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「観る将」が観た第70期王座戦挑戦者決定戦

7月25日に第70期王座戦の挑戦者決定戦が行われました。無冠返上を目指す豊島将之九段と、タイトル初挑戦を狙う大橋貴洸六段の顔合わせになっています。豊島九段は挑決トーナメントから登場し、近藤(誠)七段、丸山九段、木村九段を降して勝ち上がってきました。大橋六段は二次予選で稲葉八段等を破って挑決トーナメントに進出し、1回戦で藤井竜王を倒して勢いに乗り、千田七段、石井六段を降して勝ち上がっています。


大橋六段の趣向

振り駒で後手となった大橋六段は角道を止め、左高美濃を築きます。大橋六段は居玉のまま更に△5四金と繰り出す趣向を見せ、7筋の歩を突き捨ててから金を6筋に寄せ、飛車を7筋に寄せて先手の玉頭に戦力を集めます。普段、序盤はほとんど時間を使わない豊島九段ですが、あまり見かけない作戦に小刻みに時間を使って慎重に駒組みを進めます。

角金交換で互角を維持

豊島九段は3筋の歩を突き捨て、更に歩で角頭を叩いて引かせてから飛先の歩を交換し、五段目に引いた飛車の横利きを守りに利かせます。大橋六段が34分熟考して歩で角頭を叩くと、豊島九段は▲9五角と飛び出します。大橋六段が9筋の歩を突いて角を捕獲すると、豊島九段は飛車の利きに角を差し出し、取らせる代わりに自陣に迫る金を飛車で取ります。大橋六段が銀で飛成を防ぐと、豊島九段が次の51手目を考慮中に昼休となりました。駒割りは角金交換ですが、AIの評価値は全くの互角です。各5時間の持ち時間の内、残り時間は豊島九段が3時間36分、大橋六段が3時間28分と拮抗しています。

飛車の制空権を争う攻防

豊島九段が昼休を挟む43分の熟考で飛車を2筋に戻すと、大橋六段は飛車を3筋に回して歩を補充します。豊島九段は更に30分考え2筋の歩を合わせ、同歩と取らせて後手の飛車が2筋に回れないようにしてから飛車を8筋に回します。大橋六段が銀を上がって飛成を防ぐと、豊島九段は飛車を4筋に回します。大橋六段が自陣に歩を打って受けると、豊島九段は歩で飛頭を叩いて後手の飛車を7筋に追い、更に飛頭を叩いて一段目まで引かせます。豊島九段は飛車に当てて▲8二金と打ち、桂を拾います。AIの評価値は豊島九段の58%と少し傾いてきました。

大橋六段の長考

大橋六段が104分の長考で香を逃げると、豊島九段も24分の熟考で角取りに桂を打ちます。大橋六段が角を上がってかわすと、豊島九段は空いたスペースに桂取りで歩を打ちます。大橋六段は6筋の歩を突いて桂を打たれる傷を消し、豊島九段が桂を取ると飛車取りに△5四角と打ちます。大橋六段の残り時間が1時間を切り、AIの評価値は豊島九段の72%と更に傾いてきました。

桂香の攻め

豊島九段は金と桂で飛車を追い、香を取ると角取りに▲5六香と打ちます。大橋六段も6筋から反撃しますが、豊島九段は構わず角を取ります。大橋六段は歩で金を1枚剥がしてから自陣に迫る香を取り、豊島九段が次の89手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は豊島九段の93%と大きく傾き、残り時間は豊島九段が57分、大橋六段が45分となっています。

盤石の寄せ

夕休が明けるとすぐ、豊島九段が後手玉のコビンに歩を垂らすと、大橋六段は自陣に香を打って守ります。豊島九段がじっと成桂と金を寄って後手玉に迫ると、大橋六段は先手陣の金頭に歩を打ちもう1枚の金を剥がします。大橋六段は飛車を6筋に寄って王手を掛けますが、豊島九段はノータイムで玉を引いてかわします。大橋六段は金を寄って玉の退路を作り、早逃げして粘りますが、豊島九段は"と金"を作って金を剥がし後手玉を追い詰めます。最後は豊島九段が角を犠牲に必至を掛け寄せ切りました。

まとめ

本局は後手の大橋六段が金を攻めに繰り出す趣向を見せましたが、豊島九段は飛車を中段に浮き角を犠牲に後手の攻めの金を奪って対抗しました。両者の浮き飛車が目まぐるしく左右に動いて攻撃の糸口を探りましたが、豊島九段は後手の飛車を下段に追い返し、8筋に打った金を成桂とともにじわじわと後手玉に近づけ寄せ切りました。
これで豊島九段は王位戦に続いて新鋭のタイトル初挑戦を阻み、挑戦者に名乗りを挙げました。永瀬王座と豊島九段と言えば、2年前の叡王戦の激闘が記憶に新しいところですが、再び手に汗握る熱戦になることを期待したいと思います。

王座戦は、日本経済新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「王座戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza)

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