権獲得を期待したいと思います。

王座戦は、日本経済新聞社と日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「王座戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza)

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